3-123.神々の会合②
「して、フェニックス殿。ジンを捕らえたというのは本当かな?」
この星への侵入者、密入魂の手引きをしていたのは、やはり元精霊王のジンだった。
インナーたちが何千年も頑張って調べても手がかり一つ見つけられなかった件であるが、ルチルが介入して調べたら犯人もある程度のやり口も秒で判明した。
インナーたちの力不足が露呈したように見えるが、入星に関する管理職のインナーたちが、軒並みジンの魅了の黒霧にやられていた。そのため何千年もジンのやりたい放題だったのだ。
ジンとは違いインナーたちは処分となった。
魅了に対する耐性がなく、浄化の対象外だったのだ。
星と神たちは承諾していないが、精霊王たちが決めた入星方法とは別に、ジンは魅了をかけたインナーを使って密かに他星の魂を多く引き入れていた。
正当な方法でこの星に転生してきた魂は、この星のルールに則って人間として生きることなどが記載された契約書に同意している。この契約に伴い何か問題が起きた場合には罰則が与えられるのだ。
これに関して言えば、この契約書は多少内容は異なるが、ほぼ同じ契約が自星の魂にも適応されるので、この星生まれであっても特に優位性はなく、他星の魂も納得して契約書に判を押す。
これに対して、密かに入り込んだ魂は何の契約もしていない。不法滞在の魂であるわけだ。
他の星であれば不法滞在は見つかり次第有無を言わさず“消滅刑“となる重大な犯罪、違反である。
消滅形は自分だけではなく、系列の魂(親や子供等)も伴う連帯責任の刑のため、誰もが恐る刑罰だ。
この星において密入星の魂が見つかってもすぐに消滅刑とはならずらやり直しの機会は存分に与えられるため、不法だったとしても入ってきたい魂が多いのも頷ける話だ。
さらにこの星が“天国“との噂も手伝い、ジン経由で入ってくる不法滞在者は後を経たなかったのだろう。
その大罪を犯したジンであるが、既に世界樹によって拘束されている。
その事を、フェニックスから三柱へと伝えられたのはつい先程のこと。知らせを聞いて早急にやってきたカメ神と獅子神は顔をしかめている。
「通達の通りよ。ジンは世界樹の中に閉じ込めてあるのだけど、強い魅了の力でやられて地獄の黒霧の温床になっているの。世界樹がどうにか抑えているわ。
大元があの状況だと、ジンが引き入れた魂には影響が出ているでしょうね」
「ふむ。では我れが尋問してやっても良いぞ?」
フェニックスに近い前足をあげて、軽くタシンタシンと床を叩く獅子神。
「あー。ジンにはこちらの話は耳に入らない状況だから、近寄ることは危険かも。」
獅子神の尋問は、あの大きな前足で物理的に押さえつけるか、光をぶっ放しながら行うのが主なやり方。
一般的なな精霊や精霊王がそれを受けたら最悪消滅していまいそうだが、今回ばかりは未曾有の黒霧のためいくら獅子神でも分が悪そうだ。辞めてもらうおう。
それに大切な手がかりが消えてしまっては、あちこちに出現してしまっているはずのジン由来の黒霧の回収が出来ず、本格的な解決に至らない可能性も出てくるのだ。
ヘビの時のように残ると後が面倒なのだ。
「ジンから発生される黒霧が異様なの。
色が黒霧特有の真っ黒ではないうえ、薄く引き延ばしたらほぼ透明になっちゃう。
これだと多くの精霊たちが見抜けないわ」
「なんと!」
「見えぬとは、ちと面倒だな」
神たちが居なくなった大地には、ジンによる不思議な黒霧が発生していた。今までの黒霧は精霊や神獣には見えていたが、それが見えないのだ。
「今のところジンと同じ思考を持った者、ジン経由でこの星に入ってきた犯罪者たちに取り憑いているのは確認出来てるわ。」
「取り憑かれた後どうなっていくのかは分かっておるのか?」
「取り憑かれた魂がさらに同じ黒霧を引き寄せて体内に集まってるのだけは解ったの。ある程度集まって色が変わる頃からおかしな発言をし始めてるみたい。その後はおそらくだけどジンの同じく温床になるのだと思うわ」
「温床が増える可能性があるのか。それは早々に潰さねばなるまいなぁ…。いつから出始めたのか、その逆算は終わっているのかのぅ?」
