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 初めての模擬レースから数日たったある日のこと、今日もまたブレウワルド王国ドラゴンレース実行委員会の活動日だった。順調に計画は進んでいるとはいえ、まだまだ準備しなければならないことは多い。実行委員会の活動には手が抜けなかった。その上、今日の活動には王家からその進捗具合を確認するためにヴィクトール王太子殿下が視察に来ているのだった。

 まずはいつものように会議から活動は始まった。

 「それではドラゴンレース実行委員会の会議を始める。それでは各々の作業の進捗状況を聞こう。まずはウェスカー殿?」

 「ドラゴンの血統登録とレース登録について公布がすでにされました。王都に住んでいる貴族からは何人か登録者が出始めています。遠方の領地にいるものまではまだ布告が行き届いてないので、これから登録者はさらに増えるでしょう。それと、騎手がかぶる色違いの帽子の用意ができています。今日の模擬レースから使用できます」

 「うむ、わかった。ハミルトン殿の方はどうだね?」

 「ドラゴンレース開催のための関係法令ができあがり、公布を待つだけとなっております。レースの着順の判定人はランカスター男爵長男のユリウス殿が勤めることになった。こちらがユリウス殿だ」

 ハミルトン様はそばに控えていた男を指し示す。年のころは17,8歳の立派な服を着た男性だった。

 「皆さま、初めてお目にかかります。ただいまご紹介にあずかったランカスター男爵長男のユリウスと申します。重要なお役目を得ることになり光栄に思っています。皆様よろしくお願いします」

 ユリウス様の紹介が終わり各々ユリウス様とあいさつを交わす。

 「次はブロンクス殿からだな」

 「特別観覧席の内装については引き続いて作業を行っています。これにはもうしばらく時間が必要です。レースのコースについては前回の模擬レースの後整備してあります。本日も10頭、王都軍からドラゴンを用意してあります。今日も模擬レースが行える状態になっています」

 「うむ、以上だな。王太子殿下から何かございますか?」

 「いや、今のところ問題ない。それよりも模擬レースを見てたいと思う」

 「わかりました。では、会議を終了する。レース場へ移動し、模擬レースを行う」


 僕らは会議が行われていたエルドリッチ子爵様のお屋敷からレース場に移動した。王太子殿下がレース場の出来具合を確かめている。今日はコースを3周してみることになった。ドラゴンに乗る王都軍の兵士たちに枠順によってそれぞれの色の帽子が渡される。これでどのドラゴンがどの辺を走っているのか認識しやすくなったはずである。

 

 早速スタート地点にドラゴンを並び始める。全頭が並んだところで張られたワイヤーが持ち上がりレースがスタートした。全頭いっきにスタートダッシュを決め、レース開始直後から全力疾走している。1周目はほとんどさがなく団子状態で周回を回る。2周目に入ると少しずつ集団がばらけ始めた。そして次第にバテ始めたドラゴンが出てくる。3周目に入ると多くのドラゴンがバテ始め走るペースが落ちてくる。騎乗している王都軍の兵士たちはレースに慣れていないためかペース配分がうまくできてないのではないか?僕がそう思っているうちにレースは終わった。

 

 「3周走るとレースが長すぎてだれる気がするな」

 「やはり2周がちょうどよいのではないのですか?」

 「では、本番は2周走るということにしよう」

 「ところで、ユリウス殿、着順は確認できたかね?」

 「はい。1着は3番、2着は5番……」

 どうやら着順の判定の方はうまくできたみたいだ。僕がそう思っていると、王太子殿下がおっしゃった。

 「ドラゴンレースとはこんなものか?思っていたほど面白くないな」

 王太子殿下の言葉に場の空気が凍る。みんなが黙っているので僕はバルディウス殿下に耳打ちした。耳打ちした内容をバルディウス殿下が話す。

 「ヴィクトール王太子殿下、これはあくまで模擬レースであり、本番に行うレースとは大きく違っております」

 「本番と違うと言うがどう違うのだ?バルディウスの従者よ。お前が確かドラゴンレースを考えたのだったな。ならば言いたいことがあるのだろう?直答を許す。申してみよ」

 僕は直答が許された。本来偉い身分の人と低い身分の人は直接話さないことになっている。これは偉い身分お人にうっかり失礼な発言をしてしまわないように、直接ではなくワンクッション置くことでお互いを守るためなのだ。それをあっさり直答を許すとは、僕がうっかり失言してしまったらどうするのだ。僕は腹の底でそう思っているのをおくびにも出さないようにして、気を張りながら発言した。

 「直答させていただきます。まず今回の模擬レースと本番のレースとの違うところですが、本番はもっとセレモニアルに行います。例えば本番ではドラゴンの入場の時に楽隊で曲を演奏するとか、優勝したドラゴンとその乗り手やオーナーを称える場を設けるとか、建国400年目の記念式典にふさわしい演出を行うというのはどうでしょう?今の模擬レースよりきっと盛り上がるでしょう」

 僕はここまで話して一息つくと再び話し始めた。

 「王太子殿下は先ほど走ったドラゴンたちについて何かご存知でしたか?」

 「王都軍も所有数ドラゴンだろう?」

 「それ以上のことはご存知ないでしょう?名前や来歴など何も知らなかったのではないのですか?もしこれらのドラゴンに混じって殿下の愛用なさっているドラゴンがいたらどうでしょう?きっと王太子殿下は先ほどの模擬レースより夢中になってそのドラゴンのことを応援したことでしょう。出場するドラゴンの名前や来歴を知ることは感情移入につながりレースを盛り上げてくれます。名前も知らないドラゴンたちが走った模擬レースでは感情移入できずに盛り上がりに欠けるのは仕方ないことでしょう」

 「なるほど、お前のいうことはわかった。今回の模擬レースはあくまで本番と違うものだというのだな?」

 「はい、その通りでございます」

 「では、次の視察の時には本番を模したレースを見せてみろ。良いな、エルドリッチ子爵」

 「御意に」

 

 こうして王太子殿下をお迎えして行った2回目の模擬レースは新たな課題を残して終わったのだった。





 


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