武器育成イベント!? テーマパーク満喫編 海水浴
三輪自動車の客席から、心地良い風が車内を駆け抜ける。通路を挟んで二名が座れる座席が三列。助手席はなく中央に運転席があるためか車幅も狭く、少し窮屈さを感じてしまう。しかしガラスのない開放的な窓から吹き抜ける風が、そんな気持ちを和らげていた。
椰子の木が並ぶ広く開放的な道は、月明かりに照らされた白い砂浜に面して伸びている。移動用であろう電動キックボードを追い抜く度に、此処がゲームの中で、ファンタジーを舞台としていることを忘れそうになる。
砂浜には色取り取りのパラソルが並び、どこからともなくソースの芳ばしい匂いが漂い目にも鼻にも刺激的だ。響き渡る賑やかな声。それに掻き消される穏やかな波の音。五感を刺激するそれは、まさに行楽地の海水浴場と言えるだろう。
……焼きそばが入ったパックを大量に傍らに並べた人物が、ポツンと砂浜に座っているのが見えた。十中八九、メイリルだろう。他人に迷惑をかけている様子は見られないから、まぁ、放っといても良いと判断する。
カードはレンチに頼んで配っておいて貰ったはずだし、お金を使ってくれて迷惑をかけないのであれば文句は言うまい。
だけど私は言いたい。海に来て焼きそばだけを食べるのは少々勿体ないと思う。私はカレーを食べたいし、イカ焼きだって食べたい。体が冷えるからカキ氷は控えめにして、ラーメンは醤油と味噌が選べたら良いな。
海にザブンと浸かれば、もう海水浴というイベントを楽しんだと言えるだろうし、それは帰り間際のメインディッシュとも言えるイベントなのだ。それまでは海の家で食事を楽しんだり、砂浜を散策したりする。それが私達――私とヨーナ、サクラの幼馴染みトリオ――の楽しみなのである。
サクラはカップルを探すのが楽しみらしいし、そんな彼女の視線が失礼にならないように、話し掛けて抑えるのが私達の役目。そこまで混むような海水浴場には行かないのだけど、海に入るよりは三人でのんびりと砂浜散歩に興じるのが好きなのだ。
お互いに水着の品評をしてみたり、来年はあんなのがいいと他の人の水着を参考にしてみたり。良い値段がつきそうな石はないかと探してみたりと、そこでしか出来ないことが選り取り見取りだから。
「海水浴って、一人でも楽しめるのかな?」
そこでふと、そんなことが頭を過った。
風に負けないように声を張った私の疑問にに、膝の上で丸まっていたぬーちゃんの尻尾が横に振られた。……首を振るのと同じように、いや、手を振るのと同じように否定をしているのだろうか。
世の中にはソロキャンプをはじめとして、大人数で行うのが定番だったものを一人でも楽しもうとする動きは多くある。飲食だって孤独に出来たりもするのだ、きっと海水浴も同じなのだろう。
「一人で海水浴に行くのはおすすめできません」
隣に座っていたレンチが、真っ向から否定の言葉を浴びせた。
「先ず、防犯的な面です。一人で海に来た場合、荷物から目が離れやすい状況が生まれてしまいます。ロッカー等がある場所なら良いのでしょうが、砂浜には置いたままにしなければならない状況なら、盗難のリスクは避けられないでしょう」
世知辛い。
私達の場合はお兄ちゃんやうーぴょんが見張っていてくれたから、いままで気にしたことはなかったなぁ。優しさに甘えていたのかもしれない。
「続いて危険生物に対する対処です。クラゲなどに刺された際、適切な処置を行い病院へ向かうことが重要なのですが、一人でどこまでのことが出来るのでしょうか。海水で洗うのか真水で洗うのか、毒を吸い出すことは適切なのか、救急車を呼ぶべきか自力で病院へ行くべきか。咄嗟の時に判断が出来るのか、直ぐに他人に頼ることは出来るのか」
荷が重い。
時間があればスマホ先生に頼ることも出来るだろうけど、そもそも海に入ろうって時にスマホなんかは持っていないだろうし、たしか今って海に入る際にも持っていられるようなポーチみたいなのもあるんだっけ? そう言う物があるなら、買っておいた方が良いのかも。
「そして海に入る際の危険性です。先の危険生物の他にも、離岸流と呼ばれる海に向かう流れがあります。それに巻き込まれた際に、他人が直ぐにそれに気が付いてくれる保証はありません。自力で抜け出せるかどうかも未知数です。そしてなにより、一番大事なのは、……もしも水着が流されるという漫画的なハプニングが実際に起こったら、主は対処できますか?」
無理くさい。
殆どの話が自分に被害が及ぶようなものなのに、水着に関しては自分が加害者になる可能性も秘めているよね。お洒落を重視するか、流されにくさを重視するか。それが問題だ。
世の中には危険が一杯だね、と。私は現実から逃避するようにぬーちゃんを抱き締めるのであった。
「……いや、ゲームの中で現実を説かれても!」
「ご静聴ありがとうございました」
この人、からかってやがった!




