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ターニャ姉さんと別れた僕は、行商人と話したくて隙を窺っているがそのチャンスは一向に訪れない。強行突破して話しかけようとも思ったが、一銭も持たない子供なんか相手にしてくれるだろうか疑問に思う。僕が行商人に集まってる人達を見ながらどうしようか迷っているとリカルド兄さんが声をかけてきた。
「アル、どうしたんだ?行商人が来てるのだろう?見ないのか?」
「見たいけどお金持ってないし……」
「何を言ってるんだ、見るだけならタダだぞ」
そう言うとリカルド兄さんは僕の腕をつかみ、行商人の周りで群れを成してる人たちの間に突っ込んで行った。人混みを抜け行商人の前まで行くと、そこにはズラリと商品が並んでおり、愛想良く笑顔で接客するおじさんがいた。
「こんにちは、おじさん。何を売ってるの?」
「こんにちは、坊や。おじさんはいろんな物を売ってるよ。主なものは日用雑貨かな。この村には職人がいないと聞いていたからね。できるだけいろいろな物を持って来たんだ」
行商人のおじさんの前に並べられているものは、おじさんが言ったように見たこともない珍しい物ではなく日用雑貨がほとんどだった。見ている側から買っていく人がいる。
行商人のおじさんが言うようにうちの村にはものづくりを専門にしている職人はいない。作れるものは自分たちで作り、作れないものは近くの町に買いに行く。そうやって僕らは生活していた。行商人が来たこの際に必要なものを買って行こうとする人は多いようだ。
「おじさん、シルバスタッドの都から来たんでしょう。都の話を教えてくれないかな?」
僕は本来の目的である都の話をねだった。
「今は商売で忙しいからダメだな。午後からなら村長に収穫祭に参加するよう誘われている。その時なら話してやろう」
「ありがとう、おじさん。収穫祭が始まったらまた来るよ」
「僕はほかへ行こうと思うのだけど、リカルド兄さんはまだ見ていくの?」
「もうちょっと見ていくよ」
リカルド兄さんはそう答えた。何か欲しい物でもあるのだろうか。僕は深く聞かずにリカルド兄さんと別れて歩き出した。特にすることもなくぶらぶら歩いて時間をつぶしていると、収穫祭の開始を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
広場に行くと、村中の人々が集っていた。そんなたくさんの人達の中から父さんたちを探して合流した。ちょうど村長の収穫祭の開始を告げる挨拶が始まって、集まっている村中の人達のテンションが上がっていくのを肌で感じる。そして、村長の挨拶が終わると同時にものすごい歓声がして、村人たちが一斉に動き出した。
「ご馳走を食いっぱぐれないよう行くぞ」
父さんに手を引かれて僕はたくさんの料理が並んでるところまで来た。既に多くの人が列をなしていた。収穫祭では普段は食べられない量のご馳走が食べられるのだから当然だ。肉の入った熱々のスープにやわらかい焼き立てのパン等が配られている。僕は自分の分のご馳走を手に入れると、夢中になって頬張った。
思う存分腹いっぱいにご馳走を堪能した僕は、行商人のおじさんの話を聞くためにおじさんを探し始めた。周りには酒を飲んで上機嫌で歌ってる人や踊ってる人がいるカオスな状況で、おじさんを探すのには苦労したが、何とか探しだすことができた。




