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第33話「鬼子と光の共闘:囚われの元騎士と天使の秘密」


壊れたハルバートと、運命的な再会


 ゴレリンピック2回戦の翌日。ゴルディアスチームは、一日の休養日を迎えていた。


 聖都エクサリスの荘厳な街並みを歩くタクトたちの中で、ニクスは小さな喪失感に包まれていた。


「ハルバート…壊れた…。」


 ニクスはぼそりと呟く。【アサルトフェリス】にとって、重すぎるハルバートは相性が悪いと頭では理解していた。だが、その重厚な手応えと破壊力が、感情が希薄なニクスにとってのこだわりだった。


「仕方ないわ。あの豚鬼族のパワー、尋常じゃなかったもの。」


ルッコが気遣うように言う。


 タクトは早速、ニクスを連れて街の工廠を探すことにしたが、なかなかニクスの目に叶う工廠には出合えなかった。


 その時、偶然にも彼らは路地裏の角でゼノンとルナのコンビにバッタリと鉢合わせる。


 先日戦った小鬼族と夜鬼族という組み合わせに、タクトたちは一瞬警戒した。


 ゼノンは、ニクスの手元にある砕けたハルバートの残骸を見て、即座に状況を察した。


「武器を探しているのか?」


ゼノンが静かな声で問う。


 ニクスは、敵に不利な情報を渡すまいと口を噤む。だが、危機感の薄いタクトが、あっさりと訳を話し始めた。


「ああ、そうなんだ!ニクスのハルバートがボルグのハンマーで折られちゃったからさ。いい工廠を探してるところなんだ!」


「タクト君!余計なこと言わないで下さい!」


ローニャが慌ててタクトの口を塞ぐ。


ゼノンは、タクトの純粋な正直さと、ニクスの戦闘力を計算に入れる。そして、思いもよらない提案をした。


「私の予備の武器を提供できる。私の立ち上げた工廠は、聖教国の技術をも取り込んでいる。その辺の工廠よりは、高性能なものを即座に用意できる。」


 タクト一行は恐縮するが、ゼノンに善意はなかった。彼は、タクトたちの「ロマンと絆」という才能が、将来自身の野望に必ず役立つと計算したのだ。才能は投資の対象だった。


 その様子を、ゼノンの裾を掴んでいるルナが濁った瞳で見ていた。


「この泥棒猫…。」


 ルナは小さな瞳でニクスを睨みつける。ゼノン様に近づく新たな女は全員排除という強烈な愛が、彼女の華奢な身体を貫いていた。


 


 ニクスのハルバートをゼノンに頼んだタクトたちは、ゼノンとルナと一緒に食事をすることになった。


 敵同士の奇妙な食事だったが、互いのゴレトルや技術について話すうちに、警戒心は徐々に薄れていった。タクトはゼノンの知性に、ゼノンはタクトの単純な情熱に興味を抱く。


(こいつらは、俺の野望に利用できる。タクトの絆の力は、スティア連合国の支配体制を揺るがすのに役に立つだろう…。)


