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SR:B 2.5 【前編】 ―バトル・ドラゴンズ─  作者: 高瀬 悠
【第一章 第三部 序章】 現実世界編
3/68

朝倉が変だ【3】


 下校し、俺と朝倉と上田は三人で朝倉の家に行くことになった。

 オンラインゲームのやり方を教えてほしいとのことだったからだ。


 上田が朝倉の様子を心配する。

「お前さ、なんかいつも女の話以外は口にすることなかったじゃん。なんか悪いモノでも食ったか?」


 俺も横からうんうんと頷く。

 たしかに俺も、朝倉とは小学校からの付き合いだが女以外の話は初めてだな。


 ――しばしの間を置いて。


「……え?」

 朝倉はやはり俺たちの話には上の空だった。


 どうしたんだよ、朝倉。


「なんかいつものお前らしくねーじゃん」

 心配する俺と上田に、朝倉はいつもとは違う──どこか間の抜けた調子で答えてくる。

「あー、なんか自分でもそう思う。……なんだろう。彼女と別れたからかな」


 は!? お前、もう別れたのか!


「早くね? だって付き合ってまだ一ヶ月も経ってなかっただろ!」

「あー。なんとなく……」

「なんとなく!? あんだけ彼女とラブニャンしといてなんとなくで別れたのか!」


 最低だろ、お前! 最低すぎる!


「いや、向こうから別れようって言ってきたんだ。オレもなんとなく、そう思っていたし」


 ……。

 俺は無言で上田と顔を見合わせた。


 上田がお手上げして言う。

「ま、朝倉らしいと言えば朝倉らしい別れ方だな」


 相変わらず、か。


 ――その後。

 俺たちは道を歩きながら、くだらない日常の話で盛り上がった。

 その流れから自然とオンラインゲームの話となる。

 得意分野の話とあってか、上田がとても興奮していた。


 通りがかった公園で、ハイテンションの上田がいきなり公園内に駆け込んでいく。


 おい、どこ行くんだ上田!


 呼び止める俺に上田は立ち止まり、そして俺と朝倉をカモーンとばかりに公園の中に手招く。

「オレについて来い、UMA・朝倉! まずは公園の中に転移だ、ぶおんぶおん」


 なんか口から変な効果音出てんぞ、上田。


「転送音だ」


 あー、たしかにそんな音してたな。

 俺の隣でなぜか朝倉が急にテンションを上げてくる。俺と向き合い、襲い掛かるような構えを取る。機械的な口調で、


MUMAマジでうざいぐらいモテるあそびにんの前に敵が現れた」


 誰がMUMAだ、コラ。お前に言われたくねぇぞ。

 半眼で唸る俺に向けて、上田がどこで拾ってきたか木の枝を投げ渡してくる。


 ん?


 俺は上田から投げ渡された木の枝を何気に受け取った。

 

 上田が女々しく恥らうように体をくねらせ、瞬きをしながら裏声で俺に言ってくる。

「援護は任せてUMA君。私がやるわ」


 ――ってか何キャラだよ、それ! どう扱っていいかわからねぇーだろ!


 すると瞬時にしてさっきまで女々しくしていた上田の表情が、急にハードボイルド系に切り変わる。キメ顔で声のトーンを落とし、

「油断禁物だぞ、UMA」


 ってか誰だよ! いきなりキャラ増やすなよ!


「キャラ・チェンジだ。増えていない。今のオレは最高の料理人ディーニだ。お前の胃袋は任せろ」


 お前そうやってゲームの中でも戦闘中にマジでキャラ・チェンジしてきたよな!


「あの時はすまん」


 今頃謝ってくんな!


 すると、朝倉が両腕を挙げて俺に向かってくる。機械的な口調で、

「敵がUMAに襲い掛かってきた」


 ――。

 俺は真顔になって朝倉の胴めがけて木の枝でなぎ払った。


 しばらくの間を置いて。

 朝倉が「ガクリ」と呟くとともに、倒したことを示すかのようにダラリと力抜いて体をしな垂れさせる。


 俺は勝ち誇ったように鼻で笑った。決め台詞を残す。


 戦利アイテムは全部お前等にくれてやる。好きなだけ持っていくがいい。


 そんな俺の背後で、素に戻った朝倉と上田が二人で話す。

「――と、まぁ一例を話せばこんな感じだ」

「へぇ。あと他にはどんなのがあるんだ?」


 放置すんなよ! 恥ずかしいだろ!

 俺は赤面ながら両手をわななかせた。



 ※


 帰り道。

 俺と朝倉と上田は住宅街の中を歩きながら会話していた。

 朝倉の家まではもう間近だ。


 ふと、上田が朝倉に言う。

「――ってかさ、お前ずっと女にしか興味なかったじゃん。なんで急にオンラインゲームやろうと思ったんだ?」


 問いかけに、朝倉がぽつりと答える。

「……なんとなく」


「なんとなく?」

 なんとなく?


 問い返す俺たちに朝倉は頷く。

「最近姉ちゃんがオレにお古のパソコンをくれたんだ。新しいパソコン買ったからって。そんで、オレもインターネット始めてみっかなーで始めてみたんだけど。ネット繋いだ瞬間、いきなり変なオンラインゲームが画面にバーンって出てきて」


 それ、homeの問題じゃね?


 朝倉が眉間にシワを寄せて難しい顔をする。

「homeってなんだよ。そんな専門用語言われたってわかんねぇーよ」


「それ何てゲーム? 名前は?」


「知らね。気味悪いからすぐに消した。だけどネット立ち上げるたびに毎回そこに繋がるんだ」


「それ、homeの問題じゃね?」


「だからオレに言うなって。専門用語言われてもわかんねぇから。一応姉ちゃんにも相談したんだけど、そういうゲームに登録した覚えはないって言うんだ」


 ウイルスか?


