#30 ワームホール専門家と魔女
私がワームホール発生の件で調査を依頼したら、地球001からワームホールの一級の研究者が派遣されることになった。
その研究者は今、地球760に住んでいるらしい。今この地球813へと向かっている。ともかく、一級の研究者がこの謎の解明に手を貸してくれることになった。
そしてその研究者がもうすぐ到着する。
その研究員を出迎えるため、私とジャンヌが王都宇宙港のロビーで待っていた。
「へぇ~、地球001の方ですか。ところでその星、特別な星なんですか?」
「そうだ。特別なんてものじゃない。我々が使っている最先端の技術は、ほとんどその地球001からもたらされたと言ってもいいくらい、宇宙一先進的な星だ。その星で第一級の専門家と言われる人物がいらっしゃる。つまり、この宇宙でも相当な人物だということだ。粗相のないようにな。」
「はい、承知いたしました。でも、こんなモンスターだらけの星にわざわざお越し頂けるなんて、とても名誉なことでございますね。」
「……モンスターだらけの、どこが名誉なことなんだ?」
「名誉なことではありませんか!つまり宇宙でも珍しくて訪れ甲斐のある星だと、宇宙一の研究者の方が認めてくださったということなんですよね!大変喜ばしいことですよ!」
いや、あまり喜ばしいことではないぞ。要するに、地球001も認める偏屈な星ということだからな。できることなら、普通の星である方がよっぽどかマシだ。
そんなことはともかく、その研究者の到着を夫婦揃って待っていた。
窓の外を見ると、一隻の民間船が降りてきた。宇宙港内のアナウンスが、地球760からの特別便が到着したことを告げる。どうやら、到着したようだ。
「ジャンヌ、やっと着いたようだ。いくぞ。」
「はい、エルンスト様。」
私とジャンヌは、ロビーの奥にある通関口へと向かう。通関口の前で、その研究者の到着を待つ私とジャンヌ。
ところで、その研究者は女性だという。すでに2人の家族がおり、他に参考人として2人連れてくると聞いている。その参考人2人のというのがよくわからないが……ともかく、全部で5人到着されるということだ。
しばらくして、通関口の向こう側から3人の人物が現れる。どうやら夫婦と、子供が1人のようだ。
その3人のうち、女性の方が我々に気づいて歩み寄ってくる。私は彼女に尋ねる。
「失礼ですが、地球760よりお越しいただいた、リョウコ研究員殿でいらっしゃいますか?」
彼女はにこりと微笑み、応える。
「ええ、そうよ。あなたがエルンスト准将さん?」
「はっ。地球294遠征艦隊所属の第9小隊の司令官をしております。」
「ふーん、そうなの。そういえば確かあなた、この星で男爵もしてらっしゃるのよね。なんだかあっちの星にいるある中将みたいね。」
そういうと突然、リョウコ研究員は私に迫る。近い、心臓の鼓動、息遣いが伝わるほど、顔を近づけるリョウコ研究員。
「でも、あっちの閣下より、こっちの閣下の方が若くて元気そうよね……惚れちゃいそうだわ。」
「あ、あの!リョウコ研究員殿!?」
「ちょっと、エルンスト様に、何をなさるのですか!?」
私とジャンヌは焦る。すると、男の方が声をかける。
「おいリョウコ。頼むから私の前で閣下をからかうのはやめてくれ。閣下も迷惑しているぞ。」
「あらデリックったら、まさか妬いてるの?」
「美人の妻が目の前で浮気していて、妬かないと思うのかい?」
「まあ、ごめんなさいね、デリック。でも大丈夫よ、この136億光年の広大な宇宙で、あなたは唯一好きな男性だから。」
