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3-98.カレルという宮廷法律家

太陽が大地に吸い込まれてはじめ、街灯の点灯が始まってきた。

新王都では、あらゆる場所に細長くスタイリッシュな街灯が設置されている。

この街灯は空がある一定の暗さになれば自動点灯していくという優れモノだ。


ルークはオカメインコの精霊グロウを肩に白イタチの精霊イッチーを頭に乗せ、白馬の精霊ハクを三輪駆動車の後ろ乗せて南側の公園商店街地区へやってきた。

公園商店街地区は東西南北に四つあるが、南側が一番近いのだ。

とはいえ、中心部に住んでいるルークからすれば、どの公園商店街地区へも同じくらいの距離ではあるのだが、三輪駆動車専用道路は直線で繋がっているわけではないので、南側以外はぐるりと回って向かわねばならない。そんなこともあって、いつも向かうのは南側が多くなってしまう。


公園商店街地区には民家が並ぶ地区よりも多い街灯が設置されている。夜の屋台のために総設計したのだ。街灯はかゆいところに手が届くといった感じで暗く視界が届かないような死角はない。

さすがジェイクじいちゃんだと、ルークは思う。


専用の駐車場がある屋台裏に乗ってきた三輪駆動車を停め、白馬の精霊の首元に手を当てて屋台の表側に移動する。

今までルークから接触することは殆どなかったが、今後は持て余している精霊力を契約精霊にしっかり届けようと決めたからだ。そのお陰で今一緒にいる契約精霊三人はウキウキで白馬の精霊は軽くステップを踏んでいる。


準備中の屋台が多い中、すでに販売を始めている屋台もある。

屋台開始よりも少し早い時間帯ではあるが、比較的多くの人たちが集まってきているのでセーフである。


屋台はお昼ごろと夕方以降の二部制で、申し込んだ順に場所の確保が出来る。

夕方以降で申し込んでいるにも関わらず、あまり早い時間から始めていればお昼ごろからの開始となり、場所代を二倍支払わねばならない取り決めなのだ。


商才がある者たちは客を逃さないように少し早く来て準備を始めるそうだ。

この時間であれば夕方以降として良いだろう。そういう意味でのギリギリセーフだ。


ルークが屋台の表側に顔を出した時間には、常に設置してある屋台前のイートスペースの空きは少なくなっていた。

屋台正面にあるので、追加購入した食べ物をすぐに食べることが出来て人気の場所である。


購入して持ち帰る人もいるが、味見的に買ってその後追加で食べたい人もいるし、仲間と集まって食べて帰りたい人も多そうだと思い、週末限定で公園を中心にドーナツ型に配置するように指示を出した。

多くのスペースを有効活用できるようにしたのだ。

普段の四倍以上のテーブルと椅子を準備させたことで、王都民も多く外出してくれるようになってきた。


今日は先週に比べて少し客の入りが多いと、オカメインコの精霊が教えてくれた。

ゆるキャラ時代の一人がこの辺りを見て回っていたようだった。体も記憶もしっかり合体している。


ずっと精霊王と王様に付いていてもらった光の子供精霊も合体して一羽のオカメインコの精霊になってしまったので、新たに光の子供精霊にお願いしなければならないなと、ルークは考えていた。

あの二人を放置はなんとなくダメな気がしている。


契約精霊がいない人からは精霊は見えないが、ルークの目からはあちらこちらに精霊が見える。

光の子供精霊たちもふわふわと漂っている。


精霊たちには人間の思考がダダ洩れサトラレ。

相手が大好きなルークであれば、周囲の精霊はルークの心の声に集中して耳を澄ませている。

つまり、ルークが直接願わなくとも頼まずとも、聞き届けた光の子供精霊たちが王様と精霊王に向かって行った。二人のいる場所は光の子供精霊だらけ。何があったのかと騒いでいるに違いないが、ルークはそれを知らずに過ごしていく。


ルークが公園商店街地区の中心にある公園へ目をやれば、大人たちが大いに喜んで遊んでいるのが見えた。

公園の上部にあるアスレチックとボルダリングが人気である。

体をめちゃくちゃ動かせる場所があまりなかったので人気なのだ。


キースのような肉体美を保っている人も、ジェイクのように細マッチョな人も楽しんでいる。


え?ジェイクじいちゃんとキースじいちゃんの見た目やイメージと肉体が逆じゃないかって?

