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#29 恋愛相談

 ジャンヌを抱擁しているところを王子に見られたことで、おかしな相談を受けた。

「恋愛相談」とでもいうのだろうか、そういう類のものをアンリ王子から依頼される。

 もちろん、アンリ王子自身ではない。この方は50後半のいいおっさんではあるが、正室の他に側室が3人もいる。恋愛感情を抱く相手があれば、相談などせずともその地位を利用して……

 いや、アンリ王子のことはこの際どうでもいい。今回の相談の対象は、アンリ王子の3番目のご令嬢、コレット嬢である。


「どうも最近、コレットのやつが、どうやら誰かに恋愛感情を抱いているようなのだ。」

「はあ……」


 例の夕食会が行われた翌日のこと。私はアンリ王子に呼ばれ、このご令嬢の話を聞かされる。

 しかし、私の職業は艦隊司令。恋愛相談員ではない。どう考えてもお門違いの相談相手なのだが、王族から直々の依頼を、無碍に断ることはできない。仕方なくアンリ王子の話を聞く。


「……つまり、コレット様の恋愛のお相手を調べればよろしいのですか?」

「そういうことだ。」

「しかしそれなら、アンリ様自身が直接お聞きになればよろしいのではありませんか?」

「いや、あやつめ、わしが聞いても何も答えん。そのようなことはないとの一点張りだ。まあ、王族の娘ゆえに、わしに気を使っているのであろうがな……」


 この国では、女性は政略上の道具として使われるのが普通である。貴族同士の縁を深めるため、王族に取り入るためなど、どちらかというと内政的に不安定なオラーフ王国では、政略結婚は日常で行われていた。この国の貴族や王族の娘に、結婚の自由はない。

 そう言われてみれば、私も政略結婚をしたようなものだ。ある日突然、国王陛下直々にジャンヌを妻だと言われて夫婦にされてしまった。でもまあ、そんな経緯でありながら、私とジャンヌは上手くやれている方だろう。

 さて、コレット嬢に話を戻す。このご令嬢はアンリ王子の2人目の娘で、歳は21。ジャンヌと同い年である。

 何度か目にしたことはあるが、とりたてて目立つ人物ではない。身分の低いじゃじゃ馬ジャンヌの方がよほどか目立つ。とにかく清楚で、物静かな人物。そういうイメージの令嬢だ。

 しかし、そんなご令嬢がどういうわけか、最近は思い悩む姿を見せることが多いという。気になったアンリ王子は侍従らを使い探りを入れていたようだが、どうやらある男性に想いを寄せている節があるとの情報を得た。


「恋愛についてもなかなかのものをお持ちの准将殿だ。ぜひこの一件、お願いしたい。」

「はあ、わかりました。微力を尽くします。」


 なんだか妙なことを頼まれてしまった。それもこれも、ジャンヌのやつがあんなところで抱きしめてくれなどと妙なことを頼むから、変なイメージがアンリ王子についてしまった。とんだとばっちりを受けたものだ。

 とはいえ、王族からの依頼だ。なんとかせねばなるまい。私は、ある人物にこの一件を任せることにした。


「ええっ!?あたいが王宮に!?」

「そうだ。今日付けで跳馬(ギャルソンヌ)騎士団の正式な騎士とし、コレット嬢護衛の任につけ。」

「しかし、あたいは元々貧民階級で、しかも王宮だなんて……」

「貴族の家に居候して、しかも騎士だ。同性の護衛人でもあるし、身分上もなんら問題はない。」

「いや、でも……」

「居候させてやってるんだ、それくらいは頼まれてくれてもいいだろう!」

「ううっ……分かりました……」


 私は、半ば強引にリザにこの調査を依頼する。こうして騎士団見習い、いや、現時刻をもって正式な騎士となったリザに、この件を探ってもらうことにした。

 同性の護衛人ならば、かなりあの令嬢に接近することができる。近くにいれば、いずれ馬脚を現すはずだ。護衛の理由など、適当につければ良い。ともかく、リザを伴って王宮へと向かう。


「王都司令部のエルンスト准将であります。」

「アンリ王子が娘、コレットでございます……」


 直接話をするのは初めてのこのご令嬢、これまで遠くで伺った印象通り、もの静かな方だ。


「昨今、このあたりにモンスターの出没が懸念されております。コレット様の護衛のため、跳馬(ギャルソンヌ)騎士団より護衛人派遣の依頼をアンリ王子様よりお受けいたしました。」

