第二話 不審者二名
「お願い!助けて!」
そう言いながら飛び出してきた謎の少女はこれまで走って逃げてきたのかハアハアと息を切らしている。
「どうしたんだ?魔物にでも襲われたか?というかなんでこんなところにいるんだ?ここは一般人が来るようなところじゃないぞ?」
俺の質問に対して少女は
「今はそんなこと話している場合じゃないの!早く逃げないとあの人が……ッ!」
「一旦落ち着け。さっきは助けてって言ってただろ。次は逃げてって俺は何をすればいいだよって話になるぞそれ」
というか人?魔物じゃなくて?
「逃さないわよ!」
そう言いながら答え合わせをするかのように低空飛行しながら悪魔のような羽を生やした謎の女性が飛び出してきた。
「えっと、どちら様ですか?」
「どちら様でもあんたには関係ないでしょ?いいから早くその子を私に渡しなさい」
「はぁ、いやそういうギャグはいいんで」
「別に私と渡すを掛けてるわけじゃないわよ!あんまりふざけてると永遠に喋れない体にするわよ!」
「ちょ、なに変なこと言ってるの!?あの人完全に怒っちゃってるじゃん!」
少女は声を荒げる。
「いや、こういう適当な扱いしてたら帰ってくれるかなぁって」
「人を厄介クレーマーみたいに扱わないでくれる!?というかむしろ厄介者はあんたよ!部外者は関係ないでしょ!」
「いや、たしかに俺は部外者ですし、どんな事情があるかは知りませんけど……子供に助けてって言われたらとりあえず子供の味方をするのが大人ってもんだろ」
「なんだろう、いいこと言ってる風なのに適当さが垣間見える……」
「さっきからあんたは……人のことおちょくってるの!?」
「貴方様は人ではありませんが」
俺がそう言うと、謎の女性はゆっくりと空高く飛び上がる。
「…….そう、もういいわ。それについてはもう諦める。あんたらと一緒に消し飛ばして後でお姉様にごめんなさいさせてもらうとするわ!!」
「いや、それならもうちょっと頑張れよ!!」
「いや、それならもうちょっと頑張りなよ!!」
自分で消しとばしておいてごめんさないするとか聞いたことねえよ!というか、ごめんなさいで済むなら潔く諦めてくれよ!
「ど、どうするの!?完全に怒っちゃってるよ!私たちまとめて消し飛ばす気だよ!?」
「まぁまぁ、慌てんなって」
俺はそう言いながら袋から魔晶を一つ取り出して
「人をおちょくったことを地獄で後悔なさい!」
「だから、お前は人じゃないけど……な!」
謎の女性に向けて思いっきり投げ飛ばす。
「……ッ!?」
謎の女性は慌てて俺の投げた魔晶を回避する。
俺の投げた魔晶は突風を引き起こしながら空高く飛んでいった。
「な、何?今の……」
謎の女性は驚いた様子で俺にそう質問する。
「いや、魔晶をただぶん投げただけですが?」
「魔晶を投げた……?」
謎の女性は、あなた馬鹿なの?という感情とありえないという感情が混ざり合ったような表情でこちらを見つめる。
「いや、俺はまだ何もされてないのにいきなり魔法をぶっ放したりしたら過剰防衛だろ?だから今のはちょっとした牽制だ。そっちが危害を加えてきたなら牽制じゃ済まなくなるけどな」
俺がそういうと謎の女性の顔が青ざめて
「お、覚えてなさいよ!」
とだけ言い残して去っていった。
「あ、あの!助けてくれてありがとうごじゃ……」
「……なぁ、今噛ん」
「助けてくださりありがとうございました」
そう言いながら少女はそう言いながら頭を下げる。
「いや、誤魔化せてないし。あと俺に対してはわざわざ敬語使わなくてもいいぞ。俺も敬語使いたくないから」
「じゃあはっきりと言わせてもらうけど、人が噛んだことを掘り返すのはデリカシーがないと思うよ」
だいぶ遠慮がなくなったな。まぁ、遠慮がないのはお互い様だし堅苦しいよりは何考えてるかわかりやすいからありがたいけど。
