もう一つの領域(その3)
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3月31日午前12時58分、榛名・ヴァルキリーの動画はARガジェットを通じて流れた。
テレビ等では通常放送であり、そちらの電波に介入する物ではないらしい。それに加えて、何処かでネット配信しているような物でもないように思える。
その理由として、この動画がアップされた日付が昨日の30日だったからだ。
この動画が時限式で配信されているのかは謎に包まれている。
『超有名アイドルと言う国内だけで莫大な利益を上げているチートコンテンツが、海外では無力であることを証明する為の――コンテンツ革命が始まる!』
相変わらずの素顔を隠した状態ではあるものの、カリスマのオーラは感じ取れるような物があった。
「この動画の発信源を見つけ出せ!」
反ARゲームを掲げる市民団体は、榛名の動画が拡散されるのを恐れ、発信源を抑えようとしている。
「30日の日付――何かあるのか?」
ある場所で動画をチェックしていた花江提督は、この動画の投稿された日付に疑問を持ち、真相を探ろうと動画を視聴継続する事にした。
【愉快犯じゃないのか?】
【アイドル投資家が自分達の犯罪に対して目をそらせる為のブラフか?】
【アイドル投資家だったら、もっと別の人物を引き合いに出すだろう。榛名・ヴァルキリーを名乗る理由が見当たらない】
【愉快犯であれば、尚更だ。榛名の名前を騙れば、アキバガーディアンからマークされる】
【それ以前に遊戯都市にパルクール・サバイバーの運営勢力が来ているらしい。こうした手段を使うのは逆効果だ】
【ARゲームの反対勢力に目をつけられれば、超有名アイドルの存在を日本から抹消される】
【さすがに、歴史から抹消と言うのは言いすぎじゃないのか?】
「アカシックレコードには、それほどの影響力があると言う事の証明だろう」
ネット上では、榛名の名を騙れば自滅する事、サバイバー運営等が来ている影響もあり、超有名アイドルに対する風当たりが悪化するという声もあった。
榛名の動画が流れている頃、蒼空ナズナと大和アスナは、その内容に衝撃を隠せなかった。
「これって――」
「遂に榛名が本格的に動いたか」
大和は榛名が動き出す事を以前から知っていた。その目的がコンテンツ業界に革命を起こす事も事前に分かっていた。
それなのに、今回の動画に関しては予想外の行動と感じている。榛名の様な人物が、このような事をするのか?
シティフィールドのレース後にインタビューがあったとしても、そこにマスコミが集まる事はない。
それ程のノーマーク状態だった人物が、こうして悪目立ちするユーザーの様な真似をするのか?
「でも、納得できません。あの人は、もう少し物事を考えていると思っただけに」
蒼空は今回の動画に関して、少し期待はずれと言う印象を持っている。榛名の人物像からすれば、もう少し場所を選ぶはず。
「敵を欺くには、味方からという訳でもないだろう。榛名の味方をする人物は数がしれている」
大和は榛名に協力するような人物がいるとは考えにくいと感じていた。
以前に姿を見せた八郎丸提督は数少ない榛名に協力する人物だが――。
「この動画が、もしも明日に流れていたら――」
蒼空の一言を聞き、大和はバラバラになったパズルのピースが埋まったような感覚になった。
「4月1日――エイプリルフールか」
エイプリルフールに事実を公表し、それが嘘として処理される――そうしたケースを榛名が避ける目的があるとすれば、このタイミングで動画の公開は間違っていない。
しかし、企業の宣伝戦略でもエイプリルフールと見せかけて本当だったというオチは良く使われている。
それを踏まえると、この路線も――フェイクの可能性は否定できない。
榛名の動画は主に超有名アイドルコンテンツの行く末、コンテンツビジネスが行き詰まっている事、ガチャ問題が発端となった投資計画等――。
これらの発言が、全てアカシックレコードに書かれているフィクションだとネット上で否定する人物もいる位、認めたくないと思っている人物が多い。
『――アイテム課金が悪いとは言わない。廃課金勢を投資家やビジネスチャンスと考えている上層部がいる限り、こうしたコンテンツ流通が否定的であると――』
『このままでは、アカシックレコードの記述が超有名アイドルが賢者の石を手に取る為の踏み台にされ、世界中でテンプレアイドルの――それこそ、Web小説サイトの夢小説勢やフジョシ勢の暴走と同じ事が起こる』
『我々は、このような誤ったコンテンツ流通を正す為に――動きだそうとした。しかし、その障害となるであろう勢力を外部資料で発見した』
榛名の動画は続くが、その中で自分達の正体を自ら公表すると言う自爆に近い発言があった。
『その勢力の名は、アキバガーディアン。柏原隼鷹の設立したコンテンツ保護を目的とした組織――』
『彼らのコンテンツ保護は――超有名アイドルの様な自社独占タイプではないが、二次創作勢の締め出しに近い物。一億総創作作家化計画とも言えるような物であることは明白だ』
何と、自分達がアキバガーディアンではないと明言してしまったのだ。それを踏まえ、榛名は柏原隼鷹の行動を認める訳にはいかない、とも言及する。
『我々の言う革命、それは一次創作勢も二次創作勢も共存できるようなコンテンツ流通――それは、一国や一社が完全に掌握してよい物ではない』
『それは、アカシックレコードのガイドラインを見ても明らかだ。そして、ARゲームも例外ではない』
途中から声にノイズが混ざるようになり、動画内の榛名のARアーマーも半透明になっているような気配がする。
『ARゲームの権利を独占しようとする勢力こそ、大手芸能事務所と広告会社等の共同体企業の――』
遂には会社名を公表しようとした所で動画が終わってしまった。その長さは10分を超える。
「共同体企業――まさか?」
花江提督には心当たりがあるのだが、その企業は遊戯都市奏歌に進出したというニュースを聞かない。
「榛名の正体――そう言う事ね。本人の口から、真相を聞き出すしか――」
動画を見終わったタイミングで、谷塚にある大型ガジェットショップへ向かっていたのは、改造軍服姿のビスマルクだった。
彼女は大和とも合流を考えず、単独で榛名を見つける気でいるらしい。