俺も顔の系統とかイメージとかで、ジェイクじいちゃんの方がガチガチの筋肉を持ってそうだと思ったよ。でも建築業の人って無駄な筋肉を持ってる人ってあまり見ないでしょう?つまりそんな感じ。


キースじいちゃんは、見た目が綺麗すぎて男性からのアプローチがひどくなった頃に肉体美に目覚めたとかなんとかで。体を鍛えたら鍛えたで、今度は違う意味の男性からのアプローチが来るようになったそうだけど…。

美形って大変なんだね…。


ま、そんな感じで、キースじいちゃんは氷の国から来ていた三つ子のおじさんを軽々担いで公衆トイレに連れていけるくらいの筋肉持ちってこと。見た目の儚げな美しさと対比させると脳がバグりそうになったこともあったけど、さすがにもう慣れたよ。


「お。ルーク君じゃないか。食べに来たのかい?」


「あ、レッジムさん!こんばんは。多分父さんたちも来てると思うんですけどね。今着いたばかりなので探せていません。」


「そうなのか。今日宮廷では残業なしってお達しがあったから残業はしていないだろうけど、会えてないなぁ。」


レッジムは一人で来たのか、周囲に宮廷役員の制服の人は誰もいなかった。


「じゃぁ、場所取りにでも行きながらぐるっと回って探してみるかい?」


この星の人たちは本当に子供にやさしい。

子供が一人で歩いているだけで、周囲の大人たちは心配そうな視線を向けてきてくれる。

ルークもまだ十一歳なので十分子供の年齢。少々小柄なので、歩いていれば沢山の人が心配そうに見てくるし、なんなら「ひとりかい?気を付けるんだよ?」と声をかけられることもある。


実際はルークが規格外なので心配などはいらないのだが、見た目では解らないし、ルークが誰よりも強く加護を受けていることは星随一のトップシークレット。人間は誰も知らない事実であるが。

そんな事実があろうがなかろうが、大人たちからすれば子供はどんな子供でもどの星の子であっても心配の対象なのだ。


レッジムの誘いの言葉に甘え、ルークは二人で商店街をぐるりと歩く。

白馬の精霊はその後ろをニコニコしながら着いていくが、人間からは見えないので誰も避けてはくれない。見えない人間にぶつかるわけではないが、なんとなく人を避けているうちにルークと離れてしまった。徐々に混んできた商店街では進むことも退くことも出来なくなったので、白馬の精霊は浮かびあがって人間たちの頭の上五十センチくらいのところで浮遊しルークを追いかけた。


「おーい!ルーク!こっちこっち!」


ルークたちは商店街を二周したところで後ろからアーサーとアイリスに声をかけられた。

宙に浮いている小型化した白馬の精霊が目印になり見つけてくれたらしい。


「あら、レッジムも一緒だったのね。ルークを見つけて一緒にいてくれたのかしら?どうもありがとう」


レッジムとアイリス、アーサーの三人は職場が同じなので仲が良いとレッジムからは聞いていたが、気安い感じの母を見て、ルークはあの話は本当だったんだなと再確認をした。

家でレッジムの話が出たことが一度もなかったからだ。


「どういたしまして。大人として当然のことをしただけだ。そういえば双子のお披露目を楽しみにしているよ。あんな激務の中よく準備を進められたな。」


どうやら双子の誕生会の案内が届き始めたらしい。

そのうち出欠確認の返信が届き始めるだろう。どれくらいの人数が集まるか解らないが、会場の変更はないので、スカスカにならないようにだけ祈るルーク。


「あー。それな。定時で上がれるように調整してもらったのを、宰相が勘違いしてな…。暇そうだから川の流量測定できる装置の開発を十日ほどで済ませろと無茶なことを言い出して。」

「ほんと困ったものよねぇ。」

「「はぁ…。」」


アーサーとアイリスがため息を吐けば、レッジムはその無謀な依頼をしてきた宰相に対して呆れかえる。


「その話が本当だとすると、人を殺しかねない暴挙だな…。」


嘘ならよかったのだが、丸っと事実である。

ルークが精霊王から直接聞いたので間違いないし、そんなウソみたいな装置を最短な製作期間で仕上げてしまった本人たちを目の前にして、嘘でした。なんてつまらない冗談を言うはずがない。