「ははは、そうかい。そういうことにしておくか。」
なんだこのリョウコ研究員という人物は?私が抱いていたイメージとはかなり違う人だぞ。
「失礼しました。私は地球760防衛艦隊で駆逐艦の艦長をしております、デリック少佐と申します。」
男性の方から敬礼される。私は返礼で応える。
「ようこそ地球813へ、遠路はるばる、ご苦労様です。」
旦那さんの方はまだまともそうだ。武官だと聞いているが、今回は彼を含めて来賓待遇だ。
「ねぇ、ママ。早く行こうよ。」
「あら、エリック。ちょっと待っててね。あと2人来るから。」
「えーっ!?お腹すいたーっ!」
3、4歳ほどの子供が駄々をこね始める。するとジャンヌが、その子供に話しかける。
「あら坊や、お腹空いたの?私と何か食べに行こうか。。何が食べたい?」
「スライム!」
「あー、スライムは食べられないなー……でもスライムみたいなのはあるわよ。」
「じゃあ、それでいい!」
エリックという子供は、ひと足先にジャンヌと共にロビーの売店へと向かった。リョウコ研究員が私に尋ねる。
「ねえ、彼女、誰なの?」
「はい、私の妻ですよ。」
「そういえば准将さんの奥さんって、確か女騎士だって聞いたわよ?でも、あれが女騎士?何であんなに普通に美人なのかしら……信じられないわ。」
随分と失礼な研究員だな。モンスター研究所にいるバルドゥル研究員もそうだが、研究者というものは皆、非常識なのだろうか?
「あ、来たわ。トオルにクレア!こっちよ、こっち!」
「ああ、リョウコさん、すいません、お待たせっす!ちょっと通関口で手間取ったもんで……」
残りの2人も現れた。あれが参考人……見たところ、研究員というわけでもなさそうだ。なんのために連れてきたのか?私は尋ねる。
「リョウコ研究員殿、こちらは?」
「ああ、こいつは今回、役に立ちそうなので連れてきたの。」
「トオルって言います!なんか異世界っぽいところに連れてきてくれるっつうんで、頑張ってついてきたっす!」
なんだかチャラい印象の男だな。なんだってこんな男を連れてきたんだ?
「うふふ……どうしてこいつを連れてきたのか、不思議に思ってるんでしょう。実はこの男ね、ある特殊な2つの能力を持った宇宙唯一の男なのよ。」
「2つの能力?何ですか、それは。」
「そうね、一つ目は口で言うより、見せた方が分かりやすいわね。」
そういうとリョウコ研究員は、カバンから何かを取り出した。
「なんですか、それは?」
「これは携帯式の小型ワームホール検出器よ。最近作ったの。」
「ワームホール検出器?」
「ワームホールが近くで発生すると、反応するのよ。まあ、見ててちょうだい。」
そういうとリョウコ研究員は、また何かをカバンから取り出す。
「トオル!」
トオルというあの男を呼びつける。男は振り向く。
「なんすか、リョウコさん……」
次の瞬間、なんとそのリョウコ研究員はトオル殿の頭に、銃を突きつけた。
「うわっ!りょ、リョウコさん!?」
引き金を引くリョウコ研究員、次の瞬間、その銃から音と光が出る。
バンッ!
続いて、あのワームホール検出器からも音が鳴る。
ポーン!
トオル殿の方を見ると、彼はかなり引きつった顔をしたものの、無事のようだ。どうやらあの銃は、ただの音と光を出すだけのフェイクだったようだ。
「あははっ!久々にいいワームホールが出たわね!いいわよぉ、トオル!」
「い、いきなり何をするんすか!?」
「いやねぇ、この人にトオルの能力を見せてあげたかっただけなのよ。」
私はその光景を見て唖然とする。何が起こったのだ?
