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厳しい世の中

どうも、ヒトです。3つ目の作品になります。まだまだ未熟な部分があると思いますが、頑張っていきますので応援よろしくお願いします!

外灯が公園の道を薄暗く照らしている。

その道を歩いているのはこの俺、八戸肇。超絶ブラック企業勤めの社会人だ。上司にこき使われ、毎度環境の変化する現場に赴き、仕事が終われば報告して事務作業·····

十二時前の電車に揺られてこの公園を通り、家に帰る。それが俺の日常だ。目の下にはクマができていて、ふらふら歩いている。完全に不審者だ。


こんなになっても頑張ってるのにはしっかり理由がある。それは勿論·····

「お帰り!ご飯できてるよ!」

愛する可愛い可愛い妻がいるからだ!

「ただいまぁ〜。疲れたぁ·····」

倒れ込むように矢白の胸に飛び込んだ。

それを受け入れるように抱きしめて「頑張ったね」と声を掛けてくれた。あぁ神よ!私は幸せです!


スーツのジャケットを脱いで、ハンガーに掛ける。そしていい匂いのするテーブルへと向かう。

「うまぁ」

矢白の料理はほっぺたが落ちるくらい美味い。

春菊の味噌汁に生姜焼きとその他諸々。

疲れた身体に染み渡るぅ!毎回俺は溢れるように美味いと言ってる。

「良かった!」

矢白も笑顔でそう言ってくれる。


仕事がどんなにつらくても、帰ってくるたびに笑顔で迎えてくれて優しく包んでくれるこの人が好きだから頑張ろうと思う。思う事ができる。

「ほんとにありがとう!」

えへへ、ととろけた笑顔を見せてくれた。

それだけでも心がいっぱいになる。本当に幸せ者だな俺は。

一緒に皿を片付けて、洗濯機を回して、風呂に入って。一緒のベッドで寝る。


「今日はどうだった?」

暗くなった部屋で肩を合わせて、ベッドに寝転がる。まだ冬なのでかなり寒い。矢白の冷えた足に自分の足を合わせて暖める。

「今日は寒いところだったなぁ。手に霜焼けできちゃったよ。そっちは?」

矢白は小説を書いている。最近は進捗があまりないと聞いてたから心配になっていた。

「結構書けたよ。肇も頑張ってるんだし、私も頑張らないと!」

暗くて見えないが、多分いい笑顔で笑ってるんだろう。


二人分の体温で布団の中がじんわり暖まってきた。冷えた体に染みる温かさは、眠気を催させる。

「おやすみ」

そんな言葉が聞こえた気がした。それと同時に激しい眠気に襲われて、眠りについた。



風を感じる。寒いなぁ。寝返りをうった。

「いたっ」

倒れるような感覚とともに、地面?に頭を打った。一日の始まりかぁ、と憂鬱な気分になりながら目を開いた。眩しい光が目に差し込み、思わず目をつぶってしまった。

「え?明るい?」

おかしいぞ?カーテンも閉めて部屋は完全に暗いはずだぞ!?という家の床ってこんなにごつごつしてたっ·····け······


「はぁ?」

思わず声が出てしまった。なんでかって?そんなの簡単だ。

だって·····俺たちは今森にいるからだ!

「矢白!矢白!!!起きろ、なんか森にいるぞ!?」

木にもたれかかって寝ている矢白を呼び起こす。

「ん〜、なにぃ?明るっ」

目を擦りながらゆっくり目を開いた。

「ゑ?」

もう一度、目つぶって開いた。現実かどうか疑っているみたいだ。矢白は辺りを見回して、地面を触って、ほっぺたをつねる。


そして突然、大声を上げた。

「す、すげぇ!!!異世界だぁぁぁ!?」

「い、異世界?」

俺は本当に突然すぎて目を丸くさせた。

そんな現実からかけ離れた世界なんてあるのか?俺を横目に矢白はご丁寧に解説してくれた。

「私たち転移?転生?したんだよ!魔法と知識の世界。異世界に!!!」

俺は頭を抱えた。異世界転生?まずまず俺たち死んでないだろ·····

なら転移か?いやそんなの関係ない。

というか何で異世界?何かしたか?てか何で森なんだ?駄目だ、すべてが謎すぎる。


しかもそんなことお構いなしに矢白は、はしゃいでるし。なんなら楽しんでる。

「ここが異世界なら何処かに街があるんじゃない?」

咲いていた綺麗な花をつつきながら言ってきた。街かぁ。

「う〜ん」

ここがマジの異世界だと仮定して考えると·····俺たちはズバリ不審者だ。

何も持たず、寝間着で裸足。片や目の下にクマを蓄えた見るからに怪しい男。

牢獄にブチ込まれるか、殺されるのがオチな気がする。


「ちょっと一旦はな·····」

矢白に目を移すと奥の方から光が迫っているのが見えた。それは素早く、そして正確に矢白に向かっていた。直感だった。まだ鈍い体を無理やり動かして手を伸ばした。


あぁ、矢白は?良かった無事だ。

というか、なんか腹が痛いなぁ。

寒気?というかなんかヤバい気がする。

「あ、あぁっ·····は、肇!」

矢白が顔を歪めてこっちに向かってきた。おいおい、かわいい顔が台無しだろ。

「そんな·····顔ぉ·····するなよ」

あれ?なんか思っているように声が出ない。なんだか息もしにくいぞ?


