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第34話「聖女とスピードスター:限界突破の超高速戦闘」


聖女の戦線と、翼のシスター


ゴレリンピック4日目、3回戦目。


 この試合は、ハルバートが破損したニクスが整備と調整のため控えに回り、タクト、クローナ、ローニャ、ルッコというメンバーで臨むことになった。


対戦相手は、エクサリス聖教国チーム。


 フィールド中央に出揃った相手チームを見て、タクトは一瞬息を呑んだ。


 そこにいたのは、タクトが昨日、うっかり翼に触れてしまった天使族のシスター、フィナ・ルミエルだった。


 彼女は小柄で華奢な体に純白のローブを纏い、白鳥のような翼をそっと折り畳んでいる。フィナの瞳は、タクトに向けられると僅かに揺れ、恥じらいと緊張が走った。


「あの…タクト様…」


 フィナは赤面しながら、聖なるクロスペンダントを握りしめる。


 彼女の隣には、質素だが質の良い純白のローブを着たプラチナブロンドの少女、クラリス・セインティアが立つ。


 彼女こそ、聖教国の信仰の象徴である聖女だ。優雅な微笑みを浮かべているが、その青紫の瞳には抑えきれない闘志が宿っている。


 そして、悪魔族のシスターという極めて珍しい存在、ノエル。漆黒のショートヘアに小さな紫の角を持つ彼女は、妖艶な曲線美を持つが、シスター服で己を律しているように見える。


 さらに、ショートカットの栗色髪に探索者風の軽量戦闘服を着た人間族の女性、エリス。彼女の鋭い緑の瞳は、既にタクトのゴーレムを精密に分析していた。


 悪魔族が聖女の興した国の代表を務めるという、異色の組み合わせに、悪魔族のルッコが軽口を叩く。 


「へぇ、聖教国にも悪魔族なんているんだ。あんた、退屈な信仰に飽き飽きしてないの?」


 ノエルは妖艶な微笑みを崩さず、ルッコの皮肉を華麗に流す。


「ご心配なく、ルッコ様。真の信仰は全てを包み込みます。そして、あなたの力も身体もあまりにも未熟ですわ。」


この正面からの皮肉に、ルッコが激怒する。


「なっ…!あんた…!」


エリスがニヤリと茶化す。


「ノエル、相変わらず手厳しいね。まあ、あの子の攻撃力だけは褒めてあげてもいいんじゃないか?」


 聖女クラリスは、表向きは「皆様、神聖な場です。軽口は慎んで。」と咎めるが、その心の奥底では、「もっとルッコを怒らせて、エグいゴレトルを見せて!」と期待していた。


 タクトは戦闘前の情報収集で、クラリスを聖女の肩書きから後方支援型だと予想していた。


 しかし、審判の合図とともに試合開始。タクトの予想は、開始数秒で完全に裏切られる。


「さあ、ゴレトルを楽しみましょう!」


 クラリスの聖女型ゴーレム【ルミナリア】が、白金の装甲を輝かせながら、優雅さとはかけ離れた速度と走り方で、最前線のルッコめがけて突っ込んできた。


「ちょっ!後方支援じゃないの!?」


ルッコが狼狽する。


 クラリスは楽しそうに笑いながら、ゴーレムの性能を説明し始めた。


「【ルミナリア】は後方支援機として作られたけど、私つて最前線で殴り合うのが大好きなの!聖女になってからずっと忙しくて、ゴレトルなんて全然できなかったんだから!この試合でストレスを全部発散させてもらうよ!」


 優雅な聖女の仮面を剥ぎ取ったクラリスは、巨大な聖杖をゴーレムに吸収させ、【聖杖剛拳】を発動。


 ルッコは、自分を否定された怒りと、聖女の裏の顔への驚きから、一瞬の躊躇もなく【クリムゾンヘイト】を臨界点まで高める。


「あんたのロマンなんて、知ったことか!【超剛力】!【犠牲】!スーサイドコンボよ!」


 悪魔族の激情と聖女の奔放な闘志が、フィールド中央で激しく衝突する。


 ルッコの大鎌とクラリスの光輪を纏った拳が、超近距離で怒涛の殴り合いを開始した。


ガキン!ドガッ!