 朝倉はお手上げして答える。

「さぁな。わかんね。姉ちゃんが今調べてくれている」


 上田がすかさず会話に割り込む。

「そのゲームってどんなやつだった? 名前はともかく、どんな画面だったか言ってくれたらオレ大抵わかるぜ」


「いや、それがさ。ほんっと気持ち悪いんだよ。タイトルとかそんなの全然無くて、音も無いし、とにかく画面が真っ黒なんだ。黒一色。そこに【ID】って文字だけが出てて、勝手に【Y】って決められているんだよ」


 両腕をさすって上田が言う。

「なんだよ、それ。気持ち悪いー」


「そして声が聞こえてくるんだ。3Dで。なんかほんと、脳みそン中に直接響いてくるような感じで」


 ――声?

 俺は怪訝に問い返した。


 上田が軽く笑ってツッコむ。

「あ。それ、あれじゃね? ブラッディ・ゲーム」


 ブラッディ・ゲーム?


 俺の問いかけに上田は真面目な顔で頷く。

「あぁ。最近ネットで噂になっているらしいんだ。オレもゲームのチャットで知ったんだけど、【ブラッディ・ゲーム】って謎ゲーが神出鬼没に繋がるらしいな。そしていきなりどこからか不気味な笑い声が聞こえてくるんだってさ。でもそれっきり。何があるわけでもないらしんだけど、でも都市伝説によると、その笑い声を聞いた奴は百人に一人の確率でゲームの世界に行けるらしいぜ」


 ゲームの世界に?

 俺は真顔になって足を止めた。


 急に上田が俺を見て「ぷっ」と噴き出し笑ってくる。片手を振りながら、

「馬鹿、お前。何マジになってんだよ。冗談だよ、冗談。信じんなって。ンなもん、そのゲームをやらせる為のステマに決まってんじゃん。本当なわけねーって」


 それ、もっと具体的に教えてくれないか?


「はぁ?」


 内容は? どんな感じだった? 頭の中でおっちゃんの声が聞こえてくるとか言ってなかったか? 何でもいいから教えてくれ。


「なんでお前、そんな食いついてくるんだ?」


 あ、いや、まぁえっと、その、ちょっと興味があるなぁ……なんつって。あは、あはは。


「だったら怖い話も平気だよな?」


 え?


 急に上田が真顔になる。俺の肩に手を回して引き寄せると、怖い顔で話し始める。

「実はさ、ここだけの話なんだけど。知ってるか? UMA。ブラッディ・ゲームの元ネタの話」


 俺は口端を引きつらせて後ずさる。

 い、いや、知らね。


「都市伝説ググったら出てきた話なんだけどな。十年前に悪戯ウイルスが流行していた時があったらしいんだ。それで当時、その製作者が死に際に最後の遺作を放出したらしくって、その遺作が未だにネットのどこかに彷徨さまよっているらしいんだ。そして神出鬼没にパソコンを乗っ取っては画面を真っ黒にして、その後、部屋のどこからかその死んだ製作者の不気味な笑い声が静かに聞こえてくるらしいんだ。その笑い声がだんだんと近寄って、最後には耳元でこうささやくんだってさ。「ようこそ」って。そしてその謎ゲーに繋がるらしいんだけどな」


 俺は目を点にする。

 ……で? なんでそれが血のブラッディ・ゲームなんだ?


「ん?」

 顎に手を当てて首を傾げ、上田は曖昧に答える。

「んー……。さぁな。そこは知らね。あれじゃね? 最後は呪い殺されて死ぬとか、画面から貞子が出てくるとか、そんなオチだろ」


 なんだよ、その中途半端な怖い話は。


「なはは。悪ぃ悪ぃ。つい、お前がマジ顔するからさ。からかってみたんだ」


 それを聞いた朝倉の目がキラリと光る。ぐっと拳を握り締めて、

「もしかして今オレ、その都市伝説体験しちゃってるのか? このネタ、ウソホンに投稿してもいいよな?」


 上田が呆れ顔で朝倉を見やる。

「お前ってさ、怪談話とか都市伝説とかそういう系の話になるとスゲー勢いで乗ってくるよな」



 ※



 朝倉の部屋におじゃまして。

 机上に置かれたデスクトップ型パソコンの電源を立ち上げる。

 興味津々に朝倉が見守る中、ネットに繋いだのだが……。


「あれ?」


 大手検索サイトに普通に繋がるだけだった。

 朝倉が首を捻る。

「おかしいな。いつもはこんな画面出てこねぇのに」


 広告に触ったとか?


「いや、だから最初から画面が真っ黒になるんだって。こんな画面出てこねぇーし」

「ふーん……」

 上田が専門的な顔して画面を見つめ、しばし考え込む。そして、

「じゃぁオレがちょこっと、このパソコンいじってみるけどいいか?」

「いいぜ。頼む」

 朝倉の了承を得て、上田がキーボードに触れる。

「あ。その前に朝倉、バックアップするようなもんってこの中に入ってる?」

「ばっくあっぷ?」


 首を傾げる朝倉に俺が横から教えてやる。

 保存だよ。エロ画像とか大事なもんがこのパソコンに入っているかどうか。


 朝倉の目がキラリと光る。

「なにそれ。パソコンでそんなん見れんの?」


 俺は上田に目で合図した。

 上田。心置きなくやれ。


「了解」


 その後、上田が色々と専門的なことをやってくれたようだが、結局何も出てくることは無かった。



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