「このトオルはね、この通り感情が高ぶるとワームホールを発生させることができるの。すごいでしょう。今のところ、ワームホールを作り出せる宇宙で唯一の男よ。」
「は?ワームホールを作り出せる人物?それはどういう……」
「彼の頭部から発するある物質によって、それが可能になっているのよ。あなたも聞いたことあるでしょう、連合側に存在するという、ワームホール帯発生装置のこと。あれは彼を研究した結果、生まれたものなのよ。」
なんと、彼はワームホールを作り出せる男なのだという。そんな人間が、この宇宙に存在したのか?そして我々には秘匿されている、ワームホール帯発生装置の秘密の一部を私は知ることになる。
「……リョウコ研究員殿、ではもう一つの能力というのは、なんですか?」
「あら、ワームホール発生できる人間だというだけで驚きなのに、もう次を聞いちゃうの?あなた案外、せっかちねぇ。」
「武官である以上、現実は即座に受け入れ対処するものです。驚いている暇などありませんよ。」
「うふふ、ますますあの中将とそっくりね、あなた。いいわよ、お・し・え・て・あ・げ・る!」
いちいち調子の狂う研究員だ。これならまだ、バルドゥル研究員の方がマシかもしれないな。
「彼はね、ワームホールを感じることができるのよ。」
「ワームホールを感じる……?どういうことです?」
「そのままよ。ワームホールが近くにあるとね、寒気を感じるのよ。」
「そうなんすよ、俺、ワームホールに寒気を感じちゃうんすよ。おかげでこの宇宙の旅で、何度ゾクゾクとさせられたことか。夜中にワープされた時は寒気で叩き起こされて、大変だったんすよ。」
ワームホールを作るだけではなく、感じることも可能だというこのトオルという人物。そんな人物が地球760にいたというのか。
「そうそう、トオルはね、他にも変わったところがあるのよ。」
「これ以上、変わったことがあるというのですか?」
「うふふ、これくらいで驚いていたらだ・め・よ!この男はね、432年と3200光年という時空を跳躍して来た男なの。」
「は?432年と3200光年!?どういうことです!?」
先の2つでは動揺しなかった私だが、さすがにこの事実には驚いた。432年と3200光年を跳躍だと?
「そのまんまよ。数年前に、432年前の地球001から、3200光年離れた地球760に突然出現したのよ。」
「そうなんすよ。その時は俺、てっきり異世界に来たんだと思ってたんすけどね。」
もう何が何だか分からなくなってきた。432年と3200光年を跳躍した男が、ワームホールを作ったり感じたりできるという。いくらなんでも無茶苦茶な男すぎやしないか?
「ねえねえ、トオル。そろそろお腹空かない?」
ところで、さっきからこのトオルの横にいる、背丈はリザくらいの小さな女性。どうやらこのトオルという男の奥さんのようだが、さっきからの一連の出来事にまったく動じることなく、平然とトオルに話しかけている。
「そうっすね、クレア。やっと地上についたことだし、なんか食うっすか?」
「食べる!私、スライム食べたい!」
一体ここはどういう星だと伝わっているのだろうか。いくらこの星でも、スライムは食べられない。
「そうそう、言い忘れたわ。このトオルの奥さんのクレア、とても大食いよ。滞在期間中、たっぷりと食べさせてあげてちょうだいね。」
「そうなのですか?とても小さな方なので、あまりそうは思えませんけど……」
「ちなみに彼女ね、地球760でもちょっと有名な魔女なのよ。よく食べるけど、その分とんでもない力を持ってるのよ。」
「は!?ま、魔女!?彼女が!?」
突然、思わぬキーワードが飛び出した。なんと彼女は、魔女だという。
「地球760は魔女の住む星だと聞いてますが……つまり彼女は、空を飛べるのですか?」
「いいえ、彼女は空を飛べない二等魔女なの。でもね、とてつもない二等魔女よ。まあ、おいおいその力を見ることになるわ。楽しみにしてらっしゃい。」
「は、はあ……」
からかい好きの研究員、ワームホールを作る男、そして魔女。この星も大概非常識ではあるが、この来賓も非常識すぎやしないか?
その来賓を連れて、宇宙港にあるレストランに連れて行く。
そこであのクレアという女性、信じられないほど大量の注文をしている。
すでに6人前の定食を注文している。いくらなんでもリザくらいの大きさの女性で、そんなに入るものなのか?
