↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まさか幽霊に恋するとは…  作者: 久遠寺大安|不可思議ラボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/14

第14話(最終話) まさか幽霊に恋するとは…

「やっと二人になれたね」

美月の声だった。

けれど

僕の知っている

彼女の声ではなかった。

旅館の前には

朝日が差し込んでいた。

鳥が鳴いている。

遠くでは車の音もする。

世界はこんなにも

普通なのに。

隣に立つ美月だけが

まったく違って見えた。

「……美月さん?」

彼女は微笑んだ。

「どうしたの?」

いつもの声に戻っていた。

僕はスマホを見た。

最後に届いた文章。

『なぜお前たちは

まだ生きている?』

画面の文字が

ゆっくり消えていった。

「今、何て言いました?」

美月は首を傾げた。

「海に行こうって」

「その前です」

「その前?」

彼女は不思議そうに

僕を見つめた。

「何も言ってないよ」

僕は背筋が冷たくなった。

でも美月は

本当に覚えていない

ようだった。

僕は彼女の手を握った。

温かい。

確かに脈がある。

「帰りましょう」

そう言うと

美月は嬉しそうに頷いた。

僕たちは車に乗った。

山道を下りる間

美月は窓の外を

ずっと眺めていた。

「ねえ、悠真」

「何ですか?」

「空って

こんなに青かったっけ」

僕は笑った。

「十五年ぶりですからね」

美月も笑った。

「そうだね」

その横顔は

どこから見ても

普通の女性だった。

もう幽霊ではない。

そう信じたかった。

街に戻ると

僕たちはコンビニに寄った。

美月が店の入口で

立ち止まる。

「どうしました?」

「ちょっと緊張する」

「どうして?」

「十五年ぶりに

お店に入るんだよ?」

僕は思わず笑った。

「大丈夫ですよ」

彼女の手を引いて

店内に入った。

美月は商品棚を見て

目を輝かせた。

「すごい!」

「何がですか?」

「お菓子の種類!」

彼女は子どものように

笑っていた。

僕はその姿を見て

胸が温かくなった。

レジで会計をすると

店員が美月に微笑んだ。

「ありがとうございました」

美月は驚いた顔をした。

そして小さく頭を下げた。

店を出ると

彼女は泣いていた。

「どうしたんですか?」

「今、私に

言ってくれたよね」

「何を?」

「ありがとうございましたって」

僕は頷いた。

「普通のことですよ」

美月は首を振った。

「私には

普通じゃなかった」

彼女は涙を拭った。

「十五年間

誰にも見てもらえなかった」

僕は彼女を抱きしめた。

「これからは

毎日見てもらえますよ」

美月は笑った。

「うん」

その笑顔を見て

僕は決めた。

もう疑うのはやめよう。

何が起きても

彼女と生きていこう。

そう思った。

しかし

その日の夜。

僕は一つの異変に

気づいてしまった。

午後十一時。

美月はソファで

テレビを見ていた。

僕は洗面所に立った。

鏡を見る。

そこには

僕の姿が映っていた。

消えていた顔も

元に戻っている。

「よかった……」

僕は息を吐いた。

そのとき

背後に美月が現れた。

「悠真」

僕は振り返った。

「どうしました?」

「一緒に寝よう?」

彼女は微笑んだ。

「はい」

僕は洗面所の電気を消した。

そして

廊下へ出ようとした。

その瞬間

鏡の中に

何かが見えた。

僕は足を止めた。

鏡には

僕と美月が映っていた。

ただし

美月の背後に

もう一人いた。

小さな少女。

白いワンピース。

結衣だった。

僕は振り返った。

誰もいない。

もう一度鏡を見る。

少女は消えていた。

「……結衣?」

小さく呟いた。

すると鏡の表面に

文字が浮かんだ。

『まだ終わってない』

僕は息を止めた。

文字はすぐに消えた。

その夜

美月は僕の腕の中で

静かに眠っていた。

温かい身体。

規則正しい呼吸。

僕は彼女の髪を撫でた。

「美月さん」

返事はない。

眠っている。

僕はそっと

彼女の胸に耳を当てた。

ドクン。

ドクン。

確かな鼓動。

でも

何かがおかしかった。

僕は自分の胸に

手を当てた。

ドクン。

ドクン。

まったく同じ速さだった。

一拍もずれない。

僕は息を止めた。

美月の鼓動と

僕の鼓動が

完全に重なっていた。

その瞬間

頭の中に

懐かしい声が響いた。

『気づいたか』

十五年前の僕だった。

僕は目を閉じた。

『お前たちは

まだ生きている』

「……どうして?」

心の中で尋ねた。

男は笑わなかった。

『あの願いは

確かに終わった』

「じゃあなぜ?」

『新しい願いが

生まれたからだ』

僕は美月を見た。

彼女は眠っている。

『最後の悠真が

願っただろ』

僕は思い出した。

地下の部屋。

十三歳の僕。

そして

美月の手を握りながら

言った言葉。

『一緒に生きたい』

男の声が続いた。

『それは今までと

違う願いだった』

「何が違うんだ?」

『誰かを犠牲にして

生き返りたいとは

願わなかった』

僕は息を呑んだ。

『二人で生きたいと

願ったんだ』

「それで……」

『願いは形を変えた』

男の声が

少し遠くなった。

『お前たちは

一つの命を

二人で分け合っている』

僕は美月の胸を見た。

同じ鼓動。

同じ速さ。

「じゃあ……」

『片方が死ねば

