縦縞の未来会議
ー 縦縞の未来会議 ー
2016年4月。
神宮球場、試合前にも関わらず、
三塁側ビジター席は既に虎党で埋まり始めていた。
関東の阪神ファン独特の熱気。
その最前列近くで、
俺は腕を組みながら周囲を見渡していた。
(ほんまに来るんか…)
白井美虎。自称転生者の元タカガール。
正直まだ半分は疑っている。
だが、岡本和真、吉田正尚。
歴史改変をピンポイントで見抜いてきた時点で普通ではない。
その時だった…
「…あの…虎吉さん?」
後ろから声がした。
振り返るとそこにいたのは阪神のビジターユニフォームを着た若い女性だった。
黒髪を後ろでまとめキャップを深く被っている。
年齢は二十代前半くらい。俺とは同い年ぐらいだろうか…
「あんたが…白井美虎さん?」
「はい。」
彼女は小さく頭を下げた。
「初めまして。転生者仲間ですね。」
「仲間て…」
俺は思わず苦笑する。
彼女は周囲を一度確認すると静かに席へ座る。
「まず確認させてください。」
「……なんや?」
「2014年ドラフト。
本来、岡本和真は巨人単独指名。」
「…………」
「2015年。
吉田正尚はオリックス単独指名。」
「…………」
「あと阪神は本来、高山俊を引き当てています。」
「2020年ごろから世界中に広まったウイルスの名前は?」
「新型コロナウイルス…」
そこまで聞いて俺は観念した。
「…はぁ…本物か。」
「はい。」
彼女も小さく息を吐いた。
「やっと会えた…」
風が吹く。
神宮のグラウンドでは阪神の選手達がアップを始めていた。
「……で?」
俺は彼女を見る。
「で、何が目的なんや。」
「ただ今の推し球団に強くなってほしいだけです。」
即答だった。
「あと前の世界の阪神って、
スターはいても長期的な育成が下手だったじゃないですか。まぁ最後の方は知りませんけど…」
「まぁ…否定はできへんな。」
「でも今なら変えられる。せっかく応援してるんです。しっかり勝ってほしい…」
彼女の目が輝く。
「岡本和真がいる、吉田正尚も来た。
さらにこれから大山悠輔、近本光司、村上宗隆…」
「村上宗隆ね…」
俺は思わず反応する。
「九州学院の捕手ですよね。まだ高校生ですけど。」
「そうやったな、ドラフトの時は捕手やった…」
「あと絶対確保したいのが山本由伸。」
「流石に俺でも知ってるよ…ワールドシリーズも凄かったしな。」
「本当にヤバいです。」
彼女は真顔だった。
「最初は細いんです。でもすぐに日本最強投手になりました。」
「ドラフトは?」
「4位でした。」
ホークスファンだっただけあってパ・リーグの未来知識が異常に深い。
「あと周東佑京。」
「韋駄天やったな。」
「はい。5位指名ぐらいで…」
「そんな簡単にいくかいな…」
「大丈夫でしょ…」
白井美虎は笑った。
「だって私達未来知ってるんだから。」
その瞬間だった。
球場がどよめく。
阪神のシートノックが始まった。
「うおおお!!吉田や!!」
「岡本もおるぞ!!」
そこには、
縦縞姿の岡本和真と吉田正尚。
本来なら絶対並ばなかった未来。
白井美虎も、
少しだけ目を見開いていた。
「…やっぱり…凄い。」
「あ?」
「実際に見ると、
本当に歴史変わってるんだなって。
ゲームをやってるみたいです…」
俺は小さく笑った。
「まだ始まりや。」
「え?」
「俺らで阪神を世界一の球団にするんやろ?」
その言葉に彼女もふっと笑う。
「あはは…スケール大きすぎません?」
「今さらや。」
するとその時。
球場モニターに、
阪神のスタメンが映し出された。
観客が沸く。
六甲おろしが流れ始める。
俺達は自然と立ち上がっていた。
本来交わるはずのなかった二人。
だが今、神宮球場で並んで阪神を応援している。
多分続く…




