10
クレイは焼きあがったパンを見て、感動した声を上げた。
「これ……町のパン屋と同じ匂いがする……」
「うむ……ちょっと焦げてしまったが、まあ、問題はないだろう」
ステアはパンの出来上がりに、少々不満があるようだが、初めて作ったパンにしては上出来の部類だろう。
発酵がうまくいかず、ぺったんこで、火加減が強すぎたせいで少し黒く焦げていたとしても、パンはパンだ。
「うん、良い香りだ」
オレは出来立ての熱々パンを一つ手に取る。
「師匠が最初だ!」
クレイがオレからパンを奪い取り、ステアに渡した。
「うむ、いただこう」
ステアは一口かじり「うむ?」と首を傾げる。
「不味い?」
クレイが不安そうに聞いた。
「昔食べたものと全然違う」
「昔って、どこで食べたんだよ?」
「昔、とある国の王が晩餐に招待してくれたんだ。そこで食べた」
「王のコックとクレイの腕を比較すんじゃねえよ」
「なぜだ?作り方は同じだろう?」
「レシピは同じでも、料理は経験がものを言うんだ。ワインも同じだろうが。その道10年のプロと、初心者が作ったものじゃあ、まるで出来が違う」
「た、たしかに……そうか、レシピさえあればいいと思っていたが、違うのか!」
ステアはオレの言葉に、目を丸くする。
クレイは不安そうな顔をしながら、オレ達を見て、パンを口に運んだ。
「!」
一つ目をぺろりと平らげ、二つ目に手を伸ばす。パンの熱さも気にならないのか、口いっぱいに頬張っている。
「おいしいか?クレイ?」
ステアの言葉に、クレイは何度も頷く。
オレも一口食べてみた。
全然柔らかくないし、もそもそしているし、焦げくさい。
しかし、身がぎっしりと詰まっているし、小麦粉が良いせいか甘く、美味しかった。
「うん、美味い。初めてにしては上出来だ」
「これが、初心者の味か……」
ステアも納得したように食べている。
「魔法でパン造りをするのはもう少し先にしよう。もっと練習すれば、もっとおいしくなるはずだ。魔法を使うのはそれからで良い」
ステアの言葉に、クレイはこくりと頷いた。
ステアには人間の子育ての他に、もう一つ目標ができたようだ。目が燃えている。
目玉焼きも、野菜のスープも十分においしかった。
クレイもやる気を見せ始めた。ステアに料理の本を読ませてくれとお願いしていた。
ただ、一つ問題があった。
クレイは文字を読めなかったのだ。