 クラリスは【超硬化】で防御力を大幅に強化し、ルッコの攻撃を耐えきる。しかし、スーサイドコンボによる絶大な威力は防御を貫通し、【ルミナリア】の白金の装甲を少しずつ歪ませた。


【ルミナリア】がダメージを受けると、後方の天使型ゴーレム【セレスティアル】を操るフィナが、即座に支援を開始する。


「【聖光】…皆様に、天恵を…!」


【セレスティアル】の光の杖から聖なる光が放たれ、クラリスのゴーレムの耐久力を回復させる。回復魔術は制限されているゴレリンピックのルール下でも、フィナの純粋な聖なる魔力はなお強力だった。


 ローニャは状況を焦りながら分析する。


「タクトさん!フィナさんの回復が思ったより強力です!このままではクラリスさんのゴーレムがいくらでも回復しながら、ルッコさんの耐久を消耗させます!フィナさんを止めてください!」


 タクトは即座に判断し、【爆風】ブーストでフィナめがけて突撃しようとする。


 その時、タクトの隣に、音もなく、銀灰色のゴーレムが並び立った。


鳥人型ゴーレム【ファルコン】を操るエリスだ。


「お前の相手は、私だよ!」


【ファルコン】は、タクトと同様の【爆風】ブーストを発動していた。タクトの【アブソルトレイル】と同速、いやそれ以上の速度で、エリスはタクトの隣を並走している。


タクトは戦慄した。


「同じブースト…しかも、俺より速い…!?」


「プロのBクラスを舐めないでもらいましょう。フィールド探索で培った、私の機動力は貴様ごときとはレベルが違う!」


【ファルコン】の両腕のガントレットが、風の刃を放つ【風剣】を展開する。


「超高速戦闘、開始よ!」


 タクトは急いで応戦する。【爆風】と【光剣】を乱舞させるタクトに対し、エリスは【風剣】と【風翼】による空中姿勢制御を駆使し、タクトを翻弄する。二機のゴーレムは、フィールドを疾走する光と風の残像となった。


 反対側からフィナへと回り込もうとするクローナの【ゲイルハルト】を、ノエルの悪魔神官型【ディアボルム】が即座に阻止する。


「残念ですわ、人狼族の少女。貴方の奇襲はここで終わりです。」


【ディアボルム】の漆黒の装甲から、闇の呪文書が展開される。


「【呪詛】!」


 闇の魔力がクローナのゴーレムに襲いかかる。【ゲイルハルト】の動きが僅かに鈍り、スキル発動に一瞬の遅延が生じた。


「くっ…【ゲイルハルト】の足が…!」


クローナは歯噛みする。


 ノエルの【ディアボルム】は、飛行能力を持つ【堕天翼】で上空に留まり、闇の榴弾を撃ち出す【爆裂闇弾】でクローナを牽制する。


ローニャは、戦場の状況に加勢する場所を迷っていた。


 フィールド中央では、ルッコの【スーサイドコンボ】による圧倒的な破壊力と、フィナの【聖光】による回復力が拮抗している。支援の差で、クラリスが僅かに優勢に見える。


 左翼では、タクトがエリスという同系統の超高速ゴーレムと死闘を繰り広げ、加勢できる余地がない。


 右翼では、クローナがノエルの巧みな妨害に足止めを食らい、打開策を見いだせない。


 タクトチームに必要な事は、フィナの支援を止めることだ。


 エクサリス聖教国チームは、聖女のタンク役、天使の完璧な回復、悪魔の精密な妨害、そして探索者の超高速奇襲という、完璧に構築された連携と戦略を持っていた。


 ゴルディアスチームは、聖女の予想外の突撃と、エリスの超高速というデータ外の要素に対応できず、徐々に追い詰められていく。


ローニャの焦燥が、聖都の空に響いた。



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