アカシックレコード(その1)
###
3月31日午後1時10分、ニュース報道でもアイドル投資家によるランキング操作等が問題視され、それに関係するニュースが報道されている。
しかし、遊戯都市奏歌では、それどころではない大きな事件が起ころうとしていた。
「我々の理想を邪魔する気なのか!?」
「超有名アイドルこそ、唯一神と言えるコンテンツだ!」
「超有名アイドルの追放を考える運営を許すな!」
草加市役所の近くにある公園では、このようなデモ活動が行われていた。
その中心にいるのは、反ARゲームや超有名アイドル商法の税制優遇を推進する投資家――どちらにしても、ARゲームのプレイヤーからすれば関わりたくない勢力である。
実は、この公園の近くには過去にジャパニーズマフィアのアジトがあったのだが、こちらは遊戯都市計画を進行している際に全排除を行った。
その結果として、今の日本上にはジャパニーズマフィアは絶滅危惧種と言われるほどに勢力を失い、反対に超有名アイドルファンが銃火器等で武装すると言う問題が浮上している。
こうした非常事態は過去にアカシックレコードが記している世界でも同じ事が伝えられ、それこそWeb小説サイトで言う異世界転生や異世界転移と言った作品が大量にランキング入りする展開に似ていた。
『遊戯都市における無差別テロを誘発するデモ活動等は禁止されている――お前達も分からないでもないだろう?』
公園に姿を見せたのは、蒼の軽武装ARアーマーに複数のガジェットを装着した――。
「貴様、榛名・ヴァルキリーか?」
「あの放送は我々をおびき寄せる為のブービートラップだったのか?」
「なんてことだ!」
「超有名アイドルは終わりはしない! 日本にとっては唯一神の不滅とも言えるコンテンツだ!」
「馬鹿な! 榛名は複数いたと言うのか?」
「早く、つぶやきサイトで拡散しなくては――」
周囲の人物は榛名・ヴァルキリーと錯覚している。中には動画で見た類似ガジェットを榛名と思いこむ現象も――。
しかし、姿を見せた人物の武装は榛名の物とは大きく異なり、知っている人物が見れば違うと分かるはずだ。
『こちらとしては誤認をしているのであれば、好都合か――』
目の前にいた人物の正体、それがエクスシアと気づく人間は――この場には存在しなかった。
そして、エクスシアはネット炎上の物理鎮火を行う。この状況はネット上に拡散する事はなかったと言う。
その理由として、エクスシアのジャミング能力にあるらしいが、録画機器の故障説もあり、真相は定かではない。
午後1時30分、谷塚のアンテナショップに辿り着いたビスマルクは、とある人物を発見した。
「桜野麗音――?」
身長170、軽めの服装に特徴的なインカム――ビスマルクは彼を桜野麗音と即座に認識出来た。
「ビスマルク、常軌を逸しているのは超有名アイドル商法じゃないのか? そこに同情の余地はない――違うか」
桜野はビスマルクと戦う様な素ぶりは見せず、周囲の桜野を狙っていたアイドル投資家の方を撃破していく。
投資家の方はARゲーム的には撃墜と言う扱いで、倒されたと同時にゲームからは退場となる。
ただし、ARゲームはデスゲームの類ではない。撃墜されたプレイヤーは気絶しているのみで、怪我の具合も軽傷レベルだろう。
「貴様は過去に炎上請負をバイトでしていた連中を根絶したという――まさか、お前が行おうとしている事は?」
ビスマルクが気づいた時には、重量型ガジェットを呼び出し、桜野と対決をしていた。そのルールはARデュエルだ。
「確かに炎上請負の連中を駆逐した事は事実だ。しかし、それさえも超有名アイドルは自分達のコンテンツを宣伝する材料として利用し、今や国家予算クラスの利益を生み出すコンテンツにまでなった」
桜野は何もない空間から次々とスタングレネードを呼び出し、それをモブの集団が集まっているエリアへと投げつける。
