表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/40

愚者の舞い 3−8

 アクティースの予想に反して、ミカはなかなか足腰が強かった。

神殿内は狭くはないが、何をするにも長距離移動が必要なほど広くもない。

しかも、神殿に来る前は籠の中の鳥よろしく、ほとんど軟禁に近かった筈なのだが、丸一日近く歩きづめでも平気な顔をしている。

これが、クーナ達なら分かる。

アクティースと契を交わし、竜巫女になっているからだ。

竜巫女は半竜に近いものがあり、竜としての特性もそれなりに引き継ぐ。

腕力や脚力などの肉体における筋力の増加、打撃などの衝撃や斬撃などに対する対抗力の増加に加え、多少の竜語魔法も使えるようになる。

それゆえ、丸3日ほど飲まず食わずで行動出来ても不思議ではないのだが。

ミカはまだ竜巫女になっていないのに、このタフさなのである。

アクティースでなくても、驚くと言うものだろう。

もっともそれは、ミカがクーナ達と共にやっている、拳闘志としての訓練の賜物である。

ミカはあの事件以来、足手纏いにならないように必死に訓練して来た。

そのために、体力・筋力共に鍛えていたのだ。

「ところで、アクティース様。」

「なんじゃ?」

「もの凄く目立ってますね・・・私達。」

「わらわが美しいからじゃ。」

即座に言い切るだけの美貌は、確かに持っているアクティースである。

なんせ常日頃、クーナ達と肉体美について研究する事に余念がないのだ。

暇さえあれば素っ裸になって、あそこをこうだここをこうすればと変えているのである。

元々偽りの姿だけに、変えるのも安易であるため、4人とも楽しんでやっていたものだ。

もっともミカが来た頃にはほとんど落ち着いてしまい、やってはいなかったが。

ただ、アクティースはそのために完璧な美貌になってしまい、確かに目は引かれるがそれ以上の興味はわかない。

ある意味、生まれながらに極められた、エルフの美貌と同じなのだ。

実は、道行く人々の一番興味をひいているのが自分自身だとは、ミカはまったく気付いていなかった。

美しい、と言う分野でいえば、ミカはそうでもないだろうが、可愛らしさと言う点においては圧倒的にアクティースより抜きん出ている。

ましてや成人になりたての婚期真っ盛り、溌剌とした若さが滲み出ていた。

「ミカや。」

「はい?」

人の多い町中を抜け、人気ひとけの無くなった辺りで唐突に声をかけられ、ミカは振り返り、石につまずいて転びそうになる。

「お前に聞いておきたい事があるのじゃ。」

「なんですか? アクティース様。」

「もしわらわが死んだら、お前はどうするのじゃ?」

特に真剣な表情でも無く、世間話でもしているような顔でそう聞かれ、ミカはアクティースの真意を量りかねた。

「・・・アクティース様が死んだら・・・ですか?」

「そうじゃ。 わらわは寿命がないゆえ、自然に死ぬ事はない。 じゃが、病気や怪我ではその限りではない。」

「・・・考えた事も、無かったですが・・・。」

そもそも、病気になるのだろうかと疑問が浮かぶ。

クーナ達でさえ病気知らずなのである。

ましてや大元である、本物の竜が病気になるなど、想像すらできない。

「今ならまだ、巫女になっておらぬ故、どこぞでも行けるが?」

「私は・・・できれば、その時まで一緒に居たいです。」

「帰る場所がないからか?」

「理由はそれだけでは・・・ありません。 あ!」

アクティースが更に問いを重ねようとした時、ミカが声を上げて立ち止った。

何事かと見れば、前方で馬車が倒れていた。

ここは山間の山道だけに人の往来が少ない。

先ほどから誰ともすれ違わず、付近に人影もないことからこんな質問をしていたのだが。

「馬車が倒れておるが、山賊でも出たかのぉ。」

「大変! 負傷者がいるなら助けないと!」

「放っておけ。」

「・・・え?」

「人間同士の争いに、首を突っ込むのは好かぬ。」

「そ、そんな! 苦しんでいる人がいるかもしれないんですよ!?」

「わらわは助けてくれと頼まれておらぬし、こやつらから貢物も貰っておらぬ。 助ける義務も必要もあるまい。」

「義務って・・・!」

「ミカや。 お前はわらわが誰だか忘れておらぬか?」

ギロリ、と、睨まれ、ミカはビクリと身を竦ませる。

その眼光には紛れもない苛立ちと殺意があったからだ。

「わらわは我儘を言われるのは好かぬと言った筈じゃ。 先を急ぐぞ。」

そう言いながら、平然と足早に通り過ぎるアクティースを慌てて追いかけつつ、ミカは通り過ぎながら馬車をできるだけ詳細に見た。

馬車に繋がれていた馬の死骸や車体には、何本もの矢が突き立っており、山賊の仕業だとハッキリ分かった。

「ごめんなさい・・・。」

蚊が鳴くような小さな声でそう謝罪し、少し先に行ってしまったアクティースに早足で追い付くが、その歩みもさほど進まずに止まる。

道の脇から三人づつ、前後に山賊が現れて立ち塞がったからだ。

「これはまた、えれぇ美人じゃねぇか。 高く売れるぜぇ、こいつぁ。」

「さっきの娘もなかなかだったがな。」

「今日はついてるなぁ、え、おい。」

「目障りじゃ。 消えるがよい。」

下卑た笑みを浮かべ、そんなやり取りをしながら包囲の輪を狭めていた山賊達は、アクティースの一言で一瞬硬直し・・・腹を抱えて笑いだした。

「おい聞いたか? こいつ自分の置かれてる立場を分かってねぇようだぜ!」

「まったくだ。 6人相手に女二人で勝てるとでも思ってんのかよ。」

「いやいや、こういう気の強い女こそ楽しめるってもんだぜ。」

「おいおい、俺にも回せよ。」

そんな山賊達に、アクティースは聞えよがしにため息をつくと、呆れ果てたと言わんばかりに言い放った。

「顔も容姿も悪ければ、頭も耳も悪いようじゃな。 わらわは消えろと言ったんじゃが? わざわざ死に急ぐ事もあるまい。 見逃してやるゆえ即座に消えるがいい。」

アクティースにとっては塵芥よりも簡単に討ち滅ぼせる相手だけに、優しく言ったつもりだったが、相手はそう取らなかったようだ。

「おう、ねぇちゃんよ。 強がっていられるのも今だけだ。 後でグウの音も出ないほど苛めてやるぜ。」

「お頭、最初に壊さんでくださいよ?」

「まったくだ。 お頭にかかっちゃ・・・」

そんなやり取りをどこまで聞いていたのか。

ミカは全身を小さく震わせ、俯いていた。

「あなた達なの・・・?」

「あ?」

小さな声であったが、どうやら山賊の一人は耳が良かったらしく、ミカの言葉をしっかりと聞き取っていた。

「ミカ?」

いつもと違うミカの様子に、アクティースは訝しげに眉を寄せて見やる。

「あなた達がやったの・・・?」

そう言いながら、今通り過ぎたばかりの馬車を指さす。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