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花咲く都のドールブティック  作者: 冬村蜜柑
真白い輝きの冬の章
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冬薔薇咲いて



 メルはスモーキーピンクの冬用ドレスの上にとっておきの白いロングコートをふわりと着る。

 毛皮のマフを持つべきかどうか悩んだが、結局持たないことにした。

 なぜなら、彼と手をつなぎたいから。


 今日は、ジルとの久しぶりのデートなのだった。


 

「メルちゃーん、ジルセウス様が迎えに来たわよ」

 小さな鏡を見ながら帽子を整えていると、扉の向こうで、プリムローズおかみさんが愛しい人の来訪を教えてくれる。

「ありがとうございます、すぐに行きますね」

 メルが扉を開けると、プリムローズおかみさんはとても満足そうなため息をついた。

「メルちゃん、今日は綺麗よ。いつも綺麗だけど、今日はとびきり綺麗」

「……そう、なのでしょうか」

「そうよ、さぁさぁ、さぁさぁ、いってらっしゃーい!」




 茉莉花堂の店内で、ジルは待っていてくれた。

「ごきげんよう、メル。今日もメルが可愛いから僕は嬉しいよ」

「こ、こんにちは。ジル……。その、ジルこそ、素敵だよ」

 実際そのとおりだった。すらりと長身のジルは濃い焦茶色のシンプルなロングコートを纏い、ミルク色のマフラーをさらっと無造作に巻いているだけで素敵だった。


「今日はどこに行くの?」

「景色のいいところに行こうと思ってるんだ。ちょっと遠出になってしまうけれど……」

「大丈夫、今日は少しぐらいは遅くなってもいいよっておかみさんが言ってくれた」

「よかった。じゃあ行こうか」


 そうしてジルはメルをお姫様みたいにエスコートしてくれる。前と何一つかわらずに。

 変わったのは――ジルの立場。それだけだ。

 ジルセウスはこの冬のはじめからリヴェルテイア家を出て、貴族の籍を抜けている大叔父様の家で暮らし始めたのだという。

 そのためか、馬車も以前ほど華麗なつくりのものではなくなっているが、メルにとってはこちらのほうが落ち着くぐらいだった。

 楽しく人形談義をしながら馬車にしばらく揺られ、ついたところは庭園だった。

 といっても、春に来た王都中央庭園ではなく、花咲く都の外れにあるもっと小規模なところだ。

 それでも、整えられた植木は立派なものだし、雪の白さの間から冬の花々が覗いているのも美しかった。


 今日はよく晴れて、雪の白い輝きが眩しいぐらいだった。

 ふたり手を繋いで、人の少ない庭園をゆっくり歩きながら話をする。

 ときおり、ジルは木や花の前で箱状の魔術具を取り出していた。

「ジル、今日は射影器持ってきてるんだね」

 射影器は風景を専用の紙に写し撮るというとても不思議な便利な魔術具なのだ。ジルは前から、この魔術具を用いてドールはもちろん景色なども記録していた。

「あぁ、なるべく『作品』を作って、早く個展を開けるようにしたいからね。もちろん、最初はそんなに人も来ないだろうけど、こういうのは地道に着実にやっていくしかないさ」


 これまで持っていたものをほとんど投げ打って、あたらしい場所に飛び込んでいく。

 メルにも覚えがある状況だった。

 だからこそ、メルはジルの力になれるかもしれない。力になりたい。


「……私、あなたの力になりたいな」

「なってくれているさ。僕の今の原動力だって、早く君を迎えられるようにしたいという願いからなんだから」

「ジル……」

「……僕のところに、来てくれるかい?」

「……うん」


 そうして二人はごく自然に、正面から抱きしめあった。


「ありがとう、メル」

「ありがとうね、ジル」



 その日は薔薇の花を見かけることはなかったけれど――

 二人の心のなかには確かに美しい赤い冬薔薇が咲いていた。




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