張本人であるジンから話が聞けなければ、いつから発生が始まったのか、どれくらいの濃度で温床になるのか、さらにどれほど広まっているのかが明確にならない。
「残念だけど、見えていないからね…」
見えてさえいれば精霊たちからの報告が上がり、精霊ネットワークで確認することができたはずだ。
「誰も気がついていなかったんじゃ、無理もなかろう」
三柱はルークの住んでいるホーネスト王国に降り立っている。
フェニックスは魂を親元に届けるという、本来インナーの仕事を手伝い(この仕事をしていたインナーたちはジンの手に堕ちていたので既に処分されたので手が足りていないのだ。)をしながらあちこち飛んでいたがジンに関する黒霧は見た覚えはない。
獅子神はホーネスト王国と光の国マーレルーチェス王国を行ったり来たりしていたが、どちらの王国でも違和感は感じていなかった。
カメ神は、ほぼ湖とレンの家の往復のみであるが、その範囲内では見たことがなかった。
「「「うーむ」」」
既にルークの周囲に、魅了の影響が出始めている例の令嬢がいるが、三柱はまだ気がついていない。せめてルチルがそばにいてあの令嬢を一目でも見ていたら気がついていただろうが、ここで仕事中だったのだ。
もしくは世界樹が“新たに誕生“ではなく“復活“していたら気がついていただろう。まだ幼い世界樹では働ける時間が極端に少なすぎるのだ。
「魅了か…厄介な魅了のスキルは水星とメルヘン星の魂が使う能力だったか。我が星にはないスキルじゃが、獅子神のペンダントは有効なのかのぅ?」
「ルークにあげた獅子神の“加護モリモリペンダント“ね!有効ならホーネスト王国の首都は問題ないんじゃない?どう?」
獅子神から雪豹の精霊を経由してルークに渡された黄色のダイヤのペンダントがそれである。
“害意のある奴が一定の距離近寄れない“という加護がかけられているだけでも規格外なのに、その範囲が王都全体という激ヤバなアレである。どこぞの国王に知られたら、どれだけ金を積んででも絶対に欲しがられるヤツだ。
しかし、この星にないスキルはその仕組みが判明していないものが多い。
誰かを魅了して恋に狂わせたいと言う気持ちも神獣たちには理解できないので当然である。
理解できないものに対抗するのは難しいものだ。
「うむ。魅了か…おそらくは有効だが、黒霧本体が透明なのであろう?確認せねば断言はできぬ。」
「獅子神のペンダントでも魅了に関しては万全ではないかもしれない。ということじゃな」
「確認しようにも。ふむ。透明は本当に厄介だな。
ジンと関係があるとなれば原因は水星の魂だな。水星か…」
「水星は大侵略を受けた時に男性ばかりが奴隷として連れ去られ、今ではほぼ女性の星と成り果てたと聞いてからなんの情報もないのかい?」
「世界樹経由で確認したら、今では女子しか転生させてないらしいわ。後、はぁ…属性を一つ追加したみたい…」
ため息混じりの上セリフが尻すぼみになったので、カメ神がもう一度言うように促すと、フェニックスは諦めたように息を吸って、一言で言い切った。
「“素敵“を増やしたんですって」
「ん?」「素敵を増やすとは?」
謎の言葉に似てる柱はポカン顔だ。
「この人素敵だなと思える幅を増やして、自星の男性への記憶を薄めたって書いてあったわ。しかも長い注釈付き。要約すると、他所の星の魂との初恋を追加したって解釈できる内容よ。“記憶“は“執着“だし、素敵“の言葉には“恋“ってルビが見えたもの」
この星の精霊はどの星よりも長く生きているためか、真実がルビに振られて見える事がある。文書の虚偽や敢えて間違った捉え方をさせようとしても無駄なのだ。
「それは…」「厄介そうだな」
ドロドロすぎる愛憎を持ち合わせた水星人に、今度はそれを薄めて“恋“を追加。しかもペア以外と。
好きになる相手はペアだった水星人たち。自分が好きになった相手から好かれるのが当然という恋愛しかしてきていない。それが染みついた魂に、一方通行の恋属性を追加するなんて正気の沙汰ではない。




