武器育成イベント!? テーマパーク満喫編 突発イベント
動物園に向かう三輪自動車に、不審な乗客が乗り込んできた。
私は一番後ろの席で発車を待っていたのだけど、その男は運転席の後ろに陣取り、キョロキョロとしきりに辺りを確認するという、どことなく不穏な空気を醸し出したまま発車を待っていた。他の乗客は現れなかった。
「それでは発車いた――」
「大人しく言うことを聞け! このままスピードを落とさずに走り続けろ、止まるんじゃないぞ!」
男が運転手にナイフを突きつけてそう叫んだ。その光景を後ろから見ていた私は、堪らず、けれど口には出さぬように心の中で盛大に叫んだ。
――まだ発車していませんから! 止まるんじゃないどころか、走ってもいませんから!
「ははっ! ビビって声も出ねぇか? 足も震えてんじゃねーだろうな!」
――いや、運転手の足が震えていたら大事故確定だよ? もしも走行していたら、だけどさ。
運転手の困惑した顔も、きっと恐怖から来るものじゃない。まだ走り出していないのになに言ってんだ? という困惑である。ついでに言うと、震えているのはナイフを持った男だからね。足もガクガクだしナイフもブルブル。視界も揺れて走っていると勘違いしてんじゃない?
おそらく、緊張しているのだろう。そんな小心者の男は、なにが目的でこんなことをしているのだろうか。
「へへ、絶対止まるんじゃねぇぞ。俺は早く行かなきゃならねぇんだ。だって、子供が生まれるんだからよ!」
――だったら普通に乗れば良かったじゃん! 過激な方法を取る必要全くないじゃん!
「このナイフは魔除けのお守りで、無事出産出来るように妊娠が分かったときからずっと持っていたんだ!」
――そんなものを何故凶器に!?
「あいつを想って買った、記念品だからな!」
――だから、なんでそんなものを凶器に!?
「お、落ち着いて下さい。どうか落ち着いて。すみません、後ろのお客様! この人を落ち着かせてくれませんか!」
あ、そういうイベントなんだ。じゃあ突っ込みも心の中でしなくても良さそうだね。
「おおおおおおお俺は落ち着いていふ!」
「うん、落ち着いてないよね」
無駄に長い“お”は落ちついていない証拠だから。でも、どうやって落ちつかせたらいいのかな? 定番な方法は……、素数を数えるとかかな。
「まぁまぁ、いいから素数でも数えて落ちつきなって」
「歩数?」
「歩いてどうすんのさ」
いや、歩いて行ってくれたら解決なんだけどさ。
「素数だよ、そ、す、う。数字のやつ」
「あぁ、あれか。……一は素数だっけ?」
……私も分からん。
「え、えっと、と、兎に角数字を数えてみればいいんだよ。羊を数えるみたいにさ」
「なる程。……メイドが一匹、メイドが二匹――」
「なんでメイド!? 間違えるにしても執事のままにしときなさいよ!」
「くそ! なんだよさっきから! 俺は早く動物園に行かなくちゃならないんだ! 推しのカンガルーの出産だから!」
……いや、それはこの三輪自動車の目的地なんですけど!? だったら大人しく乗っていろよ――、というかカンガルーの妊娠とか出産って、いつになるか分かりにくいんじゃなかったっけ!? それを把握しているって、この人何者なの!?
「どうやら落ち着きそうもないか。お客さん、お金を払ってくれたら暴漢排除モードが起動する、払うかい?」
その選択は、悩むまでもないものだった。