「それだけ元気があるから大丈夫そうだな。んじゃ、とりあえず森を出るか。事情を聞くのはそれからだ。魔物に襲われるもの嫌だしそれに……こういう危険な奴もいるからな」
「え?」
俺はそう言いながら背後から投げられたナイフを受け止める。
「な、何?あの人」
いやそれは俺が聞きたいぐらいなんだが。
「お前誰だ?お前もこの子が狙いなのか?というか、お前もさっきの小競り合い見てただろ?下手に手出して面倒な目に遭うのはお前だぞ?」
俺の忠告に対して木の影から現れた黒装束の……たぶん男はナイフを片手にスッと身構えて……
「やめろって直接言わなきゃわかんないのかお前は」
外回りに距離を詰めてこようとしたのでその進行方向に先ほど受け止めたナイフを投げつけた。
「………」
「あのなぁ、何も言わずにいきなり攻撃とかやめてくれよ。いや、百歩譲ってお前の使命が俺の抹殺とかならまだわかるけど、もしお前の目的と全く関係なくただ興味本位で俺に手を出しているだけなんだったら今すぐに手を引いてくれないか?本来の目的と全く関係ないとこで怪我したら嫌だろ?」
「………」
謎の黒装束は無言で二本目のナイフに手を伸ばす。
「だから、お互い怪我は嫌だろって……」
俺は黒装束が二本目のナイフに手が触れると同時に攻撃を仕掛けようとしたが咄嗟に手を引いた。
「………ッチ」
今舌打ちしたなこいつ。
「あのなぁ、しれっとカウンター狙うのやめてくれない?もしかして先制攻撃、俺の気持ちを誘うための行動か?それやり出したら『ちょっと手の内を探るだけだった』なんて言い訳通らないぞ?本気で俺の抹殺でも頼まれたのか?」
「そういう貴様も大概だろう。即座にカウンター狙いであることを見抜き、こちらの手を潰すかのような攻撃の仕方。慢心しているようでしっかりとこちらの様子を観察している……。守りに徹底しなければやられていたのはこちらの方だった」
黒装束がそういうと同時に何本もの刃の折れたナイフが乾いた金属音を立てて落ちる。
「どんな意図があって俺に襲いかかってきたのかは知らねーけど、これ以上やるとなったらお前もメリットよりデメリットの方が多いんじゃないのか?隠し持っていたナイフにもそれなりの強度あったし使い捨てのものじゃないだろ?余計な出費をしたくなければさっさと帰れ。というかさっさと俺を家に帰させろ」
「……そうだな。こちらとしてもこれ以上の手合わせなど願い下げだ。目的も果たしたしな」
そう言って謎の黒装束は姿を消した。
何が『こちらとしても願い下げだ』だ。そっちから手を出してきといてよく言うよ。
「……え?何が目的だったのあの人。結局ほとんど何もせずに帰っちゃったよね?」
「そうだな」
まぁあの黒装束は十中八九小手調べだろうけどな。影からこっそり俺のやり取りを見て危険だと判断。んでどれほど危険なのか、ここで始末できるのかを確かめたかったってところだろう。しかし、なんだって1日のうちにニ回も不審者に会わなきゃならんのだ。特に2人目の不審者。黒装束で出会い頭にナイフとかこれ通報案件だよ。
「さて、事も一通り片付いたようだし、お前がどこから来て、なんでここにいるのかとか色々聞きたいのは山々なんだが、こんなところで立ち話は危険だし、ひとまず町に戻るか。話なら道すがらでもできるしな」
「え?あ、そうだね」
……それ話聞いてなかった奴の反応だろ。
「んじゃ行くぞ、あまり俺から遠いところを歩かないようにだけ注意しろよ」
……しかし、なんで今日はあんな変な奴に二回も絡まれたんだ?しかも二人ともこんな辺境の地にいるようなレベルじゃない実力があったし……。まぁただ考えていても仕方がないか。
俺はそこで考えるのをやめ謎の少女と共に町へと戻るのだった。