13
僕は吟遊詩人たちの歌やお話をいい席で聞かせてもらう代わりに、歓迎の宴の支度を手伝うことにした。宴といっても収穫祭の時とは違って極々簡素に行うようだった。
宴の支度も終わり、日も傾き始め僕は一度夕飯を食べに家に帰ってから広場へと再びやってきた。すると既に宴は始まっているらしく、人だかりができていた。僕はその人だかりに突っ込んで最前列を確保した。
男性の吟遊詩人はゲイル、女性の方はエナと名乗った。二人は、オーゲンロレン商会の行商人と出会いこの村の話を聞いてやって来たそうだ。吟遊詩人達の紹介も終わり、早速歌が始まった
ゲイルはギターのような楽器を掻き鳴らし、エナが歌い始めた。それは、愛し合う男女が不運にも引き裂かれる悲恋の歌だった。男性の演奏も女性の歌声も素晴らしいものではあったが、歌の題材が悲恋だと僕は興味があまり持てなかった。だが、周りの大人たちは盛り上がっているようだった。娯楽の少ない田舎村の村人にとっては吟遊詩人の歌はおおいに楽しめるものなのであろう。
やがて歌が終わり、拍手が湧き起こる。みんな満足そうに手を叩いていた。すると、ゲイルが僕のほうを向いて言った。
「次は男の子が喜びそうな歌にするか。それじゃあ、ブレウワルド王国の建国物語はどうだい?」
僕はこの国の建国の歴史は知らなかったので、二つ返事で了承した。
すると、ゲイルはギターを掻き鳴らしながら歌い始めた。
今から約400年前、今のブレウワルド王国がある辺りは、小国が散在し互いに争いあっていた。何十年もの間争い合いは続いていたが、ある時、それまで野生の生物だったドラゴンを飼い慣らし、ドラゴンにまたがって戦う集団が現れた。その集団のリーダーがブレウワルド王国の初代国王で、互いに争いあって疲弊している小国群を瞬く間に平定して現在のブレウワルド王国の基礎を築いた。以上がゲイルの歌う建国物語の概要だった。
ゲイルは情感たっぷりに建国の英雄である初代国王のことを歌いあげた。再び大きな拍手が湧き起こる。
「お次は隣国ロックハンドからの侵略を見事に防いでみせたジルバーン公爵様の活躍を歌いましょう」
そう言うとゲイルは次の歌を歌いだす。自分たちの領主様の活躍の歌に場はいっそう盛り上がった。
こうして何曲か歌を聞いていると、いつの間にか日がとっくに暮れていて夜になっていた。
「日も暮れたな。子供は家に帰りなさい」
村長の言葉に仕方なく僕は帰ることにする。できればもう少し聞いていたかった。建国物語はもちろん公爵様の活躍の話も初めて聞く話で面白かった。もっといろいろな話を聞いてみたかったが、村長命令では仕方がない。後で話を聞いた大人たちから話を聞くことにしよう。
翌朝、いつものようにリカルド兄さんに起こしてもらい、水汲み、朝食を終えて広場へと向かう。そこには、アーレフさんの姿はなく、ターニャ姉さんだけがいた。
「ターニャ姉さん、おはよう」
「おはよう、アルベルト」
「アーレフさんはどうしたの?」
「お爺ちゃんなら家でまだ寝ているわ。昨夜は遅くまでゲイルさんたちの話を聞いていたみたいだもの」
「そうなんだ。ところで、ゲイルさんたちは今日も歌ってくれるのかな?」
僕は期待してそう言った。
「起きたらすぐに出発するそうよ」
「そっか、残念だな。また来てくれるかな?」
「きっと来てくれるわ。あんなに歓迎したし、歌も大盛り上がりだったもの」
「そうだね。また来てくれるといいね」
僕は期待を込めてそう言った。




