明日の命題
グウェンが剣の訓練で怒っていたので、夕飯時も怒られるかと思っていたが予想は外れた。前世の父さんなら確実に引きずっていたな、とふと思い起こす。バス移動中で皆ダメになったと考えると申し訳ない気持ちになる。どうしようもないのは頭で理解しつつ、感情の波は立つ。
「リヒト、少し良いか」とグウェンが左腕で頬杖を付きながらも改まった感じで話す。
「はい、父さん。昼間はごめんなさい」
「いや、昼間のことはもう良い。明日だが、母さんの手伝いをしたら村を散策してきなさい」
「えっ!?どうしたの急に?」6年も過ごした村を探索する意味ってなんだ?
「いいから。明日は手伝ってね、リヒト」とシュエルがやさしく話に入ってきた。
なんだか分からないけれど、いままで分かったことの方が少ないのだから諦めよう。
「わかったよ、母さん」と言い、目の前の紫色のサラダを食べる。味覚がダークエルフなのか、前世なら絶対に食べない色の葉っぱとか平気になった。案外、イケル味なんだよな。
その後も夕飯では明日の探索の理由についての説明もなく、グウェンと狩りに行っているヴェルの弓の腕があがっている話や、魔獣を雷魔法で痺れさせた話を教えてくれた。説明したなかでグウェンの魔法特性も知れるかと思ったが、話には出てこなかった。よくよく考えるとシュエルの得意属性も聞いたことがない。神紙に技術や適性を書くみたいだからタブーってことはないと思うのだがなんでだろう?
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自室に戻り、魔法について考える。水と時空はいまだに使ったことすらない。特に時空魔法適性は、緑魔法適性と罠技術の替わりにて付いているから貴重なのだとは思う。多分、加護もあるのだし、勝手にマイナス要因をつけるほど悪い神様じゃないと思う。結局、選択も最後までさせてくれたし。あのとき、『紫』って俺が言ったばっかりに・・・ぬぁっ!!!と勢いよくベットから体を起こす。
というわけで、水魔法の練習の方が取っ付きやすそうだ。まずは『ウォーター』、君に決めた。
「少し、ほんとうに少しの水をイメージして・・・『ウォーター』」と小声で唱える。
チョロチョロチョロ〜と指先より少し離れた空間から水が出ている。シャワーよりも少ないしイメージ通りだ。水もきれいだし飲める・・・って、この水どうすんだ!!?
見事にベットに小さな湖ができた。
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翌朝、外で布団を見たグウェンに冗談半分に声をかけられたところ、それを見ていたシュエルが俺の目の前で魔法を使った。その魔法はグウェンの残像をすり抜け、大樹に突き刺さり、いくつかの氷の塊が砕け飛んだ。初めてシュエルが氷魔法の使い手だと分かった(水と風の上位互換で水より)。
俺は魔法に驚くよりも、へし折れたのに倒されることもなく、氷で溶接されたような大樹の上にグウェンが震えているのを見つけた。あまりに想像を超える能力と畏怖(主にシュエル)、それに構図に異世界に目覚めてから初めて大声をあげて笑った。