第44章:F級冒険者、再誕
翌朝、ベルンの街。
道行く冒険者たちが、なんとなく俺たちに視線を向けてくる。昨晩の密偵一件で、微かな「違和感」が周囲に伝播しているのかもしれない。
「ねえ、サトオ。私たち、ちょっと目立ちすぎてない?」
セリアの指摘に、背筋に冷や汗が流れる。
確かに、聖女に魔王の娘。この組み合わせで『Fランク冒険者サトオ』として歩くのは、火に油を注ぐようなものだ。
「……そうだな。対策が必要だ」
俺は即座に決断した。今の身分は捨てる。別人になり、誰にも気づかれずに米を食う。それが何よりの正義だ。
俺たちはまず、裏通りの古道具屋へ向かった。
そこで購入したのは、顔の半分を覆う質素な鉄仮面と、目立たない灰色のマント。トレードマークだった『黒鉄のハンマー』と、ミアに目をつけられた枝は、迷わずインベントリの深層へ封印した。
「ハンマーがないと、ただのおじさんね」
「それがいいんだ。俺は今日から『カトウ』という名で生きる。武器はそこらで買った安物のナイフで十分だ」
腰に吊るした鞘には、装飾など一切ない量産型の鉄ナイフ。これでいい。誰も俺が、英雄や魔法剣士だとは思うまい。
「それと、エレン。お前はこれを持て」
俺が裏道具屋でエレンに渡したのは、禍々しい刺のついた鉄球――モーニングスターだった。
「……あの、サトオ様? 聖女の装備としては、いささか……絵面がよろしくないような?」
「カトウだ! 気にするな。杖なんて持っていたら、聖女だとバレるだろう。そのモーニングスターなら、誰も聖女だとは思うまい」
「……はい……一応聖女なんですけどね? でも、なんだか新鮮でいいですね!」
エレンが満面の笑みで鉄球を振り回す。聖女の慈愛に満ちた笑顔と、鈍く光る鉄球のコントラストは、もはや通りすがりの冒険者が直視できないほどの威圧感を放っていた。
次に振り返ったのはセリアだ。
「……セリア。お前はこれだ。弓を引け」
「はあ!? あんた、私が魔王の娘だって忘れてない? 私しがエルフだって主張しろてこと?」
「いいから引け。魔王の娘が弓など使うはずがないという逆転の発想だ。誰もがお前の本質を見誤る」
俺は渋るセリアの手に、安物の長弓を握らせた。
「クルスには....これだ!名前はポチな!」
ペット用の鈴付き首輪を付けてあげる。
かくして完成した。
鉄仮面を被った謎の男『カトウ』。
モーニングスターを振り回す、笑顔の聖女。
弓を構えて不貞腐れる、魔王の娘。
――異様だ。どう見てもF級の面構えではない。
ギルドへ足を踏み入れるやいなや、室内の空気がぴたりと止まった。受付の職員が、モーニングスターを背負ったエレンと、弓を放り投げんばかりのセリアを交互に見て、震えながらペンを握る。
「……あ、あの。パーティ名は?」
俺は仮面の奥で小さく溜息をつき、極力、村人Aのような平坦な声で答えた。
「……『農耕の民』だ」
沈黙が広がる。
モーニングスターと長弓を携えた集団が名乗るには、あまりに平和で、あまりに不穏な名前だった。
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