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第3話【別視点:ウルル・バルハザード】


【魔法適性まで残り7日だった頃】


 ウルル・バルハザードはかつて剣聖だった。

 この世界において、王都が滅びる危機を三度も救った。


 酸の海で死海のサーペント、灼熱の火山で炎王ドラゴンを、ついには魔神復活を阻止した。


 彼女に与えられた名誉は────剣聖のみ。


 そして、戦いで子供を守り片腕を失った。


 隻腕となった彼女を、王国はすぐに見捨て新たな剣聖を据えた。


 ウルルへの手当やその後の保証などはなく、居場所を失い、剣の道すら失った彼女をファフニール家は大金で拾った。


 そして、剣も握れないカイル・ファフニールの専属となった。


 ……どれほど国に尽くしたところで、使えなくなったら簡単に捨てられる。


 かつては、

 『剣聖様が居れば、我が国は安泰だ!』

 『流石ウルル様……!』

 『国を守ってくれてありがとう!』

 

 だが、腕を失ってからは全く違った。


 『やった! 新しい剣聖様だ!』

 『前の剣聖は不安だったから、安心できる!』

 『ようやく安心して暮らせるわ』


 全員に認められるとは思っていない。

 けれど、腕を失い戦えなくなった瞬間から、世間の評価はがらりと変わった。


 ────剣を失った瞬間から、誰も私の剣を求めなくなった。


 辛い気持ちを吐き出すように、煙草をふかした。


「ヤニうめ~……」


 最近では、酒と煙草ばかりな気がする。

 剣聖だった頃は、どちらもしていなかった。


 この行いが……自分を憐れんでいることくらい分かる。


 中庭で必死に立ち上がろうとするカイルを見ながら、ウルルは内心で思う。


「カイル様……なんか、変わったな。ふぅ……」


 少し前まで、もっと生意気で傲慢な子供だった。

 父親に『落ちこぼれ』といわれれば、一人部屋で喚き散らすし、人にも強く当たる。


 メイドにも厳しく、物を投げてはよく怪我をさせていた。


 なんなら、私の名前すら覚えていなかった。


 大量の汗を流しながら、立ち上がろうとするカイルから目を離せない。


『君は本来、騎士団や剣を振るう場所に居たいはずなのに……俺のような元で、飼い殺しにさせてしまっている』

 

 ……あの言葉が気になる。

 どうして、私の心を見透かせた?


 私がまだ、剣への未練が捨てきれていないと……どうして分かったんだ。


 きわめつけ、急に努力し始めた。


 今まで、一度も立ち上がろうなんてしたことがないのに……。


『ウルル。とりあえず俺は、自分で歩けるようになるよ』


 ……。


『そしたら、俺に剣を教えてくれないか』

「……」


 首を横に振る。

 無理無理。立ち上がれもしないのに、剣なんか握れる訳もない。


 急にやる気が出たのは良いが、どうせすぐ諦める。


「でも……久々に私の剣を求められた気がするな」


 もう何十時間も、カイルは努力していた。


 *


【魔法適性まで、残り6日】


 今日もカイル様は立ち上がろうとしている。

 だが、昨日よりも力が増しているように感じた。


「っ‼」


 目に見える訳ではないが、オーラが増している気がする。


 ……どういうことだ? 彼の足は不治の病だと聞いている。


 でも彼は今、確かに立っている時間が増えている。


 長時間は無理でも、数秒から数分に……一体どうやって……。


 でも努力の仕方が酷いな。

 まるで死にたくないから、頑張るみたいな必死さだ。


 一体、何が彼をそこまで突き動かすのだろうか。

 地べたを這うカイルに近寄る。


「……あなたの足は、生まれつきだと聞いています。どう頑張っても無理でしょう」


 闘いの中でも、傷を負って戦士を辞める者はいた。

 でも、その後のリハビリや努力で復帰した人間も見たことがある。


 だが、カイルのように生まれつき不自由な人間は、また別の話だ。


「原因不明の不治の病……可哀想だとは思いますが、絶対に無理なのですよ」


 これでカイル様も諦めがつくだろう。

 だが、カイル様の眼は諦めていないように見えた。


 *


【魔法適性まで残り5日】


 カイル様は完全に立っていた。


「おはよう、ウルル」

「なっ……ど、どうして!?」


 あれは絶対に無理なはず……たった二日で立てるようになった……?

 どうやって……?

 

 一週間後の魔法適性の話を聞いてから、様子が変だとは思っていたが……。


「ウルルの剣、教えてくれるか」


 まさか! そのためだけに、何時間も頑張って……。


「そ、そんなに私の剣を学びたいのですか……?」

「そうだ。すべては身体が資本だ。それは剣の道に通ずるだろう?」


 どうして、心がキュンキュンしてるんだ。

 私は死地を何度も潜り抜けてきた。

 

 彼の行動はただの気まぐれだと思っていた。

 

 だがカイルの目は……真剣だ。


 今まで歩けなかった少年が、たった二日で歩けるようになった。


 どんな手を使った? どんな方法を? いや……どうであれ、私はこの二日間見ていた。

 地べたを這いつくばっても立ち上がろうとする彼の努力を────。


 とんでもない根性と覚悟だ……。


 タバコの火を消し、微笑んで見せた。


「まったく……少しだけですよ」


 もしかしたら私は、心の奥底で……こんな日を望んでいたのかもしれない。


 *


【魔法適性まで残り3日】

 

 この二日で分かった。


 ……カイル様は天才だ!

 剣はまだまだが、才能がある! それにその内に秘める力がとんでもなく奥深い。


 彼が立てるようになった理由は、まだ見えてこないけど剣の筋も良い。


 何より真面目だ。

 前は喚き散らす子供だったのに、剣で傷を負っても文句ひとつ言わない。


 彼に何があったんだ。


 カイルと剣戟を交える。


 何より、この剣に込められている力だ。

 ……何だ、この剣は!


 私は今まで、幾度も剣を交えていた。


 けれど、剣先から伝わって来る魔力とも違う力に、困惑していた。


 カイル様は己から何を引き出している?

 何を持っている? 


 知りたい。


 この力の源が知りたい。


 この子供は凄い子供かもしれない!


 そう、煙草を吸いながら強く思った。


「ヤニと最高の弟子……美っ味ぇ~……」


 あぁ、でも……やはり剣は素晴らしい。

 剣から伝わって来る真剣さ、気持ち……表裏のない感情が、心地よい。


 隻腕になっても、やはり私は剣が好きなんだな。



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