不意に腹を触った。いや、触った気でいた。

無いんだ、左の腹が。

「肇ぇやだよぉ·····死なないで」

矢白が俺を抱き寄せる。大丈夫だ、と声をだそうとしても出ない。掠れた息が出ていくだけだ。あの光の方を見る。きっと攻撃してきた奴らが来るはずだ。

カサカサと枝葉を踏む音が聞こえる。話し声も。まずい、このままだと矢白も死んでしまう。


「に·····げろ」

捻り出すように出した声は無惨にも届くことはなかった。どんどん音は近くなってきた。

木の陰から姿を現したそいつらは、腰に剣をかけ、明らかに俺の知ってる服装ではなかった。鎧を着てる。そして赤い瞳に肌を刺すような嫌な感じ·····本当に異世界に来たのか?だとしたらこいつらは魔族か?


くそっ、身体が動かん!

それでも今はとにかく矢白を·····

駄目だ、気づいてない。矢白!駄目だ逃げろ。俺はもう助からないから。当然、そんな心の声が聞こえるはずはない。だから、無理やり体を動かして矢白を突き飛ばした。

「逃げろ!」

下半身が千切れそうになって死ぬほど痛かった。息も絶え絶えに力を振り絞った。


これで気づいてくれる筈。矢白がハッと驚いた顔でこっちを見ている。ということは気づいくれたな。後は逃げてくれれば·····

おいなんでこっちに来てる?馬鹿馬鹿死ぬぞ?

「あ·····あぁ!」

矢白が魔族と俺の間に入り、守るように体を広げた。嫌だ、待ってくれよ。駄目だ駄目だそれじゃあお前が死ぬ。奴らは剣を振り上げて、それをヒュッと音を立てて振り下ろされている。

あぁ間に合わない。何もできない俺はただ心のなかで祈ることしかできなかった。


あぁ、神様助けてくれ·····


「聞こえたぞ。お前の声」

その声とともに、俺は信じられないものを見た。突然、緑の髪をした人が現れたと思えば、瞬間剣が爆ぜた。厳密には折れたのだ。

その人は次々に敵を切り裂いていった。

神速とも呼べるほどの速さで目では追えない。無駄のない動きでどんどん敵を捌いていく。でも思っていたよりも敵が多いようだ。少し手こずっているように見えた。


そんな異様な光景を横目に矢白の方を見る。

地べたにぺたんと座り込んでいた。腰が抜けているみたいだ。目が合うと、急いでこちらに体を動かした。そして消し飛んだ俺の左腹を見て、また顔を歪ませる。どうしていいかも分からずあたふたしていたが、助けようとしてくれていることだけは理解できた。

曇ってきた視界を凝らして必死に矢白を見た。


すると端のほうで動く何かが視界に入った。

それは·····剣を構えた魔族だ!結局救いはないのかよ。そうだよいつもそうだ。

「運がなかったね」

いつもそう言われてきた。そりゃそうだよ。お前らが不利な状況にして俺に託すんだ。今だって突然、異世界に飛ばされて何も知らないし持ってもいない状況で、魔法を使える奴と戦えって、

無理だろ·····


「無理じゃないよ!私がいるじゃん!」

その声はいつも隣で支えてくれる人の声だ。何度も助けてくれたこの世で一番信頼している人の声。どんな俺も好きだって言ってくれた変わった人。でも、俺はそんな人のために頑張れた。その人がいたから頑張れたんだ。ここまで生きてこれたんだ!

(助けられてばかりだ)

ならさ、今回は助けよう。この命に代えても!


そう思った瞬間、さっきまで激しく主張していた痛みが去っていく。そして体からどんどん力が湧いてきた。

「うおぉぉぉ!」

振り下ろされる剣を腕で振り払って、顔面に拳を叩き込んでやった。そいつは体をのけぞらせて遠くまで飛んでいった。

「よっ·····しゃ」

そこで限界が来たのか俺の意識は遠のいていった。まあいい人生だった。心残りがあるとすれば、やっぱり矢白に感謝をつたえられなかったことだろう。

「ごめんな」

そう言い終えると俺の意識はプツンと切れた。








「·····です。安心してください」

ん?なんか声が聞こえるぞ?あぁ死んだからここは地獄かな?あ〜しんどいなぁ。憂鬱な気分で目を開いた。

そこは明るかった。明るくて横には矢白が寝てて·····矢白!?

「あれ?俺死んだはずじゃ」

「生きてるよ。理由は知らんけどな」

声のしたほうを見ると、あの時の緑の髪の人がいた。

この作品を読んでいただきありがとうございます。良ければ感想やブックマークをしてくれると嬉しいです。誤字脱字もあったら報告していただけると助かります。

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