29
昼食も済み、いよいよ国王陛下と謁見する時間となった。王城の使用人に先導されて国王陛下がお待ちになっておられる部屋へと向かう。陛下のいらっしゃる部屋の前につくと、警備している騎士がいた。使用人はジルバーン公爵一行が部屋の前まで来たことを告げて入室の許可を求め、許可を受けてから恭しくドアを開けた。公爵様とその御供が部屋へ入り、殿下と僕達もそれに続いた。
その部屋は玉座の間ではなくごく普通の間取りの部屋だった。ただしその調度品はおそらく最高級なものであると思われた。どうやら国王陛下は王と臣下として謁見するのではなく、親族として殿下たちにお会いになるつもりのようだった。国王陛下は大きなテ-ブルの上座に座っていた。国王陛下はどんなに威厳や迫力のある人かと思っていたが、ニコニコとしていて優しそうな方だった。そして、国王陛下の両脇には17,8歳の頃の男性と、15歳くらいつまり成人したて位の女性が座っていた。王子様と王女様だろうか。
「伯父上、ヴィクトール、ベアトリーチェお久しぶりです」
「うむ、久しぶりだな。ジグマルト、バルディウスよ座るがよい」
国王様はそう言って席に着くことを勧めた。公爵様と殿下が勧められるままに席に着く。僕は殿下の後へと続き、殿下の席のやや斜め後ろに立っていた。高貴な人同士が話をしているとき家臣はそれを邪魔してはいけない。僕はまるで自分が空気であるかのようにそっと静かに立っていた。
「久しいな、バルディウス。前にあったのは1年位前になるか?」
「ええ、そうですね」
「ところで、バルディウスの後ろに立っている子供は初めて見るな。誰だ?」
ヴィクトール王子が僕のほうを見ておっしゃった。僕は空気になったつもりで目立たぬよう立っていたつもりだったが、無駄な努力だったらしかった。
「彼は僕が領地内から見つけてきた僕の家臣のアルベルト君です。アルベルト君、彼らは伯父に当たる国王陛下とその子供であるヴィクトール王太子、それとベアトリーチェ王女です」
僕は紹介され一礼をする。
「あらあら、かわいらしい家臣ですね」
「こう見えてもアルベルト君は読み書き計算ができるのです。将来有望なのです」
「あら、そうなの。それはいい家臣を見つけたわね」
「ええ、そうですね。苦労して見つけ出した甲斐はありました」
「バルディウスはこの冬の叙勲式で独立するのでしたね。独立の準備は進んでいますか?」
「ええ、少しずつではありますが進めています」
王女殿下にバルディウス殿下が答える。そして、国王陛下が質問する。
「そういえば、公爵領はどうなっている?ベルセウスとアルセウスは元気にしてるか?」
「公爵領は、ベルセウス兄上がしっかりと治めてました。家臣探しのため領内をあちこち回りましたが、どこも平和で穏やかに人々が暮らしてました。アルセウス兄上も騎士団の仕事をして、領内を飛び回ってました。とても元気でしたよ」
こうして話は世間話なようなものから始まったが、だんだんと政治的な話へと変わっていった。
「公爵領に隣接するロックハンド国の様子はどうだ?5年前に侵攻があって撃退はしたがあれから変わった動きはないか?」
「ベルセウスからの報告だと特に何事もなく実に静かな様子らしい。だが、またいつ侵攻して来るかわからん。警戒はしておかなければならない」
「国境の問題はいつになってもなくならんな。それと、今日の爵位持ちによる定例会議についてなんだが……」
国王陛下が話をするが、僕はあまり理解できなかった。読み書き計算はできるが、この国の地理や歴史、貴族様同士の関係や政治の話となると、予備知識が不足しているせいで理解できない。これは後で勉強しなくてはいけないなと思っていると、鐘の音が聞こえてきた。どうやらそろそろ謁見の時間が終わりらしく、国王陛下と公爵様は話を切り上げた。
「時間のようだな」
「ではそろそろお暇しよう。バルディウス帰るぞ」
「はい、わかりました。それではみなさんごきげんよう」
こうして無事に国王陛下や王太子殿下、王女殿下との謁見が終わった。僕は何事もなく謁見が終了したことに深く安堵した。
来た時と同じようにドラゴンに曳かれた車に乗って帰る。勿論シモンズ様達も一緒だ。
公爵邸へと到着すると公爵様は本邸のほうへ、僕達は離れのほうへと別れた。
「無事にうちへ帰って来ましたね」
僕はようやく緊張が解けてそう言った。
「そうですね。陛下は気さくなおじさんだったでしょう?」
「気さくかどうかはわかりませんが、思ったより怖い人ではなかったようです。それよりですね、陛下と公爵様が話している内容があまり理解できませんでした。ブレウワルド王国の地理や、貴族の皆様の名前とどんな人なのかを教えてもらえませんか?」
「そうですね、これからはそれを教えましょう。ところでアルベルト君、お茶を入れてください」
「お湯の準備ができておりません。しばらく時間が必要になります」
「ああ、そうでしたね。ついいつもの癖で言ってしまいました。やはり侍女を雇った方がいいですかね」
侍女がいれば、常に湯を沸かし、主が望むときにいつでもお茶を用意することができる。だが、僕達3人暮らしだと、そこまで手が回らなかった。だが、侍女を雇うにもお金がかかる。殿下が自分のお小遣いで侍女を雇うのは苦しかった。
「今から急いで湯を沸かします。それと夕食の準備も致します」
僕はそう言って、急いで台所へと向かった。鍋に水を汲み、薪に火をつけ鍋を火にかける。お湯が沸くまでの時間に野菜を洗って切って夕食の準備をする。そうこうしているうちにお湯が沸いたので、殿下にお茶を淹れた。
「やはり私たちだけでは人手不足ですね。父上に頼んで本邸から侍女を貸してもらえないか頼んでみましょう」
殿下はそう言ってお茶をおいしそうに飲んだ。




