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 収穫祭とその片付けも終わり、僕らの村はまた静かな日常へと戻っていった。そして僕もまた、ターニャ姉さんと一緒にアーレフさんから単語を教えてもらう日々へと戻ったのだった。そして今日もまた広場でアーレフさんから単語を教えてもらう。


 「アルベルトもよく飽きないわね」

 地面に単語を書きながら不満そうにターニャ姉さんが言った。

 「僕は次男で家を継げないからね。少しでもいいところで働けるように読み書きをおぼえたいんだ。ターニャ姉さんだって読み書きをおぼえれば、近隣の村長や名主のようないいところの家にお嫁に行けるでしょう」

 「結婚なんて考えたこともなかったわ」

 戸惑った顔でターニャ姉さんが答える。ターニャ姉さんはあと3年もすれば成人する。婚約なら既に決まっていてもおかしくない年齢だ。ターニャ姉さんの父親である村長は娘かわいいさに甘やかしているくらいなので、もしかすると結婚させたくないと思ってるんじゃないだろうか。

 「結婚なんて時期が来ればいやでも考えるようになるわい。それより単語の練習に集中せんか」

 アーレフさんに窘められてしまった。


 そんな時である。広場へと急いでやって来る男が一人いた。そして男はこっちにやって来て言った。その男はパーゼル兄さんだった。

 「お爺ちゃん、お父さんはどこにいる?」

 「倅なら家にいると思うがどうしたんじゃ?お主は今日は村の門番だったじゃろ」

 アーレフさんが答えると、パーゼル兄さんは言った。

 「村に客人が来た。旅の吟遊詩人だって名乗ってる。今は村の入り口で待たせているんだ」

 「それなら家に行って倅に伝えるのじゃ」

 「わかった」

 パーゼル兄さんはそう言って村長の家へと走っていった。


 「吟遊詩人だってよ、ターニャ姉さん」

 僕は目を輝かせて言った。

 「ええ。きっと聞いたことのない物語をたくさん聞かせてくれるわ、吟遊詩人が来るなんて久しぶりね」

 ターニャ姉さんは僕よりも目を輝かせて答えた。

 「吟遊詩人って前にもこの村に来たことがあるの?」

 僕の記憶にはないので聞いてみた。

 「私がアルベルトくらいの年のころの話だから、アルベルトはおぼえてないのね」


 そんな前の話なのか。それにしてもこの村には客人が少なすぎるのではないか、アーレフさんに聞いてみた。すると答えは簡単だった。要約するとうちの村が田舎すぎるためということだった。目立った特産品もなく無名な村なうえ、主だった大きな街道からも外れ、さらには王家直轄領から公爵領へ転封され、あまりの田舎ゆえに街道の整備もあまり進んでいないことが人が来ない理由だった。もしかしてこの前村長が行商人のホアンさんを呼んできたのは凄く大変なことだったのではないかと僕は思った。


 あれこれと僕らが話していると、村長さんが旅装の男女を連れてきた。彼等が吟遊詩人らしい。村長は吟遊詩人達を村の客人としてもてなすことに決めたようだ。これで吟遊詩人達から聞いたことのない物語を聞かせてもらったり、旅をしてきたほかの土地の様子を聞かせてもらったりできる。僕はとても楽しみだった。


 「今パーゼルに吟遊詩人が来たことを村中に知らせてまわらせている。夕方から歓迎の宴を開くから父さんとターニャは準備を手伝ってくれ」

 村長はそう言うと吟遊詩人達と一緒に去っていった。

 

 「さあ、宴の準備をするわよ」

 ターニャ姉さんははりきってそう言った。

 「僕も手伝うよ。だから吟遊詩人の歌や話をいい席で聞かせてよ」

 僕はそう取引を持ち掛けるのだった。

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