第36章:伝説の聖獣と3Dホログラム
ズズズ、と背後で重苦しい地響きが鳴り響く。
俺がハンマーで叩き壊した洞窟の天井は、狙い通りの構造線に沿って綺麗に崩落し、法皇国の追手である聖騎士たちを完全に生き埋め――いや、怪我をしない程度に足止めしたはずだ。
「ふう……。とりあえず、これで時間稼ぎはできたな」
俺は額の汗を拭い、夜の『ささやきの森』をさらに奥へと突き進んでいた。
三大超大国の法も届かない、鬱蒼とした魔境。普通なら迷い込んで野垂れ死ぬような危険地帯だが、今の俺には『最高のナビゲーター』がついている。
「キュイ!」
俺の肩に乗った小型犬サイズのトカゲ――もとい、三十年の眠りから目覚めた伝説の聖獣、白銀龍のクルスが短く鳴いた。
次の瞬間、俺の視界に走る『万物鑑定』の赤黒い文字と、クルスの『千里眼』が完全に同期する。
「……おいおい、すごいなこれは」
俺の網膜に、周囲の地脈の乱れや高濃度の魔力霧が、半透明の3Dホログラム地図となって直接投影されたのだ。
この霧は、帝国の最新鋭の探知魔導具だろうが、法皇国の予言魔法だろうが、すべてを乱反射させて無効化する『天然の妨害電波』として機能している。
(最高だ。ここなら、あの深読みストーカーお嬢様の商会網も、第2王女の国家捜索令も絶対に届かない……!)
前世でブラック企業にすり潰され、今世でも『英雄』という名の檻に閉じ込められかけた俺にとって、これ以上の楽園はなかった。
「クルス、この霧の向こうに、人が隠れて暮らせそうな平地はあるか? できれば、水場が近いとありがたいんだが」
俺が問いかけると、クルスは「任せて!」とばかりに小さな胸を張り、その銀色の瞳をカッと輝かせた。
次の瞬間、クルスが口から淡い白銀の光球を吐き出す。光球は空中ではじけ、俺たちの目の前に、驚くほど精密な『立体地形図』を浮かび上がらせた。
「わあ……! すごい、お星様みたい……!」
後ろを歩いていた薄幸の聖女エレンが、その幻想的な光景にぽうっと目を丸くする。
俺の影からふらりと這い出てきた魔王の娘セリアも、珍しく興味深そうに首を傾げた。
「へえ。あのトカゲ、ただの食いしん坊みたいな見た目だけど意外と優秀じゃない。……サトオ、これってささやきの森の『北東』の果てね?」
「ああ。森を抜けた先……アルカディア魔法帝国の辺境領のさらに奥、険しい山脈地帯の向こう側だ」
空中投影されたミニチュアの山脈。その中央が、まるでスプーンでごっそりとくり抜いたかのように、円形に大きく窪んでいた。
山々に囲まれた、巨大な隠れ盆地(平野)。
周囲の峻険な峰々が天然の防壁となり、上空からの視線すら完全に遮断している。さらに、山脈の頂から白銀の糸のようなものが、盆地の中央へと何本も流れ込んでいた。
「これ、全部『雪解け水』の川かしら?……」
空中投影された立体地形図を見つめながら、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
クルスの『千里眼』が映し出すのは、あくまで大まかな高低差や水脈といった物理的な地形情報だ。さすがにここから数キロ先にある現地の細かい土壌成分や、目に見えない菌の有無までは鑑定できない。
だが、俺の直感が告げていた。山脈に囲まれ、人の手が何百年も入っていないあの窪地には、絶対に『宝』が眠っていると。
「よし、今夜からあの山に向かって進むぞ。クルス、案内を頼む!」
「キュイ!」
それから俺たちは、クルスのナビに従って夜の森を音もなく進んだ。帝国の追手を警戒するエレンをセリアの闇魔法で隠蔽しつつ、険しい森の岩肌を軽々と飛び越えていく。
そして――夜が明ける直前。
霧を抜け、岩の裂け目を通り抜けた俺たちの視界が、一気に開けた。
「……っ、これは……」
そこには広々とした平野が広がっていた。
面白ければ、ブックマーク、評価をお願いします。