「まあ、とうとう王都にまでモンスターが……お心遣い、ありがとうございます。」

「そこで、こちらが本日より護衛の任に就く、騎士団の女性騎士、リザです。」

「あたい……いや、わわわ私は跳馬(ギャルソンヌ)騎士団の騎士、リザでございます!」

「まあ、この方が騎士?ずいぶんと可愛らしい方ですね。よろしくお願いいたします。」

「は、はい!よろしくお願いしやす……いや、いたします!」

「では、私はこれにて失礼いたします。」


 私はコレット嬢に敬礼し、部屋を出る。すれ違いざまに、リザにつぶやく。


「……上手くやれよ……」


 緊張のあまり、泣きそうな顔をしているリザに後のことを託し、私はコレット嬢の部屋を出た。

 一応、2週間限定での護衛ということにしておいた。もっとも、王都の中心部にモンスターなど滅多に現れない。ましてや、厳重な護衛で囲まれた王宮である。最近は従来の護衛に加えて、我々の監視システムも設置された。本来、王宮内に護衛人など不要である。

 リザの任務はただ一点、コレット嬢の身辺を探ることである。2週間もいれば、必ず何かが得られるだろう。


 こうしてリザの王宮での護衛任務が始まった。

 リザを送り込んだ初日の夜、私は彼女に話を聞いてみた。


「どうだったか?」

「はい、それがですね、どういうわけか気に入られちゃいまして……」

「そうなのか?まあ、それはそれでいいことではあるが、一体なぜだ?」

「はい、どうもあたいが跳馬(ギャルソンヌ)騎士団ということに興味を持たれたみたいなんですよ。」


 あの場では緊張してがちがちだったリザだが、どういうわけかリザはコレット嬢に気に入られてしまったようだ。

 話によれば、跳馬(ギャルソンヌ)騎士団というモンスター退治専門の騎士団出身というあたりに、コレット嬢が食いついたらしい。

 もの静かで穏やかなイメージがある令嬢だが、どうやら騎士やモンスター退治というもに興味があるらしい。外観からはとてもそんなイメージはないが、ともかく跳馬(ギャルソンヌ)騎士団から来たというので、リザは早速質問攻めにあったそうだ。

 そこでリザは、先日のゴーレム退治の話をした。サイクロプスの襲撃やコボルト退治、そしてリザがまだ駆除人だった頃のスライム退治の話までし始める。

 王族とはいえ、国王陛下ではなく、その弟君である。国政に関与するでもなく、その地位は実質的には公爵以下である。それなりの身分でありながら、どこか後ろめたさのある立場。そんな身の上のおかげか、モンスター退治といった力強いものに憧れを抱いているようだ。

 さらに、リザはあまり気取らない性格である。そもそも取り繕うということが苦手である。それがかえってコレット嬢の信頼を寄せる結果となったようだ。


 そして、1週間が経った。コレット嬢とすっかり仲睦まじくなったリザ。公務に私生活にと、かなりリザとべったりなようだ。

 だが肝心の調査対象については、何の情報も得られていない。

 そういう日が7日続く。だが、8日目にしてついにリザは決定的な情報を持ち込んで来る。


「エルンスト様!分かりました、コレット様の想いを寄せておられるお方が!」

「な、なんだと!?おい、一体誰なんだ!早く言え!」

「あ、あの、名前はわからないんですが……」

「なんだそれは!?わかったことにならないじゃないか!」

「いや、ちょっと詳しく話させてください……実はですね……」


 家に帰るや、やや興奮気味に話を始めるリザ。ついに本来の任務である、相手の情報を得ることができたのだ。

 リザの話によれば、その日は、アンリ王子とコレット嬢がオルバーニュ軍港の司令部を訪れていた。

 実はアンリ王子は、オルバーニュ軍港へ頻繁に視察に来られる。そういえばアンリ王子は、軍港にコレット嬢を伴って現れることが多い。


「ああ、そういえばそうだ。私も今日は司令部でコレット様を見かけたな。」

「その時、アンリ様が陸戦隊の様子を視察するため、コレット様を司令部の応接室に残して外に出られたんです。その時コレット様が私を伴い、こっそりと司令部を出られたんですよ。」

