.5 条列高校
横から飛んできた声に、ジンは振り向く。
「おっ、田中!」
同じ対魔部の一年生である田中が、気さくな笑みを浮かべていた。
「お前、今日は朝から市外で朝練だったんだぞー」
「ああ、そうだったっけ?」
ジンは頭に手を当て笑う。
(まー、結果的には良かったな!)
「でも、お前、先輩に褒められて良かったな!」
「ああ!」
嬉しそうに頷くジン。
すると今度は別の方向から元気な声が飛んできた。
「ジン君先輩!」
その声にジンは振り返る。
「あ、お前もきたの?」
そこに立っていたのは、
四元学園中等部三年の対魔部の俺の後輩。
すると後輩は、ぷくっと頬を膨らませる。
「メイちゃんです!」
そのやり取りを見ていた田中が苦笑する。
「新愛、“お前”はないよ。ちゃんと名前で呼ばなきゃな!」
「メイちゃん?」
確認するようにジンが呼ぶと、メイはすかさず腰に手を当て。
「冥堂って名前なんで!」
「そうなんだ。じゃあ、メイちゃん……も来たんだね」
「はい! よろしくお願いします!」
と明るい笑顔を向けられ、ジンも笑い返す。
「よろしくー!」
すると、アヤカがジン達3人を見て。
「今からすぐに、市街練習へと向かう、柔軟!」
ジン、田中、メイは返事をしながら、その場で軽く体をほぐし始める。
脚を伸ばしながら、田中が話しかけてくる。
「なぁ新愛、お前、7月の全対でるんだろ?」
全日本対魔交流戦。
日本中の対魔部が集まる、年に一度の全国大会。
「えっ、うん、たぶん」
ジンは首を傾げる。
(そういえば、アサがなんか言ってたなー)
「たぶん?......でさ、お前、最近の屋根走り200のタイムは?」
「200?…最近はかってないかも」
「俺は17な!」
少し得意げな田中。
「ふーん、17……」
ジンは軽く頷く。
横で柔軟していたメイが、不思議そうに二人を見る。
「それって、どうやってやるんですか?」
「屋根走りのこと? いや、普通に屋根の上を走るだけだぞ」
田中は当たり前のように答える。
だがメイはさらに目を開けた。
「それって、飛ぶのは駄目なんですか?」
「えっ?」
田中は思わず動きを止める。
すると、前方からアヤカの声が飛んだ。
「よし、そろそろ行くわよ」
ジン達3人は柔軟を切り上げ、市街の練習区域へ向かい始めた。
道中、家々の屋根の上を走りながら、田中がふと思い出したように口を開く。
「なー、夜乃のとこも、衛星、打ち上げるんだってな」
夜乃、アサの名前。
ジンは目を丸くする。
「えっ、そうなの?」
「やっぱ、夜乃のとこすげーなー」
感心したように前を見て、言う田中。
そんな会話をし、4人は市街地を進んでいく。
午後の風が頬を撫で、流れていく街並みが足元を過ぎていった。
やがて、市街練習区域へと到着する。
アヤカがジン達3人へ声をかけ、練習を始めようとした——その時だった。
「お前達、ここで訓練か?」
低い声に、アヤカとジンが反応する。
そして、一人の男がこちらへ歩いてきていた。
アヤカは落ち着いた様子で答える。
「ええ、我々は事前に申請しておりますので」
それだけ言うと、いつもの様子でジン達へ向き直った。
男もわずかに目を細めると、
「そうか、なら俺達の邪魔はするな」
と言い、そのまま連れの方へ戻っていく。
その背中を見ながら、ジンは少し眉をひそめた。
(あれ? もしかして、あの人達は条列? 大丈夫?
このまま練習始めて......)
条列高校。
四元学園と同じく対魔部を持つ高校。
ジンはアヤカのそばへ小走りで向かう。
「あのー、大丈夫すか? たぶんあの人達、条列ですよね?
なんか、練習中に接触とかしたら......」
アヤカは鋭く目を細めて返す。
「気にしなくていい、その時はその時よ」
(……)
ジンはアヤカの横顔を見た。
「その時はその時……」
思わず復唱した。
アヤカは前へ向き直ると、
「さぁ、始めるわよ。まずはこの辺りの屋根走りから」
「いやいや、俺、もう一回相手に言ってきます!」
ジンがそう言って振り返ろうとすると、
「必要ない」
ジンはそれでも、条列の方へもう一度視線を向ける。
そして、そのまま軽く手を上げ、駆けていった。
「あのー、一応こっちは事前に申請してて、あれ? 聞いてませんか?」
精一杯、穏やかに話しかける。
だが返ってきた言葉は短かった。
「失せろ」
「いや、そんな……」
わずかに声を小さくして言うジン。
その様子を見ていたアヤカが、呆れたように声を飛ばす。
「そいつらには話が、通じない、構うな!」
(うーん……)
ジンは足元を見つめる。
そんなジンの様子を見たアヤカは、小さく息を吐いた。
そして相手にも聞こえるように声を張る。
「なら、お互い代表1人を決めて、
今からここで軽く模擬戦をするというのは、どうだ?」
周囲の部員たちがざわっと反応する。
しかし男は振り返りもしない。
「くだらん」
するとアヤカは、その条列の男を見据え。
「自信がないならいい。さっ、練習始めるわよ」
その言葉に、男の眉がわずかに動く。
「世学が……」
低く吐き捨てる。
そして、少し奥にいた女子生徒へ視線を向けた。
「上綺、お前が行け」
呼ばれた女子生徒が前へ出てくる。
長い髪を指でくるくる弄びながら、不満そうな顔を浮かべた。
「えー、私ですか? この分のギャラとか出ますか?」
「勝てたらな」
それを聞いた瞬間、少し目の色が変わる。
「はぁー、しょうがないですね!」
そう言いながら、上綺はアヤカたちの方へゆっくり歩いてきた。
どこかやる気があるのかないのか、わからない足取りだ。
それを見たアヤカも、すぐに四元学園側の代表を決るように、視線を動かす。
「それでは…こちらは…ジン! あなたが行きなさい」
「え?」
突然の指名。
ジンの体がわずかに前のめりになる。
田中、メイもジンを見る。
「はい……行きます!」
ジンはそう返事をして、前へ出た。
その後ろで田中が、
「えー、俺がよかったなー」
そしてメイも、
「ジン君先輩、ファイトです!」
ジンは頷きながら、ゆっくりと上綺の方へ向かう。
(自分を......知るため......)




