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王太子殿下は視察を終えてお帰りになった。そして次の日、ドラゴンレース実行委員会の会議が開かれていた。
「まずは、建国400年目の記念式典にふさわしい演出を考えましょうか」
エルドリッチ子爵様が言った。
王太子殿下との約束で、次の王太子殿下の視察までに本番を想定した模擬レースを行えるようにしなければならなくなった。そのためには建国400年目の記念式典にふさわしい式典の演出を考えなければならない。こういう時こそ様々な式典に参加したことのある上級貴族の出番である。
「まずは建国400年目をお祝いする陛下のお言葉が必要ではないですか?」
殿下の問いにエルドリッチ子爵様が答える。
「うむ、それは必要だな」
さらに殿下が問い、エルドリッチ子爵様も続けて問う。
「次はドラゴンレース開催の宣言を行うのが良いのではありませんか?」
「それは誰が行うのだ?」
答えたのはハミルトン様だった。
「それは、ドラゴンレース実行委員会の会長であるエルドリッチ子爵様が行うのがいいのではありませんか?」
「うむ、わかった。私が開催の宣言を行おう」
ブロンクス様が問うた。そして重ねてハミルトン様が問う。
「その次は何を行うのが良いだろうか?」
「レースで走るドラゴンの入場ではないのか?」
「先ほどアルベルト君が楽隊の演奏について行っていました。それはどうしますか?」
「うむ、楽隊に演奏させるのは良いのではないか?ウェスカー殿、楽隊の手配をお願いする」
「わかりました。手配しておきましょう」
「ドラゴンが入場した後はスタート位置へドラゴンを誘導してレーススタートで良いな?」
エルドリッチ子爵様の問いに殿下が答えた。
「それでいいでしょう。そしてレースのゴールですね。アルベルト君が言ったように、やはり優勝者を称えることは必要ですね。どうやって称えたらよいのでしょう?」
僕はアイデアがあったので発言権を求めた。
「アルベルト君、何か考えがあるのですか?聞かせてください」
「まず、優勝した人とドラゴンは1頭だけでコースをもう1周まわるのはどうでしょうか?観客の視線と称賛が優勝したドラゴンに集まって盛り上がると思います。それと、優勝したドラゴンのオーナーには記念となる形ある物を陛下がお渡しになるのがいいと思います」
僕はウィニングランを行うことと優勝カップの授与みたいなものを提案してみた。
「アルベルト君の案ですが、いかがでしょう?」
ウェスカー様が答える。
「いいんじゃないでしょうか?栄誉ある場で渡される記念品ですからメダルなどどうでしょうか?」
「うむ、では優勝者に渡されるメダルの発注もウェスカー殿頼みます」
「はい。それも手配しておきます」
これでだいぶ建国400年目の記念式典としてふさわしくなってきたと思う。
「後は閉会の言葉ですか?これもエルドリッチ子爵様にお願いしますね」
「式典としてのドラゴンレースはこれで大筋決まりましたね、後は、ギャンブルとしてのドラゴンレースですが……。ウェスカー殿?」
「レースで1着になるドラゴンを当てる方式になりました。自分が1着となると思うドラゴンの番号がついた投票券を買う方式です。財務閥の官僚から既にスカウトしてきて投票権の売り上げによるオッズ計算などの本番を想定した練習を既に行っております」
「おお、それは心強いですね。ウェスカー殿がいてくださりおおいに助かりますね」
バルディウス殿下がそう言った。僕もそう思う。財務大臣様の次男とのことだが、そうとう鍛えられているなと思った。
「これでひとまず案は出そろいましたかな?」
ハミルトン様が問うて殿下が答える。
「ええ、そうみたいですね。これで次は本番により近い模擬レースが行えるのではないでしょうか?」
「うむ、そうですな。次は王都軍兵士を動員し観客に見立ててみますか。投票券を売ってオッズを出してと財務官僚の方々も参加して本格的にやりましょう」
「結構な大掛かりなものになりますね」
ウェスカー様が言った。
「どんなに大掛かりになっても本番に近い形の練習はしておきたいですね」
そう殿下が言った。
「これだけ大掛かりだとあちこちのスケジュールをうまく調整する必要がありますね」
「うむ、だがやらねばなるまい」
「それではスケジュールの調整ができ次第、次の模擬レースを行うということで……」
そういうことで、次回の模擬レースはかなり本番に近い想定で行われることが決まり、今回の会議は解散した。僕は次回の模擬レースが本番に近い形で行われることを大いに喜んだ。なぜならドラゴンレースが完成に近づいているからである。そう、前世であれほど大好きだった競馬観戦。転生してしまい前世と比べるとあまりにも何もない生活。そんな中で見た光明がドラゴンレースの開催だった。そして、バルディウス殿下の下で働きながら、建国400年目の記念式典のイベントに運良くドラゴンレースが選ばれることになった。そして、今そのドラゴンレースを理想のものに近づけようとしているところだ。近代化されていた僕が転生前に見ていた競馬とはどうしても同じようにできない部分もあるが、それでも可能な限り近づけて是非とも僕が楽しめるドラゴンレースにしたい。僕はあくまで殿下の家臣なので直接口を出せる機会は少ないけど、何とかうまくやってこれたと思う。あと少し、あと少しでドラゴンレースが実現する。そう思うと僕は笑いが止まらないのであった。
「アルベルト君はご機嫌ですね?」
「ええ、殿下。もうすぐで僕の考えたドラゴンレースが実現するのですから。僕は今からとっても楽しみなのですよ。殿下だって自分が関わってきたドラゴンレースが形になるのはうれしくないのですか?」
「そんなことありませんよ。始めてもらったお役目です。私もうれしいですよ」
「サモンドさんはどうなんですか?」
「殿下がうまくいっていてうれしいなら俺もうれしい。それだけだよ」
そして数日後、3度目の模擬レースが行われる日程が決まった。