もう片方も死ぬ』

背筋が冷たくなった。

『それでもいいのか?』

僕は答えられなかった。

男は静かに続けた。

『お前たちは

普通の人間じゃない』

「分かってる」

『いつか

その命も終わる』

「……うん」

『それでも

彼女を愛せるか?』

僕は美月を見た。

眠っている彼女は

幸せそうだった。

十五年間

誰にも触れられず

誰にも見てもらえず

一人で泣いていた女性。

そんな彼女が今

僕の隣で眠っている。

僕は小さく笑った。

「もちろん」

男はしばらく黙った。

そして

優しい声で言った。

『それなら

もう俺たちは

必要ないな』

僕は息を止めた。

『幸せになれよ』

その声を最後に

頭の中は静かになった。

僕は目を閉じた。

そして

美月を抱きしめた。

彼女が寝言のように

僕の名前を呼んだ。

「悠真……」

「はい」

「大好き」

僕は微笑んだ。

「僕もです」

それから一か月。

僕たちは

普通の生活を始めた。

美月は少しずつ

現代の暮らしに慣れていった。

スマホの操作に苦戦し

電子決済に驚き

動画配信サービスに夢中になった。

健太と翔太にも

彼女を紹介した。

二人は驚いていた。

特に健太は

美月の顔を見た瞬間

しばらく動けなかった。

「……あの写真の?」

僕は頷いた。

「うん」

健太は何も聞かなかった。

ただ最後に

小さく笑った。

「幸せにしろよ」

僕は笑った。

「もちろん」

そして

約束の日が来た。

海へ行く日。

朝から美月は

嬉しそうだった。

「悠真、早く!」

「まだ準備中ですよ」

「遅い!」

僕は笑いながら

車の鍵を取った。

海までは

一時間ほど。

車内では

美月がずっと歌っていた。

十五年前の曲ばかり。

僕は笑った。

「本当に

昔の歌が好きですね」

「だって名曲だもん」

美月は頬を膨らませた。

海に着くと

彼女は靴を脱いだ。

そして

砂浜へ走り出した。

「悠真!」

振り返る。

青い空。

白い波。

風になびく髪。

彼女は

眩しいほど綺麗だった。

「早く来て!」

僕は走った。

二人で波打ち際を歩く。

冷たい海水が

足元に触れた。

美月は笑っていた。

「生きてるって

すごいね」

僕は頷いた。

「そうですね」

彼女は僕の手を握った。

「ありがとう」

「何がですか?」

「私を見つけてくれて」

僕は笑った。

「こちらこそ」

美月が不思議そうに

首を傾げた。

「何が?」

「僕を好きになってくれて」

彼女は少し照れた。

そして

僕の頬にキスをした。

「大好きだよ」

僕は彼女を抱きしめた。

波の音が響く。

僕たちの心臓は

同じ速さで動いていた。

これから先

何年生きられるのか。

普通に年を取れるのか。

誰にも分からない。

それでも

今この瞬間

僕たちは幸せだった。

夕方。

帰り支度をしていると

美月が小さく呟いた。

「ねえ、悠真」

「何ですか?」

「もし私が

また幽霊になったら」

僕は彼女を見た。

「そのときは?」

彼女は微笑んだ。

「また見つけてくれる?」

僕は笑った。

「もちろん」

美月が嬉しそうに

僕の手を握った。

「約束だよ」

その言葉を聞いた瞬間

胸の奥で

何かが小さく鳴った。

ドクン。

僕は一瞬だけ

息を止めた。

でも

すぐに笑った。

「はい」

美月も笑った。

「約束」

その夜。

僕たちは

海の見える小さな宿に泊まった。

窓の外には

月明かりが広がっていた。

美月はベッドに座り

僕を見つめた。

「ねえ、悠真」

「何ですか?」

「私たち

本当に変な恋人だね」

僕は笑った。

「そうですね」

「幽霊と人間だったのに」

「今は二人とも

よく分かりませんね」

美月が笑った。

僕も笑った。

そして

彼女を抱きしめた。

「でも」

僕は耳元で囁いた。

「僕は幸せです」

美月は小さく頷いた。

「私も」

その夜

僕たちは

静かな波の音を聞きながら

眠りについた。

午前二時。

部屋の時計が

小さく鳴った。

僕は目を覚まさなかった。

美月も眠っていた。

二人の鼓動は

同じ速さで続いていた。

そして

ベッドの足元に

一人の少女が立っていた。

白いワンピース。

長い黒髪。

結衣だった。

少女は

眠る二人を見つめた。

そして

静かに微笑んだ。

「よかったね」

その声は

誰にも聞こえなかった。

結衣は窓の外を見た。

海の向こうに

小さな光が浮かんでいる。

少女は最後に

二人へ手を振った。

「今度こそ

幸せになってね」

そして

月明かりの中へ

消えていった。

翌朝。

僕は美月の声で

目を覚ました。

「悠真、起きて」

「……おはよう」

「おはよう」

彼女は笑っていた。

僕も笑った。

窓の外には

青い海が広がっている。

僕は彼女の手を握った。

温かかった。

心臓は

同じ速さで動いていた。

僕はふと思った。

人生には

信じられないことが

起こるものだ。

十五年前に死んだ僕が

もう一度生きて。

十五年前に死んだ彼女が

僕の隣で笑っている。

そして僕たちは

恋人になった。

こんな結末を

誰が想像しただろう。

僕は美月を見つめた。

彼女が首を傾げる。

「どうしたの?」

僕は笑った。

「いや、ただ……」

そして

心の中で呟いた。

まさか幽霊に

恋するとは……。

【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。