認められよう!
どうやら俺はまだ生きてるみたいだ。穴の空いた腹をどうやって治したのか尋ねてみると、予想外の答え。
「勝手に治った」
とのこと。勿論、俺はスーパーマンでも何でもない。そんなことはあり得ないことだ。
しかしそれを可能にさせるのが、この異界の世界。本当にここがそんな世界なのか確かめなくては。
緑の髪の人は、耳の長く、女性だった。その時点で少し怪しいが、もっと決定的なものが欲しい。
「ここはどこですか?」
これで俺の知らない地名が出てこれば、少し答えに近づく。
「ここはそうだな。誰よりも幸せを求める国。エイレーネーだ」
う〜ん、そんな国知らないなぁ。
エイレーネー。確か平和の神様の名前だったよな?本当に文字通りの平和だな。
部屋の窓から外が見えた。外には花が咲き誇り、子どもたちが遊んでいた。
「体調は大丈夫か?」
「大丈夫です」
魔法のようなものも見た。剣で戦う魔族らしきものも、魔法?を使って戦う緑の髪の耳の長い女性も見た。
でも!でもだ!未だに信じられない。夢を見ているようだ。まあそれは自分の腹に穴が空いて、それがいつの間に治っていたという事象で覚まされた。
もういい·····。いい加減、ここが異世界だと認めよう。なら俺が取るべき行動は、転移者とバレないことだ。それがバレればもしかしたら、実験台にさせられるかもしれない。それに腹が治ったのも転移者、特有のものかもしれない。スキルというやつだ。まずそれが自分にあるなんて分からないし、それが奴らにとって利用するに値するものなのかも分からない。
未知の世界では情報が命。これはあの糞ブラック企業で学んだ唯一のためになる情報だった。
「その·····助けて頂いてありがとうございます」
緑の髪の人に感謝を述べた。
「礼はいい。貴様たちは何処から来たんだ?」
早速、第一関門。何とかして誤魔化そう。俺がしゃべろうとした時にちょうど矢白が目を覚ました。
「う〜ん。はじめぇ〜」
寝ぼけているのかまだ俺が起きたことに気づいていないようだ。
「おはよう。矢白」
かなり心配をかけたと思う。どれだけ寝てたかも分からないし、安心させなければ。
「は·····じめ?うん?肇!?」
俺の姿を見て矢白は胸に飛び込んできた。
「もうあんな無茶するな·····!」
少し噛み締めるような声だった。俺も何だか安心して、吐き出す息が軽かった。
というか、本当にこれからどうしよう。
まずはここの人たちの信用を得て、仕事に就いてぇ。あぁ、考えるだけで頭が痛い·····。
「本当に助けて頂いてありがとうございます」
矢白が深々と頭を下げた。そして緑の髪の人に近づいていった。
何をするのか見ていると、予想にしないことを聞いてらっしゃいました。
「耳、触ってもいいですか?」
やや興奮気味で聞いていた。俺は矢白らしいと思いつつ、おいおいと待ったをかけたくなった。
「耳?あぁ、エルフは初めて見るのか?」
「はい!」
エルフだったのか。通りで耳が長い訳だ。
「俺は八戸肇と言います。そっちが妻の八戸矢白です」
まずは信頼関係からだ。友好的になれば、ここでも平和に過ごせるはずだ。
「私はフィーリアだ。この教会周辺の巡回をしている」
フィーリアは真面目な表情で答えた。矢白に耳を触られながら。
「少し話を戻す。お前たちは何処から来た?」
その質問をどう答えたらいいか迷っていたが、未だに答えが見つからない。どうすればいいか考える暇も無く、誰かさんがあっさりと答えた。
「私たちは日本から来たの!この世界で言う·····」
「あ〜!日本はすっごい遠くにある町なんだ!」
声を遮るように少し声量を上げた。今、バレるのは不味い。必死に矢白に目配せをしたが多分理解してないだろうなぁ。
「そうか。ニホン?というところから来たのか。だが、なぜあんなところで寝ていたんだ?あそこは魔族の領土の境だぞ」
だから俺たちは襲われたのか。しかも魔族にって。かなり幸先が悪いな。
「旅をしていたんです。野営をしていたら急にここに居て·····。困っていたんです」
ここで矢白も気づいて、口を閉じた。
「この国に住まわせてもらえませんか?仕事なら何だってやります」
簡単なことではないと分かっている。見ず知らずのやつらを受け入れるのは、向こうにとって何の利益もない。それ以上に危険が伴う。ここは魔族との境だから、きっと戦闘の最前線だろう。リスクしかないはずだ。それでも俺は信頼を勝ち取って、矢白と幸せに暮らすんだ。そうやって約束したから。
「すまない。それを判断するのは私じゃない」
「それじゃあ、誰に頭を下げればいいですか」
気が前に出過ぎた。食い入るように言葉を放った。
「落ち着け。何も見捨てると言ったんじゃない。それに、ちゃんと人を見る人だ。安心しろ」
フィーリアがそう言うと、突然目を瞑った。
念話?みたいなやつだろうか。しばらく瞑っていた。
その状態でも矢白は耳を触り続けていた。
「もうすぐ王が来る。それまで待て」
目を開けたと思えばとんでもないことを言ってきた。王って国王とか、要するにこのエイレーネーの統率者ってことか。いきなり大物すぎやしませんか?
「王ってどんな人なの?」
矢白は普通にこの状況に適応していた。俺は胃が引き締められているのに。
「会ったらわかるさ」
そこから少し時間が経ち、外を見ていた時だ。ノックされた。一気に身が引き締まる。きっと言っていた国王だろう。これは交渉。弱気を見せてはならない。だから深呼吸だ!
落ち着いて、こわばった筋肉をほぐしていく。そんな緊張する俺を横目にフィーリアがドアを開けた。
体が重い。そう感じた頃には既にその人はいた。俺の胸ほどだろうか?女児の姿があった。これが·····王?じっと女児がこちらを見つめる。
「貴様、私を女児だと勘違いしているな?」
おっと、心でも読めるのか?すかさず目を逸らして「違います」と答えた。
「図星だな」
そんな視線が刺さる。仕方ないだろ?国王はその国の象徴だ。強面で威厳がある男性ってイメージだった。実際それが多いはずだ。
「私はノア・エルザイヤ。エイレーネーの国王で、三千年を生きる吸血鬼だ」
その人は遥かに俺より年上でいらっしゃった。というか三千年?吸血鬼?現実離れが過ぎますってぇ。ほんと流石は異世界。さっきから漂う重い雰囲気といい、まさに怪物のようだ。
「初めまして。私は八戸肇と言います。こちらが妻の矢白です」
二人で頭を下げた。できるだけいい顔で。印象がいいに越したことはない。
そんな俺たちを見てノアは微笑んでいた。
「あぁ、これからよろしくな。肇、矢白」
「はい、これからよろし······く?」
あれ?聞き間違えか?これからよろしくって、俺たちがここに住んでいいみたいに聞こえるぞ?
「戸惑っているな。まぁ、それもそうか」
そう言ってノアは立ち上がった。
話を聞くと、最初から俺たちを受け入れるつもりだったらしい。ただ実際に会ってみたかったそうだ。そこで最終的な判断を下すみたいだった。そしてその審査に合格!無事エイレーネーの市民になれました!ということらしい。
後、基本的に難民は受け入れているそうだ。
全くもって頭がスッキリしないまま俺はノアと握手を交わした。
「よろしくな」
「こ、こちらこそ」
困惑しつつも俺は確かな喜びを感じた。