やってのけたルークの両親が化け物じみているのだ。

この星に存在していなかったものを研究期間もなしに作り上げてしまったのだ。


真顔の三人の顔を見て、


「まじか…。優秀すぎんだろ。君たちは。」


と、少し顔色を悪くして呆れたレッジム。


「あー!レッジムにアーサー、アイリスもいるじゃん!こっちの席空いているからよかったら来なよー!相席しようよー!」

「おー!お前たちも来てたのか!ルーク君もいるんだが、椅子の空は足りるか?」

「全く問題ない!おいでおいで!」


あり難いことにレッジムが代表し、小さくて人混みに紛れて大人からは見えなかったルークの分も含めたみんなの座席を確保してくれたので、それに甘えることになった。

大人たちの知り合いが確保していたのは横長のテーブルで追加に出すように伝えていたテーブルの中で一番多くの人数が同じテーブルにつけるサイズのもの。これなら人数が倍ほど増えても問題ない。


呼んでくれたのはレッジムと同じ法律室所属の宮廷法律家で、名前をカレル・パルルマンと言うらしい。伯爵家の次男で爵位を継ぐことなく自由の身らしい。

名前の響きから、なんとなく前世のフランス語が思い浮かんだルークだったが、思考の海に飛び込むとなかなか帰ってこられないので気にしないことにした。


「ルーク・フェニックスです。お言葉に甘えてご一緒させていただきます。」


とにっこり微笑んで挨拶すれば、カレルもにっこり微笑んでくれた。とても気さくな感じだ。


「初めまして。あちこちから噂はかねがね。俺の息子も貴族学校に通ってるんだ。もう少ししたら来るんだけど、大丈夫かな?」


一体どんな噂なのか。誰が話しているのか。

気になるが聞きたくない。知りたくない。


「はい。問題ありません。逆に良いのでしょうか?」


「それこそ問題ないよ。こんなに礼儀正しい子と息子が知り合ってくれたら、少しは落ち着くんじゃないかって期待しちゃう。」


と笑わせてくれた。

そんなカレルの息子は貴族学校の三年生。十三歳だがスキルがまだ生えていないのだとか。

平均すればそれくらいの年齢で生えることが多いというだけで、ほとんどの子供は在学中に生えてくるのでまだ心配することはない。


場所取りをしておく必要があったので、話し合ってルークとカレルが席に残ることになった。

カレルは息子を待つつもりでボケっと座っていたそうで、そのまま残ってくれるとのこと。

アーサー、アイリス、レッジムの三人は屋台に夕食の買い出しに向かった。


なぜこんな一番大きいテーブルを確保したのかと聞けば、たまたまこのテーブルが空いていたのだという。カレルからしたら待ち合わせた息子の分の席さえ確保していたら良いので、他の誰かと相席するつもりだったという。


「街灯もそうだけど、こんな商店街が出来てくれたことと亀裂が出来なくなったことがでかいよなぁ。そうじゃなきゃ夜に出かけるとか、外で子供と待ち合わせをするなんて思いつかなかった。俺たち王国民はさ、街灯を作ってくれたアーサーたちと、公園商店街地区を私財をなげうって作ってくれたルーク君に感謝してるんだよ。本当にありがとなー。」


「いえいえそんな。」


突然感謝されて、笑顔で感想を伝えられ、頭を下げられたら、とてつもなく照れくさい。

ルークは足元にやってきた白馬の精霊を撫でつけて気持ちを落ち着ける。嬉しくてほんわかした気持ちになる。


「さー、みんながいなくなったところで、どうしても聞きたいことがあるんだ。」


カレルはポケットから魔道具らしい手のひらに乗る程度の立方体を取り出し、テーブルの上に置くとポンポンと二回軽くたたいた。すると立方体から膜のようなのもが広がっていく感覚があり、その膜がテーブルとイスを囲いきると動きを止め、そのまま留まっているような感じがした。

この感じは、食堂の人気の座席にかけられているスキルによく似ている。


「防音の魔道具ですか?」


「さすが。ご名答。」


良く知ってるなぁ。と笑いながらも、カレルはルークに興味津々の表情だ。


「学校の食堂にもかけられてますからね。なじみのある感覚です。」


「え。マジか。学校で秘密の会話とかしないから必要なくない?キースさんあたりが必要だとか言って導入したんだろうけど。」


ご名答である。

ってか、なじみがあるとかって、何?魔力を感じ取れるってことか?とカレルは呟くが、いつものようにルークには届かない。


このカレルという人物は法律家なだけあってルークの祖父であるキースとも知り合いらしい。

うっかり口を滑らせてしまうルークは、今日こそそうならないように気を引き締めた。


「在って良かったと思う時もありますから、結果として必要だったと思っています。」


「そっかぁ。でもどれだけ金をかけてんだって話だよ?この魔道具一つでひと月分の給料が消えちゃうんだから。」


「え。それは高価ですね…。知りませんでした。」


「でしょ?それを子供がメインの使う食堂の席に仕掛けるって…。何を秘密にすることがあるの?って思うよねぇ。」


「ですね…。」


結構の数の座席に簡単に付与してしまったが、一般の人から見たら色んな意味でやばいということをやっと理解し始めるルーク。


「高価になった理由は、防音のスキルが使える人がとても少ないってことが一点。昔は使える人がそれなりの人数で居たらしいけど。今はあんまりいないんだ。だから数が少ない。