「コレット様が?一体、どこに行ったのだ?」

「はい、それがですね……2731号艦でして。」

「は?2731号艦だと?」

「はい。そこで私に見張りをするよう言われたんです。2731号艦の下で立っていると。そこである人物とお会いになりました。ええと、名前はよくわからないのですが、その船の艦長だと申しておりました。」

「は?艦長、だと?2731号艦の艦長か!それは確かなのか!?」

「はい、間違いないです!あたい、ちゃんと聞きました!写真もこっそり、撮ったんですよ!」


 衝撃的な事実が判明した。どうやらコレット嬢のお相手というのは、2731号艦の艦長だというのだ。

 リザがスマホで隠し撮った写真を見せてもらう。見張りのふりをして、なんとか撮った1枚。やや離れているが、くっきりと2人の人物が写っている。


「少し離れた場所からですが、お二人で手を握り合っておりました!間違いありません!」


 2731号艦の艦長、そしてこの写真に写る人物の面影。私はこれで確信した。この人物は駆逐艦2731号艦の艦長、エーベル少佐だ。

 いつのまにこの2人は、こんな関係になっていたのだ?会う機会といえば、司令部訪問くらいしか思い当たらない。しかもまだ赴任して1ヶ月ほどのエーベル艦長。そんな短期間で、手をにぎりあうほどの仲になっていたとは。

 だが、コレット嬢はモンスター退治など闊達な話を好まれる方だ。そしてエーベル艦長といえば、海賊殺し(パイレーツスレイヤー)の異名を持つほどの男。コレット嬢が惹かれてもおかしくない人物ではある。

 そういえば私は、エーベル艦長をアンリ王子とコレット嬢に引き合わせた覚えがある。ちょうど海賊団を捕縛した翌日で、エーベル艦長はこの2人に、自慢げに海賊団を捕まえた話をしていた。今思えば、あれがきっかけだったのではあるまいか?


 思いもよらない相手が判明した。当然、私はアンリ王子にこの件を報告することになる。


 だが、そこで私は考えた。どうせなら、エーベル少佐とコレット嬢をひっつけることができないものか?アンリ王子がコレット様の嫁ぎ先に選びたくなるほどの男だと思わせてしまえば、それも可能となる。そこで私は策を巡らせる。


 翌日、私はエーベル艦長を呼び出す。


「およびでございますか、閣下。」

「ああ、エーベル中佐。そこに座ってくれ。」

「はっ、失礼いたし……いや、あの、閣下、私は中佐ではありませんよ。」

「いや、本日付で中佐に昇進だ、エーベル艦長。それを伝えるために、貴官を呼んだのだ。」

「ええっ!?昇進?なんだってまたそんな急に!?」

「先日の海賊団退治の功を受けて、ようやく昇進が決まったのだ。別に不思議でもあるまい。明日にでも正式に辞令が届く。」

「は、はあ……ありがとうございます。」


 海賊退治で昇進が決まっていたのは事実である。だが、朝のうちに私が司令部内に働きかけてそれを前出ししてもらった。それで辞令も来ないうちに昇進だけが先に決まったのだ。

 アンリ王子に話すにしても、ただの艦長というよりは、華々しい武功をたて昇進した男といったほうが心象が良くなる。そこでエーベル艦長を大急ぎで中佐にしたのだ。

 続いて、私はリザのもたらした情報をアンリ王子に話すため、王宮へと出向いた。


「うむ……そうであったか。准将殿の艦隊の艦長であったとは……」

「はっ。ですがこの男、先日この辺りに出没した大規模な海賊団を見抜き、捕縛するのに貢献しているのですよ。」

「そういえば先日、20隻もの連盟側から侵入した不届きな海賊が、准将殿の艦隊に捕まったと聞いたな。だがその艦長が何をしたのだ?」

「2000隻の民間船の中から、怪しい海賊船団を即座に見抜いたのです。危うく貴重な交易品をかすめ盗られてしまうところでしたが、彼の活躍により未遂に終わったのです。」

「そ、そうなのか、2000隻の船から海賊船を……そんなにすごい男なのか?」

地球(アース)294でも、海賊殺し(パイレーツスレイヤー)の異名を持つほどの男。彼がいるというだけで、海賊が近寄らぬほどの影響力を持っております。アンリ様の抱えておられるいくつかの公益事業も安泰でございましょう。このような有能な男ゆえ、彼は30手前ですでに中佐にまで昇進を果たしております。将来は艦隊司令も、夢ではないかもしれませんね。」

