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エピローグ・わたしの素敵な旦那様


ダイダイは、ぶるぶる震えながら、ダクス・ラルズ家の応接室の一つで、事業提携の締結書を読んでいる。

「なんだ、これは」

震えは怒りからだ。

確かに、締結書にサインした。

ブラッドリー家領での工場建設と事業拡大による利益配分が書かれていたはずた。融資を8割ダクス・ラルズ家がもつという破格の扱いだった。返済も10年という、長期間待ってもらえる。

足元を見られるかと思っていたが、想定される純利益の7%を求められた。

それが、数字が変わっている。

「利益50%の取り分と、5年の返済期限とはどういうことだっ!」

テーブルの上の控えの書類を確認中に、数字の改ざんに気付いたのだ。

「・・・・・分かりません。確かに、サインされたときは、数字は違っていました。二重書類だったとしか」

「あの時、大量にサインさせられた。一応目を通していたが、見落としていたかもしれない」

グラッセが何度見ても、ダイダイの署名が書かれている。

「もしくは、サインを偽造されたか。抗議しましょう」

グラッセが青い顔のまま言う。

用意された書類は全て、ダクス・ラルズ家が用意している。

どうとでも出来るのだ。

しかし、署名まで偽造なんて・・・・・


「いや、違う」

ダイダイが青い顔のまま、呟いた。

「え?」

「私の筆記と思ったが、これは、ミリの字体だ」

「何を言って・・・・・」

「・・・・・やられた。ミリに、私のサインの真似をさせたことがある。ミリは、今、実務もさせてくれているそうだ。契約書の作り方を習っていて、嫡男が課題を出してくるからその通りの作っていると・・・・・」