もう一点は小型化に成功したからだね。この装置、昔はもっと巨大だったんだよ?それをアーサーが小型化に成功したからこうやって持ち歩くこともできるようになったわけ。ちなみにこれは私物ね。宮廷役員割引きで購入して、給料ひと月分の値段。購入した後に口座を確認したから、奥さんにめちゃくちゃ叱られたんだよねぇ。」


カレルは防音魔道具を指さしながら話す。


「それは…。」


カレルが悪いとルークは思う。

カレルの奥さんが働いていようがいまいが、値段は確認すべきだし、高額の商品を買う時には相談してお互いに納得しておきたい。夫婦に置いて財布が別であれば問題ないが。


これはルークの持論なので、押し付けるものではないと口を閉ざした。


しかもこの防音魔道具は、作動したときにいた人数が固定されるらしく、増減することで音が鳴って知らせるという便利機能付き。つまり話している最中に膜内に誰かが入ってきたら音が鳴って知らせてくれるので話を途中でやめるなりできるということだ。

この便利な機能はアーサーによって付け加えられたという。


(そんなの付けたら余計に高価になるよ、父さん。)


「ま、法律家たるもの、守秘義務ってのがあるからさ。持ち歩きたかったんだよね。」


法律家ならではの考え方かもしれない。

その考え方があるおかげで守られる王国民だって多いだろう。

そんな法律家のカレルが、高級な防音魔道具を使ってまで話したいこととは何だろう。

先日の裁判に関する話だろうなとあたりを付けたルークは、そのつもりでカレルに相対した。


「前置きが長くなっちゃったんだけどさ…。」


「はい。(ごくり)」


ルークが少し緊張して唾を飲み込んだ。

王国民のあこがれの職業、宮廷役員で。

法律室所属の、宮廷法律家であるカレルがルークにどうしても聞きたいこと。

一体それは何か。聞かれる内容が想像できない。ドキドキするルーク。


「ルーク君って…。」


「はい。」


「飛び級したって本当?」


「へ?」


大真面目な顔をして聞いてくる内容が、飛び級の話?


「トーマスと貴族学校の校長がトップシークレットだの、学校史上初の連続飛び級だのって話しているのが扉越しにたまたま聞こえちゃって。俺も飛び級組だったんだけど、それでも一年半の飛び級で史上初じゃなかったわけよ。」


「はぁ。」


「それがルーク君が学校史上初なんて言われてるって聞けばさ、飛び級先輩としては気になるわけ。

で?実のところどうなの?誰にも言わないから教えて!」


「ふ…ふふふ!あはははは!」


顔の前で両手を合わせ、目を瞑って懇願するカレルに、ルークは笑ってしまった。

あんなに緊張して待っていたのに、まさかの飛び級の話。しかも飛び級先輩って!


「あれ?そんなに笑うところ?」


「だって、防音魔道具使ってまで!あはは!」


「校長がトップシークレットだって言ってたんだよ?そこは死守でしょ!あの人怒らせるとやばいんだって!」


そんな面白い男カレルに、ルークが四年の飛び級であることを告げる。

ルークにとっては秘密にしたい内容ではない。すっかり忘れて親や親族に言っていないくらいな些末なこと。という認識である。

トーマスが話し出したらあっという間に広がるだろうが、防音の高級魔道具を使ってまで心にとどめてくれるという宮廷法律家が周囲に漏らすはずがないのだ。


「ま、マジか…。それってほとんど学校に行く必要ないよね?逆に何が原因でそのまま卒業にならなかったのかの方が気になるレベルだよ?」


「あはは!入学してその場で卒業ってことですか?」


「そう。だって四年分の勉強が必要ないってことは基礎学力はもう身に着けてるってことでしょう?

学校で学ぶ法律は触り部分だからキースさんがいたら教えてもらえるだろうし。」





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