愚者の舞い 3−7
勢い込んでワーム退治に赴いたルーケ達だったが、前日に既に倒されていた。
なんでもノーブルスライムの女と、痩せた男のコンビに倒されたそうな。
ルーケ達に行き着くまでに、中年男はいくつもの町の冒険者の宿を巡っており、当然、日数も経っていた。
「でも、良かったではありませんか。 ワームは竜の一族ですから、その話を聞いたらご主人様が怒るかもしれませんよ。」
「最悪そうなるかもしれませんが、害を及ぼす以上、戦うしかないでしょう?」
ルパ達が荷物を物色している間、クーナはルーケの話を聞いていた。
ルパとメレンダは物欲が強いのか、ここでの生活で満足しているのか、外の世界の事はあまり興味がない。
だが、クーナは変わりの無い日常に飽きているとまでは言えないが、結界の外の事に非常に興味があった。
そのため、ルーケにしろアラムにしろ、クーナが接客する事が暗黙の了解になっていた。
「ところで、アクティース様は暫く不在なんですか?」
「いつ戻るかは分かりません。 いつもの事ですから。 始原の悪魔様はいずこに?」
「なんでも、魔界に用事があるとか言っていましたが、どこまで本当やら。」
「魔界・・・ですか。 なんだか不穏ですね。」
「何か考えがあるのかもしれませんが、よく分かりません。」
表情の陰るクーナに対し、ルーケは軽くそう答える。
実際に魔界に行けるのかどうかも分からないし、言うだけで本当は違うかもしれない。
嘗て魔王として降臨した事など、すっかり忘れているルーケである。
しかし、始原の悪魔アラムは、本当に魔界へと行っていた。
魔界には、闘技場と言う場所がある。
力こそ全ての魔界だからこそ、力を示せば何でも手に入る。
闘技場と言う戦いの場で、多くの者に戦いを見せ強さを誇示する。
そうする事で仕官口も舞い込んで来るので、何気に重宝されていた。
当然、勝負は命がけだし、観客が邪魔する事は許されない。
闘技場での勝負は賭けの対象にもなっているし、運営・管理しているのは現魔界王ミオンである。
対抗勢力が無い最強の勢力に喧嘩を売れば、確実な死が降りかかる。
そんな闘技場で、一人の若い黒人が最強伝説を作り上げていた。
「もっと強い奴はいねぇのか!!」
対戦相手を瞬殺してのけた若い黒人は、観客含めてそう声を上げる。
見詰める先には、魔界王ミオン。
ミオンはニヤリと笑うと、座っていた玉座から立ち上がろうとした。
「随分威勢がいいじゃねぇかネグロ。 俺が相手に成ってやろう。」
ミオンの出鼻を挫き、バサッと翼を打ち鳴らして、一人の若い男が競技場に舞い降りる。
その背の翼は、白と黒の左右対象色。
「おやぁ? こりゃ驚いた。 いつ戻って来たんだいアラム。」
ドヨドヨとどよめく観客達の声を聞きながら、ネグロはそう言いながら身構える。
「今さっきだ。 お前に話があってな。 で、俺相手でも素手でいいのか?」
「俺に話かい。 裏切り者の話ってな興味があるが、名乗り出た以上、まずは相手をしてもらおうか?」
「もちろん、そのつもりだ。」
そう言いながら、アラムも背中の翼を消して、身構える。
大魔界王として降臨していたアラムが、ミオンとメフィストを除く魔界王を殺害し、魔界統一後、聖魔戦争と自然界侵略を行った後、人間に骨抜きにされて、魔軍を捨てて天軍に寝返った。
大雑把にいえばこんな経歴に成るし、魔界の住民はそう信じていた。
「ミオン様! いかがいたしますか!?」
試合進行を担当していた者が、慌ててミオンの所に駆け付けて来る。
「放っておけ。 いずれにしろ、止められる者がおるまい。」
ネグロならミオンでも止められる。
だが、始原の悪魔がその気になれば、全世界の誰一人として止められまい。
どういう気か知れないが、勝負の結果は分かり切っている。
「全軍に通達しろ。 観客含め、勝負の邪魔をさせるなと。 下手に手出しすると、闘技場ごと消し飛ぶぞ。」
「ハッ!? ハハッ!! 直ちに!!」
だが、ミオンの心配は懸念に終わった。
「行くぜアラム!! ハァッ!!」
ボッと、両手と口に気の塊を出現させて同時に放ちつつ自身も突っ込む。
その気の塊ごと粉砕すべく突き出された正拳突きをやや屈んで紙一重で避けたと思ったら首筋を掴まれて突進を止められると同時にそのまま大地に叩き付けられる。
「まだやるか?」
「むぅ。 やっぱつえぇなぁ。」
ネグロは降参とばかりに手を挙げた。
そのほぼ一瞬のやり取りに、ブーイングを上げ始めていた観客まで歓声を上げる。
魔界の住民は、力が全てだし根は単純なのだ。
圧倒的な力と力のやり取りを見せつけられては、反感など簡単に消し飛ぶ。
もちろん、全員ではないが。
「で、話ってなんだい?」
解放されて立ち上がり、ネグロは腕を組みつつそう答える。
威張っているわけではなく、手出ししませんと言う魔界での意思表示の一つだ。
「アクティースが死ぬ。」
ネグロはピョコッと片眉を跳ね上げると、不機嫌そうな顔になった。
「ちぃ、なってこった・・・。 自然界には、あいつを倒せるほどのつわものがいんのか。 魔界に留まってなきゃよかったな。」
「いや、ただの寿命だ。 星を見ていないのか?」
「そんな暇あったら、腕立て伏せでもしているよ。」
「だろうな。 だから息子のお前に教えに来たんだ。」
黒竜であるネグロは、元来凶暴で本能のままに暴れる事が好きだ。
そのため、噂を聞くだけで相手が逃げ出してしまうので、相手がいなくなってしまった。
しかし、この闘技場なら相手は逃げるわけにはいかない。
それに、一回完膚無きまでミオンに負けて、いつか勝つと言う目標もでき、ネグロは現状で満足していたのだ。
もっとも、聖魔戦争で魔界に属して暴れまわったので、どんなに望んでも自然界に行く許可がおりはしないだろう。
自然界は天界の管理管轄なのだから。
「何か言付けはあるか? 伝えてやるぜ?」
「ん〜・・・。 特に無いかな。 そのうち聖域で会えるだろうし。」
「そうか。」
「それより、また今度やろうぜ。 強い相手は大歓迎だ。」
「そう言うセリフは、もっと強くなってから言うんだな、坊主。」
「もちろんなるさ。 いつか親父達より強くなって、リベンジしてやるぜ。」
「期待しているよ。 俺こそ強い相手とやり合いたいからな。」
アラムはそう言うと、姿を消した。
「ふぅ、やれやれ。 強いって言うのも、つまらねぇよなぁ。」
ネグロはアラムの言葉の意味を、よく理解していた。
アラムは元々争いを好む性質であり、暇さえあれば強い相手と戦い合いたいと考えている。
そしてその辺は、自分とまったく同じなのである。
全力で戦い合える相手と言うのは、なかなかいない。
その点まだ、自分は恵まれていた。
黄金竜と銀竜と言う強大な両親の間に生まれ、さらにミオンと言う全力を出して戦っても勝てない相手がいるからだ。
対して、アラムには誰もいない。
世界最強と言えば聞こえはいいが、本人にとっては苦痛以外の何ものでもないだろう・・・。