だが、そんな懸念は一気に吹き飛ぶ。食事が始まるとこのクレア、ばくばくとその料理を食べ始める。
「ん~んまいでふ~!」
こう言ってはなんだが、さほど質の良いレストランというわけではない。が、本当に美味しそうに食べる。その様子を、唖然として見る私とジャンヌ。
「はぁ~……この人、なんだか美味しそうに食べますねぇ。私もつられて食べ過ぎちゃいそうです。」
「えっ!?美味しいですよ、ここの料理。あ、トオル、その野菜、もらってもいい?」
「いいっすよ。」
「じゃあ、もらうね。よいしょっと……」
6人前の定食だけでなく、夫の料理まで手を出している。どんだけ食べるんだ、この魔女は。
てっきり魔女は大食いなのかというと、そういうわけではない。どうやら彼女が特別らしい。
だが彼女は空を飛ばない魔女。その話だけ聞くと、正直あまりすごい気がしない。どこがとてつもない魔女だというのか?数万人もの魔女が住むと言われる地球760の中でも、クレアというこの空を飛べない魔女はよく知られた魔女だということだ。ますます気になる。
食事を終えて、我々は宇宙港の建物を出る。すっかり日が暮れて、あたりは暗くなってきた。
「モンスターだらけの異世界だと聞いてたんすけど、なんか普通っすね。ここにモンスターは本当にいるんすか?」
「もちろんいますよ。王都をちょっと外に出ると、コボルトやらスライムやらがうじゃうじゃしているから、油断してると死にますね。」
「うわっ!本当っすか!?いやあ、本当にここは異世界なんすね!てことは、エルフとかゴブリンとか、オーガなんかもいるんすか?」
「もちろんいますよ~、うちの居候にエルフとゴブリンがいるのよ。明日、会わせてあげましょうか?」
「ぜひお願いしやす!いやあ~っ、これっすよ、これ!やっぱ異世界にはエルフにゴブリン!そしてスライムにコボルト!いやあ、寒気に耐えてここまで来た甲斐があったっすねぇ!」
モンスターや亜人の存在を聞いて喜ぶトオルという男。変わり種の種族と化け物に出会うことがどうしてそんなに嬉しいのかよく分からない。だいたいここは、異世界などではない。現実の世界だ。
だが、本当に異世界らしきところとつながって突然モンスターが現れる事象が起きている。彼らはその謎を解明するために来てもらった客人だ。このおかしな状況をどうにか改善したくて呼んだというのに、その状況を喜んでいるとは……やや、不安を覚えずにはいられない。
それはともかく、この客人たちをホテルへと案内する。軍が手配したマイクロバスが、宇宙港のロータリーにやってくる。
「エルンスト閣下!お迎えにあがりました!」
「ご苦労。」
司令部付の下士官が敬礼して出迎える。私は客人5人を送迎車に乗せ、ホテルへと送った。
「明日はモンスター研究所に参ります。朝9時にお迎えにあがりますので、ホテルのロビーにてお待ちください。」
下士官が彼らに明日の予定を伝えて、その場は別れる。
さて、翌日。私はジャンヌと居候3人を連れて、送迎車に乗ってホテルへと向かう。ロビーで客人に会うや否や、突然マリーは大歓迎を受ける。
「うわぁ!耳長っすよ、耳長!本物のエルフっすよ!」
「トオルトオル!私にも触らせて!」
「あだだ、痛いだよ!なんだね、あんたらは!?」
マリーの耳が面白いようで、トオルとクレアの2人がその耳を触りまくっている。それを嫌がるうちのエルフ。
「ふうん、ゴブリンって本当に緑色の皮膚なのね。面白いわぁ。」
「そうかね?おら、普通のゴブリンで……あだだ、痛いでげすよ!」
一方のリョウコ研究員は、ゴブリンのクララにべったりだ。緑色の皮膚がよほど気に入ったらしく、さっきからペチペチと触っている。
「ところでリザさん、女騎士ってことは『くっころ!』とかいうんですか?」
「はあ!?なんですか、くっころって!?」
リザに意味不明なことを問うトオル。430年前の言葉のようだが、意味が分からない。
「で、次はいよいよモンスターよね!どんなのがいるの!?こう、なんていうか、凶悪なやつを頼むわよ!」
動物園に行くわけではない。あくまでもモンスター研究所だ。リョウコ研究員め、何を期待しているのか?
