.12 是王ワタル
突然話を振られたジンは、少し考えてから口を開く。
「……2、3年…えっと……ゼロデイ…権限昇格、バックドア……か、誰かが呼んでる……?」
(ファンクラブ入るか……?)
頭ではそんなことを考えていた。
アヤカはジンのその言葉に頷く。
「…学園のシステムにも干渉できて、魔物は今のところ、対魔部などの、生徒で対処出来るレベルだ」
アヤカの言葉を聞き、田中の表情が少し引き締まる。
アヤカは映像へ視線を落としたまま、静かに続けた。
「まるで試しているとも考えられる……」
「なにを?……」
田中も腕を組み、難しい顔で小さく頷いた。
その横で、ジンは上体を少し前に傾け、視線を落としている。
(今月のポイントもまだあったしな……)
そんなことを考えながらも、耳はアヤカの説明を追っていた。
「......まだわからないが、ただ魔物を発生させるだけで、わざわざここまでシステムに干渉する必要もない......」
田中は腕を組んだまま、しばらく黙り込む。
そのまま、アヤカは続ける。
「そして学園のシステムをカケル達と共に解析したら、その大部分が書き換えられていたわ」
その言葉に、田中の表情が一気に変わる。
「えっ……大部分!?じゃ、じゃあ、先生たちの誰かが!?」
身を乗り出す田中に、アヤカは落ち着いた様子で続けた。
「改ざんされた時間帯に管理者権限が使われていた、その権限を持つ教職員も当然リストにはある、
でも……そのコードはいわゆるゴッドメソッドだったのよ」
「ゴッドメソッド……」
田中の眉間にしわがよる。
その隣では、ジンが膝に腕を置いたまま、視線を落としていた。
(よし……入ろう……)
アヤカは目の前のホログラムを見ながら話を続けた。
「一つの巨大な処理の中に、あらゆる機能が詰め込まれている、その中に、特定の魔物の周波数をスルーさせる例外処理が紛れ込ませられていたの」
「なるほど……」
田中が小さく頷きながら、その言葉を繰り返す。
すると、ずっと大人しく話を聞いていたメイの目が、なぜかキラッと輝いた。
「わくわくっ!」
その様子にアヤカは一瞬だけ目を向けたが、すぐに映像へと視線を戻した。
「だからといって、技術力が低いとは限らない。急いで改修したか、既存のコードに無理やり組み込んだ可能性もある。ただ、少なくとも痕跡を隠すことより、目的の機能を動かすことを優先したように見える」
「……なるほど、でも学園外の誰かがその管理者権限のアカウントを使った可能性も……」
田中が慎重に言葉を挟む。
アヤカは少し間を置いてから、淡々と続けた。
「ログ解析でわかったのが、初めて書き換えられたのは3年前……最初に書き換えられたのはPC。
このアドレスは校内ではないが、それ以降では、校内のアドレスが使われて、
そしてなにより、アクセスされた 端末のひとつが学園に登録されてある是王の端末だった」
「えっ!?是王……?ワタル先輩ですか……!?」
田中の声が一段高くなる。
アヤカは映像越しに、三人を見渡した。
「さらに、ログや監査機構そのものを隠すような痕跡隠しもしていない。
機能は詰め込むけれど、後始末はしない。まるで周りが見えていない子供のやり方よ」
田中は眉を寄せ、アヤカの言葉を一つずつ整理するように考え込む。
「でもそれなら、ワタル先輩が生徒会長になったのが、去年だから、合わないですよ……
そ、それなら前の人が!?…それに、ワタル先輩の端末といっても……『端末=本人』ではなく『端末=証明書』でしかないですよね…あえて隠蔽しなかったという事も?」
アヤカは静かに頷いた。
「この学園では、生徒会長が管理権限の付与されたアカウントを引き継ぐことになっている。だから、前任者を通じて是王に渡った可能性もある。そして、端末の件も含めて、これだけでまだ断定はできない」
田中は考えるように何も言わずに頷く。
アヤカは続けた。
「そう。だから、まずは決定的な証拠を掴む必要がある。接触しやすく、調べやすい上に、ここの部員でも十分対応できるレベルの是王が、この部に任された。教師についてはその後。他に可能性のある者についても、別で調べることになっている。……下手に動いて、ゼオグループを刺激するのは避けたい」
「……ワタル先輩」
田中がぽつりと、その名前を呟く。
部室には一瞬、静かな空気が流れた。
窓の外からは、他の部活動に励む生徒たちの声が聞こえてくる。
そんな声が響く中、アヤカは静かに頷いた。
「ワタルを調べれば、何か分かる可能性が高い」
すると、それまで話を聞いていたメイが、ぱっと顔を上げた。
「ワタルセンパイっ!」
妙に元気な声が部室に響いた。
(ハイタッチ会か……)
ジンは変わらず膝に腕を置き、視線を落としてまま。
アヤカが端末に手を近づけると、そこに映し出されていた映像が消える。アヤカはそのまま端末を手に取った。
「よって、まずは一週間、是王を探る。証拠を掴むことが最優先だ、明確な不正行為やシステムへの干渉等が確認された場合は、その時点で鎮圧、確保。
学園システムの結界部分はすでに復旧させた、それに対して、何か仕掛けてくる可能性もある」
田中は少し表情を引き締める。
「じゃあ、先輩達がワタル先輩を、抑えるということですか?」
アヤカは目を伏せる。
「いや、私はカケル達と共に狭間の方での任務がある。今回はお前達に任せる」
「えっ、マジですか……」
思わず田中の声が漏れる。
アヤカはジンへ視線を向けた。
「ジン、あなたに是王を任せるわ」
ジンはさっきから姿勢を変えずにただ黙っていた。
「…………」
アヤカの眉が、ぴくりと動いた。
「ジン! 返事しなさい!」
「えっ? あ、はい……」
慌てて姿勢を正すジン。
その様子を見たアヤカは、ため息をついた。
そして、目を細めて。
「アイドルか?」




