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無題  作者: ねろ
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想々不一

『苦心の末、戦闘に勝利して神凪 緋雨の殺害を終えた彼は気づきます。実に呆気なく終わった復讐で、その完璧に、完全に、完結に、完了に、完遂に、どうしようもない虚脱感を憶えるのです────そうして彼は、姉も仲間も見失い、その上にわざわざ莫大な労力と時間をかけて、己の全てを放棄しました。

『やがて生きる意味を喪失した彼は、何もせず何も考えず、喃々と惰性で生を貪る廃人と化します。

『そのうち復讐して得るものなど何もないことを理解し──故に、彼は自殺を試みるのです。

『しかし彼は死ねませんでした。

彼を愛する一人の少女がいたからです。彼女を置き去りにして逝くことは、何よりも深い罪だと考えていました。』


「ぐ・・・ああッ──やめろ、なんだ、これは────!?」

這いつくばって僕の方へ寄ろうとする有栖川の頭部を、僕は思い切り蹴り上げる。


僕の«最悪»によって、有栖川の脳内には今、彼にとって最も邪悪な終焉(エンディング)が流れているのだ──それに心を蝕まれてしまえば、大抵の人間は。


終わる。


死ぬのではなく──いや、最終的には死ぬのだろうけれど、終わる。


僕と同じように。


『全てから逃避した彼を、全てを放棄した彼を、その少女は決して見放しませんでした。常に彼の傍に寄り添い、いつも優しく微笑んでやりました。

『そしてそれから十数年──«花火»の壊滅と«神凪»の壊滅を同時に知らされた彼は、そこで漸く少しだけ前向きになれるのです。

『姉のために、仲間のために、自分自身のために────そして、その少女のために。

『生きようと思えたのです。

『やっと。

『彼を縛り付ける縄は引き千切れて、

『彼に伸し掛るその圧力は消えました。

『孤独も寂寥も虚無も、彼の中には既に無く。

『その心は、晴れやかでした。』


「はァ・・・・・ッ、お前──何をした・・・私に・・・・・・!!」


「僕は何もしてませんよ。" したのは あなたです "、有栖川さん。」


『しかしその少女は語るのです。

『自分の生い立ちを。

『自分は昔、とある失敗をしてしまい──その窮地を、今は亡き兄に救われたことを。

『そしてその兄は────途中で殺されてしまったことも。

『彼は幼くして姉を失った自分と、その少女の姿を重ねてしまうのでした。少女は語り続けます。


『語るのです。

『騙るのです。


『有栖川はやっと気づきました。自分に全てを語り終えたその少女は、今や既に破滅した殺し屋ギルド・«花火»の生き残り、氷室 舞雪────いや、神凪 舞姫だと言うことに。

『彼女は自分に、この世の何よりも美しい復讐を遂げるべく、こうして狂った彼に寄り添い、彼を欺き、騙し、惑わせ、親切なフリをしていただけだった──なんてことにも、今更ながらに理解するのです。

『全ては自分を最大限に苦しませて殺すために。

『そうして彼はその肉体を48の部位に解体されて、その後に全てを無惨なまでに切り裂かれました────こうして、彼の«人生»はやっと終わりを迎えます。


『無駄な人生が終わりました。

『無価値な人生が終わりました。

『無意味な人生が終わりました。

『無謀な人生が終わりました。

『無茶な人生が終わりました。

『無意識な人生が終わりました。

『無理な人生が終わりました。

『無粋な人生が終わりました。

『無体な人生が終わりました。


『やっと。

『ようやく。


『こうして彼は、«最悪(ハッピー)終結(エンド)»を迎えたのでした────────めでたし、めでたし。』


「うぐああああああああぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ」

突如────。

有栖川の身体が、バラバラになった。


それは誇張したわけでも脚色を織り交ぜたわけでもなく、寧ろ幾許か控えめな表現であると言うくらいに、有栖川の身体は«分解»された。幾何学を連想させるほどに美しく────肉体が、48のパーツに。


もちろん緋雨さんが手を下したわけでもなく、僕が(バラ)したわけでもない。


ひとりでに、そうなるべくしてなった──それだけのことである。

これが最悪(ぼく)能力(すべて)