咄嗟のグレネードに対応できないプレイヤーは、強力なARガジェットのジャミング能力と特殊な音によってガジェットを無力化、最終的には動けなくなってしまう。
そして、動作不能になったプレイヤーはフィールドから退場となる。これを桜野は1分未満で10組以上のアイドル投資家に対して――。
「さすがに、自然災害の類を宣伝材料にする事はなかったが――似たような事はしているか」
桜野の一言を聞いたビスマルクは、特殊な連装レールガンを構える。そして、放たれた弾丸は桜野の即座に展開したバリアをも貫通し、右肩のARガジェットに直撃する。
「貴様は言ってはいけない事を口にしてしまった。お前は個人の善意でさえも超有名アイドルの宣伝材料と断言すると言うのか?」
ビスマルクの口調、それは完全に激怒というよりも――されさえも超えてしまっていた。
怒っているような喋り方ではないのだが、聞く人物からすれば――明らかに怒っていると言えるかもしれない。
表情に見せないからこそ、その一撃は想像を絶する物だったのかもしれないが。
「超有名アイドルは、あらゆる物をビジネスに変換する錬金術師だ――その原理を国会で違法だと認識させ、芸能事務所の悪行を全て表にする。それこそが、第4の壁の向こうで行われている事実に辿り着く為の――」
桜野は他にも言いたい事はあったのだろう。しかし、ビスマルクが放った2発目のレールガン――その銃弾は左肩ではなく、バックパックのガジェットに直撃する。
バックパックのガジェットは暴発をしなかったが、ガジェットの機能は停止する。桜野は、停止前にガジェットをパージしたが、これが意味するのは攻撃手段が奪われた事だ。
「この世界には中の人もいなければ、第4の壁と言う概念もない。向こうの世界で起こった事に対し、アカシックレコードの記述を予言者というのは――」
レールガンの次に、ビスマルクは両肩の連装主砲で桜野に集中攻撃を仕掛ける。桜野のガジェットバリアでも防ぎきれず、ガジェット耐久値がゼロに近づいた。
10分後、気絶しかけている桜野の姿を見て、ビスマルクの怒りが収まる物と思われたが――。
「超有名アイドル――それを生み出した芸能事務所が、どのような手段を使って金儲けをしているか――それは、賢者の石とマッチポンプだ。まとめブログや週刊誌を利用し、物理手段以外で――」
「黙れ!」
「アカシックレコードでも会話やゲーム大会等の平和的な手段で対応しようとした例もあったな。しかし、それらはすべて失敗したと言ってもいい。一時的に勢力を抑えたとしても、夢小説勢やフジョシ達が――」
「黙れと言っている! 桜野麗音! それ以上、口にすれば――」
「アキバガーディアンと名乗った榛名・ヴァルキリーも、まさかこうなるとは予想しなかっただろう。本物のアキバガーディアンが遊戯都市に――」
「お前の発言は、単純にネットを炎上させ、それ以外の一般市民をも恐怖に陥れている! それが辿り着く末路は――それこそ、一握りの芸能事務所が地球さえも手中にするシナリオを完成させる事になる!」
桜野の狂人とも言えるような発言を受けて、ビスマルクの怒りは収まるどころか表情さえもはっきり分かる程の表情を表す結果となった。
「芸能事務所は週刊誌の連中と手を組み、まとめブログを完全に手中にした。一部芸能事務所による日本支配は――完成したと言ってもいいだろう」
桜野の発言は、まだ続く。彼自身がまとめブログで掲載されたアカシックレコードの断片を本物であるかの様に騙っている。
「真の情報ソースを探そうとせず、まとめブログやネット上の百科事典で知ったかぶりをするようなネット弱者――それを強化人間の様に扱うまとめサイトも、悪と言う事か」
ビスマルクの一言を聞いた後、桜野は気絶した。桜野の身柄は本物アキバガーディアンが引き取る事になった。
その時に姿を見せたのは、ビスマルクも確認はしていなかったがネームドの人物だったと言う。