第35章:再契約と、新しいバディの鼓動
洞窟が完全に崩落する直前、俺たちはクルスの作り出した銀色の光の渦に包まれていた。
岩盤が激しく押し潰される轟音の中、俺とクルスの間に走ったのは、儀式めいた魔法契約の詠唱などではない。もっと本質的な、魂と魔力の「調整」だった。
『契約再編:使い魔・白銀龍クルス。主を『サトオ』として再定義します。――魔力同調率、上昇中』
脳内で響く無機質なシステムの起動音と重なるように、クルスの魂の波動が俺の奥深くへと、強く食い込んできた。
かつての主、マサトとの契約は「絶対的な守護と服従」に近かったのかもしれない。だが、今の俺とクルスの間に結ばれつつあるのは、もっと合理的で、どこか対等な信頼関係だった。
「……随分と、マサトとは違う回路の通し方をするのだな」
クルスは俺の肩の上で、少しだけ不満げに鼻を鳴らした。だが、その小さな瞳に宿る銀色の光は、もう迷いを捨て去っている。
「だが、極めて合理的だ。無駄な魔力消費を限界まで抑え、私の『千里眼』と貴方の『万物鑑定』をダイレクトに直結させる……。マサトは天性の直感で戦っていたが、貴方は始めから設計図を頭の中に描いている」
「現場で起きてる物理現象には、すべて理由があるからな。無駄骨は折りたくないだけだ」
次の瞬間、クルスの視界――『千里眼』の情報が、俺の脳内に直接オーバーレイされた。
周囲の地形、迫る岩盤の圧力、敵の残存魔力の流動、そして隠された地層の脆弱性までもが、まるで完成された三次元の透過図面のように透けて見えてくる。
洞窟の出口は完全に岩塊で塞がれた。しかし、俺たちの目の前には、崩落の隙間を縫って地表へと安全に出られる「構造の抜け道」が、光の筋として明確に浮かび上がっていた。
「エレン、セリア。俺の隣から絶対に離れるなよ」
「ええ、任せたわよ。頼もしい新しい相棒さん」
セリアが俺の背中にぴたりと密着し、エレンが俺の服の端を祈るように強く握り締める。
俺は黒鉄のハンマーを軽く一振りした。ただの力任せの一撃ではない。クルスが計算し、俺の鑑定が捉えた「地層の最弱点」へ、魔力運用を最適化して正確に叩き込むピンポイントの衝撃だ。
――カチリ、と世界が正しく噛み合う音がした。
直後、俺たちの前方を遮っていた巨大な岩壁が、まるで仕掛けパズルが解けるように音もなく崩れ去り、遮られていた外の光が爆発的に差し込んできた。
それは絶体絶命からの脱出であると同時に、俺とクルスという「新しいバディ」が、世界の構造を改竄する力を行使した最初の証明でもあった。
「……悪くない。これなら、法皇国のマニュアル人間どもも計算外だろう」
俺は肩の上の小さな銀色の龍を見やった。クルスもまた、どこか誇らしげにその翼をパタパタと広げている。
三十年の眠りから目覚めた守護者は、もう誰の幻影も追っていない。俺という新しいバディと共に、世界という歪んだ巨大建築物をどう解体し、どう組み替えていくかを、その冴え渡る瞳でしっかりと見据えていた。
崩落する洞窟を飛び出した俺たちの前には、法皇国の執拗な追撃をあざ笑うかのような、どこまでも広大な夜空が広がっていた。
面白ければ、ブックマーク、評価をお願いします。




