もう一つの領域(その2)
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3月31日午前12時42分、運営スタッフの一人に対して抵抗の意思を示しているのは佐倉提督である。
「お前が偽のスタッフかどうかは関係ない。お前の言っている発言は――コンテンツ流通推進派に対し、敵意を向ける事を意味する」
その発言を聞き、スタッフの方が少しひるむが、それでも発言の撤回をするような気配はない。
「超有名アイドルファンは、自分達の利益を生み出す為ならば他のコンテンツを炎上させ、そちらで使われるはずだった資金を超有名アイドルの為に使わせる――」
「そうした行動を人が息をするような感覚で行い、まとめサイトは全て超有名アイドルの芸能事務所から報酬を得て運営されているという話も存在する――」
「だからこそ、日本は超有名アイドルコンテンツしか生き残れないという流れになり、ソーシャルゲームがコンプガチャに代表されるような手段で利益を上げようとした」
「我々は、そこまで追い詰められたような運営方法は使わない。それを行えば、超有名アイドルファンがまとめサイトで炎上させ、逆に有利となるだろう」
「この世界は、超有名アイドルと芸能事務所と言うチートが無双する世界だったのだ。それを打ち破れる手段は――」
この後も運営は話を続けるのだが、佐倉提督には全く聞く耳を持たない。こうした言動が超有名アイドルに有利となるだけでなく、ARゲームの発展を阻害させる物になるからだ。
「議論を広める為にも意見を求める事に関して、それを悪いとは言わない。ただ、お前のやっている事はまとめサイトのやっている炎上誘導と変わりはない!」
佐倉提督の持っているARガジェットブレードが運営スタッフを見事に撃退。ただし、向こうは気絶しているだけである。
「全ての意見を強制的に賛成派に回らせるような展開は避けるべきだが、炎上誘導やフラッシュモブ、市民団体等を利用して悪質な妨害行為を行うのは――超有名アイドルの芸能事務所がやっている事と同じだ」
しばらくして、アキバガーディアンが現れ、今回の事件に関与した超有名アイドルファンやチートプレイヤー、運営スタッフの1名を連行していく。
同刻、ランキングを別の場所で確認していた蒼空ナズナと大和アスナは、順位の確認をしながらARガジェットを操作していた。
「アカシックレコードを特許と言った理由――それは何ですか?」
蒼空も大和が特許とざっくり説明した理由が分からない。
大和が言葉を選んだような思考停止はなく、あっさりと答えた事も別の疑問を発生させるきっかけとなっていた。
「テンプレ小説は知っているだろう? 異世界転生や異世界転移、夢小説――他にも事例は数多くあるだろうか」
大和は自分のタブレット端末で、小説サイトでランキング上位の作品をピックアップしながら話を薦める。
「こうした勢力に対し、少数派の意見を集約したかのような告発小説を投稿し、混乱を生み出す。やがて、それらが小説サイト全体に広まれば――」
「広まれば、どうなるのですか?」
大和の発言に対し、蒼空はある程度の話を合わせるのがやっとである。それ程、彼女の話は様々な部分を飛躍指定可能性が高い。
「二次創作で炎上騒動が起きれば、どうなると思う?」
「小説サイト側が二次創作を規制し、一次創作のみの受付にシフト――!」
大和の質問に対し、蒼空が即答をするのだが――そこで何かを思い出した。
「ARゲームでプレイヤーを題材にした夢小説が、ガイドラインで禁止されていたのは――」
蒼空はガイドラインを再チェックしていた際、気になる項目を発見したのである。
『ARゲームを題材とした二次創作は制限をしません。ただし、プレイヤーの迷惑にならないよう、実在プレイヤーを題材とした夢小説やフジョシ向け作品はご遠慮ください』
この項目である。実在プレイヤーを題材にしてはいけないというのは肖像権やプライバシー的な部分も踏まえているのだろう。
しかし、実在の歌手や芸能人、実況者等を題材にした夢小説やフジョシ向け作品は存在している。
それに加えて、下手に規制をすればクレームが避けられないという事で出来ていないのが現状だ。
あくまでも自治体単位、事務所単位で対応しているのが現状かもしれない。
しかし、ARゲームの場合は実在プレイヤーが題材の物は一般的なファンアート以外はNGである。
「他のアカシックレコードでも言及されていた、超有名アイドルを題材にした夢小説とは――」
大和が何かの発言をしようとした矢先、突如としてARガジェットに何者かの動画が流れ出した。
「この人物は、まさか――!」
蒼空はこの人物に関して、見覚えがあった。それは、榛名・ヴァルキリーである。
午前12時58分、榛名の動画はARガジェットを通じて流れた。テレビ等では通常放送であり、そちらの電波に介入する物ではないらしい。
『いよいよ、我々の革命が始まる。超有名アイドルと言う国内だけで莫大な利益を上げているチートコンテンツが、海外では無力であることを証明する為の――』
相変わらずの素顔を隠した状態ではあるものの、カリスマのオーラは感じ取れるような物があった。間違いなく、本物の榛名・ヴァルキリーである。