ダイダイ侯爵になったつもりで、サインしてごらんとでも言ったのだろう。

何にでも真面目なミリは、一生懸命作ったはずだ。

ミリは私の恋文を代筆するために、字体をマスターしていた。

「それに、ダクス・ラルズ家の紋章を入れたというのですか?」

赤い紋章の捺印は僅かに魔力を感じる。

『正式』な契約書だ。

こちらが騒げば、すぐに偽装とわかるだろう。

しかし・・・・・

「・・・・・私が騒げば、ミリが罰せられる」

これは、遊びの範囲ではない。

誰かか罰せられる。

馬鹿みたいな簡単な数字になっているのは、練習だからだ。

これでは、利益を上げ続けなければ、大赤字だ。上げ続けても、ほぼブラッドリー家には利益はない。




白銀の髪を持つ少年は、青い眼をチャシャネコのように細め、楽しそうにダイダイを見た。

イツは、にこにこと微笑んでいるが、目の奥が笑っていない。

「よい取引が出来て、こちらも有意義な時間が過ごせました」

いらあと、ダイダイはイツを睨み付けた。

「・・・・・この契約書」

「ああ、確認して、頂きましたか?良かった。ミリもブラッドリー家と取引できると喜んでいましたよ」

「・・・・・・」

数字の件は、何も言わなかった。

こんな嫌がらせをするのは、こいつしかいないからだ。

「そうそう、最初の一年目で、きちんとした数字を出されてくださいね。担当は、それから選定させて頂きます」

「ミリがなる予定だろうっ!?」

「ダイダイ様、言葉遣いっ!」

ダイダイは、イツに対して、敵対心しかない。

殴りかかりそうなダイダイに、グラッセが引きずられる。

笑いながら、イツがグラッセによいよいと手をふる。

「だって、貴方、ミリに対して、ヘタクソなんだもの」

肩をすくめるイツに、ダイダイが殴りかかろうとしてグラッセ達に押さえられる。

「ヘタクソだとっ!」

「ダイダイ様っ!やめてください!うちが潰されるっ!」

「僕、ミリの後見人だから、ミリが幸せになるのが一番と思ってます。口説けないからって、泣き落としで、婚約を結ばせるなんて」

「・・・・・い、嫌がってなかったっ!お前が奪わなければっ」

図星のせいか、暴れだしたダイダイを護衛達が止めている。

「駄目ですって!ダイダイ様っ!ミリ、婚約の件も、仕事と思ってたじゃないですかっ!やり方が、本当にヘタクソですって」

周りも残念そうに、ダイダイを見ている。


「ダイダイ様?」

呼ばれたのか、ひょこりと扉の外からミリが覗いた。

「ミリ・・・・・・」

イツがつかさず、ミリに近づいた。

「ミリ、ダイダイ侯爵が地元に工場を建てるそうだよ。流通が活発になるよ。人が増えて、増益になる」

「すごい、ダイダイ様、流石です」

嬉しそうにミリがダイダイを見つめた。

「・・・・・・」

ミリの瞳には、情景しか写っていない。

ダイダイの自業自得だが、決して疑わない。

イツがミリの横に立った。

「ミリ、ダイダイ侯爵は、今から3年間死ぬ気で働いて、純利益を上げ続けて、僕の主力の取引相手に台頭するそうだよ」

「台頭?」

「ミリは、仕事が出来るダイダイ侯爵が、大好きだよね。いつも格好いい格好いいと言ってたもの」

「はい。ダイダイ様は、仕事も出来て格好いいんですよ」

臆面もなく、嬉しそうにミリは言う。

少年の格好をしていても、可憐さがにじみ出る。

「ミリ・・・・・なんて可愛い」

ダイダイが瞳を潤ませて、ミリを見ている。


にやりとイツが笑った。

「ね、格好いいダイダイ侯爵。その書類通りに出来たら、ミリの結婚相手候補に加えてあげますよ。勿論、出来るでしょう?」

「当たり前だっ!見てろよ、白坊!負けないからなっ!」

ダイダイがイツを怒鳴り付けると、大股で歩きだした。

ミリがぱちくりした目で、イツを見た。

「喧嘩をされたのですか?」

「まさか。ダイダイ侯爵の決意表明だよ」

「ダイダイ様が、あんなに大声で話されるなんて初めて見ました」

「仲良しなんだ」

イツがうそぶく。


ダイダイの後ろ姿を、ミリが嬉しそうに見つめている。

「・・・・・ミリは本当に、ダイダイ侯爵に可愛がられていたのだね」

「はい。とても優しいのですよっ」

嬉しそうにミリが言う。

「ミリ・・・・・、あの男でいいのかい?」

イツの言葉をひどく大人びている。

「?ダイダイ様の事ですか?」

「僕は、君の後見人になる。幸せを望んでいる。婚約をしたのだろう?偽装と言っていたけれど、そのまま、あの男と結婚してしまうかもしれないよ?」

その言葉に、かぁとミリが頬を赤らめた。

「・・・・それなら、とても素敵な事ですね」

まるで、可憐な花のように言葉を紡ぐ。

いつか、貴方の横に立てるなら。


イツが花のように微笑んだ。

「そう。ミリ、ダイダイ侯爵たちが帰るまで、接待しなさい。昔の知り合いばかりだろう。彼も喜ぶ」

「ありがとうございます、イツ様」

パタパタとダイダイの後ろ姿を、ミリが追いかけていく。



「さあて。ブラッドリー家の経済はどれだけ上がるだろうね」

「急激な成長は、綻びを産みます」

護衛は、無表情に呟く。

「それを補てんするのが、僕の役目だろう。ダクス・ラルズ家の後ろ楯が出来たんだ。充分、稼いで貰わないと」

イツは楽しそうに笑う。

働き方次第で、本物の書類はすげ替えて置こう。

しばらく、婿いびりだ。


花のように笑うミリは、なんて美しい女性なんだろう。

本当にダイダイ侯にもったいない。

「ミリは、ダイダイ侯よりずっと大人なんだね」

「女性は男性より、ずっと大人ですよ。イツ様も、よい方を見つけられてください」

藪蛇だと、イツが顔をしかめた。

廊下の先で、ダイダイの悲鳴が聞こえる。

ミリに密着し過ぎて、引き剥がされたのだろう。

「本当に、楽しみだ」

貴方が幸せに生きて行けるように。



お読みくださってありがとうございます。

R18BL 「白銀の道」シリーズ

https://novel18.syosetu.com/n1191gl/


「蜂蜜の君に」シリーズ

https://novel18.syosetu.com/n3834hb/


と時間世界観は同系列になっております。

よろしければ、こちらもお読みください。

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