全ての収束。全ての収斂。

ありとあらゆるソレが安寧へ、安息へ、安定へと帰結する。


周囲に血の華が咲き乱れる。

壁に、床に──ありとあらゆる空間に。

赤黒く、紅黒く、朱黒い。


赫狂い血が。


全てが真っ赤に染まった。

辺りには鉄の臭いが立ち込める。


僕は自分がさっき口にした台詞をなんとなく思い返す。


" 見誤るなよ "。


見誤るなよ。

有栖川は既に間違えていた。


「僕は人を殺せるんだ。」

それこそ──殺し屋のように。


躊躇なんて欠片も無く。

遠慮なんて毛頭も無く。

容赦なんて微塵も無く。

感情なんて微量も無く。

臆面なんて断片も無く。

恐怖なんて概念も無く。

感傷なんて存在も無く。


«何でも屋»は、何でもやる。

何でも殺す。


嫌悪した相手は殺すし、憎悪した相手は殺す。

余計な過去は殺すし、余分な未来は殺す。

腐った意志を殺して、狂った意思を殺して。


それが必然であるかの如く。

それが自然であるかの如く。


自分さえも殺す──少なくとも僕はそうやって生きてきた。

殺して、生きてきた。




脚本(シナリオ)通りの死を遂げた有栖川を──有栖川だったものを見つめて呆然と考えていると、鉄扉を蹴り抜く大きな音が響いた。


洞木だ。


「こっちの仕事が終わったからついでに来てやったけどよー・・・うわー、お前結構えげつねえことすんのな。俺より酷いんじゃねえの?」

と軽くドン引きしたわ、なんて簡単な調子で言って、僕と緋雨さんの方まで駆け寄る。


「そんじゃあ、帰ろうか。とりあえずお前も神凪もお疲れさん。」

僕らはそのまま、赤色に塗り潰された廃工場を去った。

何も言わなかった。




「──にしてもさ、お前、やべぇ能力持ってんのな。まさか騙してあんなことするとはな。」

空がじわじわと黒くなり始めている帰り道の中で、緋雨さんが心底驚いたようにそう言った。


「まあ、自然と使う場面は限られますけれどね。最後の追い打ちにしか使えないと言いますか。使い勝手は悪いですよ。」

主人公どころか、敵キャラさえも慄くほどの悪質な能力──いつになるか分からないけれど、これは僕の過去が明らかになるまでの印象が文字通り最悪だぞ・・・それは困る。

あと何話、読者に性格の悪い嫌な奴と思われながら生きていかなきゃいけないんだ。


おっと。

メタ視点はあまり良くないね。


「あ?何、騙したってなんだよ。俺にも分かるように説明しろ。」

洞木が途中で口を挟む。

どうやら戦闘狂の緋雨さんにそこまで言わせしめた僕の行動に興味が湧いたようだった。


「いや洞木、聞けよ。こいつな、俺への復讐のために結成された«蟷螂»のボスを精神的にギリギリまで追い詰めて衰弱させた後、わざと優しい態度で" 匿ってやってもいい "なんて言って騙したんだぜ?」


「えげつねえってもんじゃねえよ。こいつの能力のタチの悪さ、実は性格に起因してんじゃねえの?」


「くはは、そうかもしんねえな──もしかしたら、俺らとも一線を画す存在かも。」

洞木はニヤリと笑いながらそんなことを喋った──のだが、やはり彼は分かっているのだろう。

遊海ちゃんにも指摘されたように、僕がただの人間ではないであろうことを。


分かっている。

分かっているよ。

僕も気づきつつはある──けど、気づきたくないんだ。

(わか)りたくないし、(わか)りたくないんだ。


すると、急に緋雨さんが立ち止まった。その度を越した長身で立ち止まられると、なかなか後ろを歩いている人間としては少し驚いてしまう。

「オイ──なんだ、あれ?」

彼が指さした先には、何やら人影があった。


«人がいた»でなく«人影があった»と形容したのは、それが生きているかどうか判断出来なかったという理由が大きいのだが。


洞木は怪訝そうな表情で「女だな。幼い少女──朝比奈よりは少し大きい。」と目を細めて言う。


二人とも、さすがに闇夜でも目は利くらしい──僕はせいぜい人影の存在を認識するのでやっとと言った具合だったというのに。


「おーい、大丈夫かよ。お前?」

洞木が一番に駆け寄り、その少女の横で屈むようにしてその顔を覗き込む。

続いて僕と緋雨さんも小走りでそこへ駆けつけ、同じようにした。


滑らかな肌。

整った小さな顔立ち。

少女らしい矮躯に、大きめのボーダー柄のシャツ。下は短めのフリルスカートを履いていて、如何にも女の子と言った幼さが窺えた。

明るい茶髪がストレートに伸びていて、それが肩あたりまでかかっている。不思議な点と言えば──両手に、黒い手袋をしているということだろうか。

もうすぐ暑くなるのにな。


それとなく洞木と緋雨さんの様子を一瞥する。彼らはその正体の見当が既についているようで、洞木は何とも言えない顔をしていたし、緋雨さんは厄介事に直面したかのように舌打ちをしていた。


「誰なんだ。この女の子?」

僕は洞木に訊ねた。


旭川(あさひがわ) 黒羽(くろはね)──殺し屋ギルド«鴉»のボスだよ。別名、«大虚鳥(おおそどり)»。」


「あんまり出会いたくない女だ」

鴉みたいな──不吉な奴。


旭川 黒羽。

その名前には、何処かで聞き覚えがあったのだが──さて、どこだったか?






『«蟷螂»の調査及び破壊(ブレイク) 依頼完了(ミッションコンプリート)

Congratulations.


分かりにくいので解説させていただくと、主人公の能力である«最悪»は、人の意識に「(その人にとっての)最悪な未来」を一時的に体験させることによって、恐怖で精神を崩壊させる能力です。


今回、有栖川に見せつけた『最悪』は、「復讐を成し遂げた後に相手血族の残党に肉体を48に解体される」といった旨のものですが、その場合は「最悪な未来」の再生が終わり次第、全くその通りに、ひとりでに48に分解されて死にます。


しかしそれは、相手のメンタルが強すぎる場合は発動出来ないということになります(例外レベルなので、ほとんどの敵には効きますが)。

また、生体反応があり、まともな自我、意識のある人間にのみ有効です。

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