「そ、そうなのか!?うーん……」


 やや大げさに話しているが、私は嘘はひとつもついていない。私の話を聞いたアンリ王子は、しばらく考えるとこう応えた。


「なあ、准将殿。コレットとその男を結びつけることはできぬものか?」


 来た。さすがは王族だ。有能な指揮官と聞いて、放ってはおけなくなった。やはり貴族や王族を動かすのは、武勲や利益、そして将来性といった現実をちらつかせる方が有効だ。


 こうして翌日、私はエーベル艦長を伴って王宮へと向かう。黒の送迎車に乗り、突然王宮へと向かうことになったエーベル艦長。彼には王族からの呼び出しだとしか伝えていないので、これから何が起こるのか、彼はまだ知らない。


「おお、来たな。准将殿、こっちだ!」


 王宮のロビーでアンリ王子の出迎えを受ける。この王子の顔を見て、おそらく何かを察したのだろう。少し顔がこわばるエーベル艦長。

 そんな彼に構わず、私は彼を引き連れてアンリ王子の元に向かう。


「こちらがエーベル中佐です、アンリ様。」

「おお、こちらがその准将殿が申しておった男じゃな!」

「はっ!エーベル中佐であります!本日は王宮にお招きいただき……」

「堅苦しい挨拶は無しだ。ところで、実はなエーベル中佐殿。わしとしては、オルバーニュ軍港の有力な人物とよしみを結ぶ必要があると感じておってな、それで准将殿にお願いして良い人物を推薦してもらおうと相談をしたのだ。」

「は、はあ……」

「独身で、将来有望な人物をと頼んだら、准将殿よりそなたを勧められてな。」

「さ、左様でございますか。ですが私は一介の艦長にすぎませぬが。」

「いやいや、あの海賊団をやっつけたというではないか。ようやく軌道に乗り始めた宇宙交易を、危うく台無しにされるところであった。この王国、いやこの星にとっても、そなたの功績は大きなものであるぞ。」

「はい、ありがとうございます。」

「そこでじゃ、そなたに我が娘をもらっていただきたい!」

「……は?」


 よしみを結ぶイコール政略結婚というこの星では、こういう流れはごく普通のこと。相手の男性の意思を確認する間も無く、ずけずけと結婚相手を決めてしまうやり方は、私もすでに経験済みだ。


「あの、アンリ様……」

「おい!コレット!参れ!」


 ここでアンリ王子が、エーベル艦長もよく知っている娘の名を呼ぶ。それを聞いたエーベル艦長は、まるで雷にでも打たれたかのように硬直する。


「はい、なんでございま……」


 一方のコレット嬢も、いるはずのない男を目の前にして動揺する。どうしてここにエーベル艦長がいるのか?唖然とするコレット嬢に構わず、アンリ王子はコレット嬢に言い渡す。


「エーベル中佐殿とよしみを結ぶことにした。コレットよ、エーベル中佐殿の元に嫁げ。」

「えっ!?あ、はい……お、仰せのままに……」


 何が起きたのか、よくわからない状況で突然結婚するよう言い渡されるコレット嬢。アンリ王子は2人を椅子に座らせる。


「少し頼りない娘ではあるが、わしの自慢の娘であるぞ。ぜひ大事にしてやってくれ。」

「は、はい!アンリ様!私のようなものに、このような華麗なお方をお引き合わせいただけるとは……」

「私も、エーベル様とご一緒できることになろうとは思いもよりませんでした。」

「なんじゃ?そなたら、知り合いか?」

「い、いえ!以前、オルバーニュ司令部でお目にかけただけでございます!知り合いなどとは……」


 このじじいめ、裏事情を承知の上で、あえて知らぬふりをしているな。

 アンリ王子はこの一件をあくまでも政略結婚であり、娘の希望を叶えたとは認めたくないらしい。まあ、王族の維持というやつか。それでも結果的に娘の希望を叶えてあげたようなものだから、結果オーライだろう。


 ゴーレムに襲われて、思わずジャンヌを抱きしめてしまったことが、巡り巡ってコレット嬢とエーベル艦長を結びつける結果となってしまった。こんな突拍子も無い話、他人にしたらきっと馬鹿だと思うに違いない。

 まったくもって、この星は非常識だ。どこでどういう事態に陥るか、分かったものではない。

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