 ゼノンは冷静にタクトたちを品定めしていた。ルナは、ゼノンの隣で無言で食事を続けるが、タクトとニクスに対しては、小さな殺意の視線を送り続けていた。



 食事を終えようとしたその時、慌てた様子の二人の女性が、彼らの席に駆け込んできた。

 一人は、活発な狐人族のミヤコ。もう一人は、筋肉質で大柄な大鬼族のヒルダ。二人ともゼノンの奥さんだ。


「師匠!大変っす!セレナが…捕まっちゃったっす!」

ミヤコが涙目で叫ぶ。


「エクサリス聖教国の騎士団にだ!『堕落騎士』の烙印が押されると、審問にかけられるそうだ!」

ヒルダが怒りに顔を歪ませて続けた。


 ゼノンは一瞬にして表情を失った。冷静沈着な彼の瞳に、初めて明確な激情が宿る。聖騎士セレナは、彼の今後の計画にとって不可欠な存在だ。


「セレナを捕らえただと…?」


 ゼノンは激怒し、小さな体躯から凄まじい魔力を放出した。


「エクサリス…聖教会…!」


ゼノンは即座に立ち上がり、聖教会へと向かう。


 タクトも、目の前で起こっている悲劇を見過ごすロマンを持ち合わせていなかった。


「俺たちも協力する!卑劣な審問なんて、ぶっ潰してやろう!」


 タクト一行は、ゼノンと二人の妻、そしてルナと共に、囚われたセレナを救出するため、聖教会へと殴り込みをかけた。



 聖教会に辿り着いたタクトたちの前に現れたのは、天使族のシスターだった。


 小柄で美しい金髪碧眼。背中には、白鳥のような純白の翼が広がり、神々しい光を放っている。


 タクトは、天使族の存在に驚きつつも、冷静に状況を説明しようとした。


「お願いです!私たちは、不当に捕らえられた騎士の無実を訴えに来ました。責任者か誰かに会わせてください!」


シスターは、困惑した表情で純粋な声を上げた。


「あ、あの…審問は厳正な法に基づいて行っておりますし、本日はそのような予定は…部外者はお通しできませんので…。」


埒が明かないと判断したタクトは、強引な行動に出た。


「とにかく急いでるんだ!」


 タクトは、シスターの身体に触れることなく、背中に広がる純白の翼をそっと触れて、押しのけた。


「ひぃあぁっ!」


 シスターの口から、艶やかな悲鳴が漏れ出た。彼女の美しい顔が一瞬で真っ赤に染まり、涙目になる。


タクトは何が起きたのか理解できず、困惑する。


ルッコが即座に怒鳴り散らした。


「タクト!あんた何やってんのよ!天使族にとって、翼はパートナー以外に触れさせてはいけない…大切な所なのよ!」


ルナが、濁った目でタクトを睨みつける。


「こんな時に…、性獣…、セレナさんが大変なのに…。」


ヒルダが豪快に笑う。


「こりゃ、聖教国で最高のタブーをやっちまったな!」


シスターは涙目になりながら、震える声で訴える。


「わ、私の…翼…汚されてしまいました…」


タクトの平謝りするしかなかった。


「い、いえ…知らなかったのなら良いのです…、許します…。」


天使族の純粋さと、タクトの悪意のない行動に、シスターは困惑の渦に嵌っていた。


 シスターがタクトの行動に混乱している隙に、ゼノンは鋭敏な魔力感覚で、地下へ続く通路を発見した。


「ここだ。審問施設は地下にある。」


 一行は急いで地下へと降りていく。純白の翼を持つシスターは、タクトに汚された翼を抱きしめながら、地下へ消えるタクトの背中を見つめていた。


 地下の審問施設に到着すると、ヒルダの元婚約者が聖教会の教会長と共謀し、セレナを捕らえることでゼノンへの復讐と権力掌握を企てた事件であることが判明した。


 彼らは悪党だったが、この世界では追い詰められると、とりあえずゴレトルでどうにかしようとする傾向があり、生き残っている悪党は結構強い。


 敵の数が多かったため、一行は即席でチームを分けることにした。


・ローニャとニクス(遠距離、精密)

・クローナとルナ(近接、奇襲)

・ヒルダとミヤコ(パワー、罠)

・そして、タクトとゼノン(高速、戦略)


 タクトとゼノンチームの相手は、セレナの元婚約者と共謀している教会長。救世主型ゴーレムと神父型ゴーレムを繰り出してきた。


「神の力を前に、邪悪なる鬼子に味方する愚か者よ!」


教会長が高らかに叫ぶ。



 ゼノンは静かに【ギガントオニキス】の六本の腕を展開する。


「タクト。君は高速機動で相手の注意を引きつけろ。攻撃は私の指示に従え。」


「了解だ、ゼノン!俺のロマンが、お前の戦略で輝くなら!」


 タクトの【アブソルトレイル】が、【爆風】ブーストで高速機動を開始。教会長の神父型ゴーレムの注意が、タクトの眩い光に集中する。


その一瞬の隙を、ゼノンは逃さなかった。


「二秒後、右側面!」


タクトは即座に減速し、右側面に【光剣】を展開。同時に、【ギガントオニキス】の六本の腕のうち、一本の腕から弩弓の一撃が放たれた。


 タクトの【光剣】が神父型ゴーレムの障壁を一瞬だけ中和し、その内側に、ゼノンの弩弓の高圧魔力弾が深々と突き刺さった。


「なっ…バカな!」


神父型ゴーレムは即座に機能停止。


 タクトの【超高速】とゼノンの【超精密】。光と闇、熱情と冷徹が驚くほど相性が良く、一分の隙もないコンビネーションを生み出していた。


 救世主型ゴーレムを操る元婚約者も、瞬時に相棒を失ったことで動揺する。


ゼノンは冷静に、元婚約者の心理状態を計算した。


「タクト、残りの魔力を全て槍杖に集中。全力の【熱線】で奴の逃げ道を全て潰せ。」


タクトは迷いなく、【熱線】を最大出力で発射。


 元婚約者は逃げ道を失い、【ギガントオニキス】の大斧に叩き潰された。


 タクトとゼノンのコンビは、僅か数分で教会の首謀者たちを撃破した。


 取り巻きたちも、ヒルダの豪快なパワーとミヤコのトリッキーな罠、そしてローニャの精密な射撃とニクスの臨機応変な模倣の前に、次々と敗れ去っていた。 


 特に興味深かったのは、クローナとルナのチームだ。人狼族のクローナと夜鬼族のルナは、夜を好む種族という共通点と、術者同士の不思議な共感から、何か通じ合うものがあったようだ。


 クローナが【ゲイルハルト】で強襲をかけ、ルナが【ムーンヴェイル】の【影縫】で動きを封じるという連携は、まるで長年の相棒のように自然だった。


 ゼノンはセレナを無事救出し、首謀者たちを聖教国の治安維持隊に引き渡した。一件落着だ。


 地下通路を引き上げる際、ルナクローナの袖をちょこっと掴んでいた。純粋な心を持つ夜鬼族と人狼族は、敵味方を超えて親愛の情を抱き始めていた。


 タクトは、ゼノンの知性と圧倒的な戦略に感銘を受け、ゴレトルだけでなく、知恵の重要性を改めて認識した。


「タクト、今回は助かった。」


 ゼノンは、冷徹な瞳に微かな満足を浮かべた。タクトのロマンは、予想以上の破壊力を持つことを確信したのだ。


彼は、自身の目的へと一歩近づいたことを悟る。




 しかし、聖教会のシスターが、純白の翼をそっと撫でながら、タクトの背中を遠くから見つめていることを、誰も知る由もなかった。


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