5人の客人と私とジャンヌ、それに3人の居候はマイクロバスに乗り込み、モンスター研究所へと出発する。バスの中でも相変わらず、うちの3人の居候は客人にいじられっぱなしだ。よほどこの3人が珍しいようだ。
オルバーニュ軍港からほど近いところに、モンスター研究所はある。研究所に到着すると、あのイカれた研究員が出迎えてくれる。
「オゥヤーッ!来たね、魔女の星からの客人が!待ってたYO!ユーが魔女なのかYO?」
こちらもズレた期待をして待っていたようだ。リョウコ研究員を指差して、魔女呼ばわりしている。
「あらあなた、よくご存知ねぇ。そうよ、魔女の星から来た、魔性の研究員、リョウコよぉ。」
「アハッ!魔性と来たね!オーケーオーケー!この研究所は、悪魔もアンデッドも大歓迎だYO!」
イカれたもの同士、この2人は気があうのだろうか?出会うや否や、意気投合している様子だ。
「なんだねぇ、客人だべか?」
バルドゥル研究員の奥さんである、エルフのコリーヌさんが現れた。それを見たトオルとクレアは、再びエルフいじりを始める。
「トオルトオル!ここにもいたよ、エルフ!耳長いねぇ!」
「うわぁ、さすがは異世界っすね!こんなに簡単にエルフに会えるなんて!」
「ななななにするだね!わだすの耳、そんなに勢いよく触られたら……いでで!」
こっちのエルフも、早速あの2人の餌食になってしまった。
「この2人、なんでかわだすの耳も触ってきただべよ。なんぞ面白いんかねぇ?」
「なんでぇ、あんだも触られただか。触っだって、別に長いだけの普通の耳なんだけんどもね!」
そういえば私は、この2人が会話するところを初めて見たな。すでに2人は何度か会っているようだ。追い出されたエルフ同士、話が合うらしい。
研究所に入り、早速数々のモンスターを見学する。無害のスライム、人馴れしたコボルト、職員兼研究対象であるゴブリン達。
「うわぁ!これよこれ!この馬鹿みたいな化け物が見たかったのよぉ!感激だわ!」
「オゥーヤー!このクラーケンは見ものだYO!他の星じゃ、こんなでかいイカはナッシング!じっくりと見ていくYO!」
「はあ……さっきのスライムといい、コボルトといい、本当にモンスターだらけなんだな、この星は……」
そしてリョウコ研究員とデリック少佐、それに子供のエリック君は、3人であの大型水槽を泳ぐ全長20メートルものイカの化け物のところにたどり着いた。
当然、あのゴーストの檻も見学する。どこで捕まえたのか、仲間のゴーストが増えたようで、今は2人住んでるらしい。
ゴーストが2人いると、コミュニケーションをとることができるか?そんなテーマで観察しているらしい。一体その研究にどういう意味があるのか分からないが。
「だけどYO!ゴースト2人には狭くてYO!可哀想だから、新しい住処を作ったのYO!」
「そうなのか?だが相手はゴーストだぞ、そんな気を使う相手なのか!?」
「ノーノー、最近ゴーストもミーを仲間だと思ってくれてるのYO!飼っていると、可愛くなるものYO!」
……そういうものか?私は一生、こいつを愛おしいと思える日は来ないと思っているが。
「でも、困ったのYO!せっかく新しいあたらしい住処作ったのにYO!持ち込めないんだYO!」
「は?なぜだ、この部屋は十分広いじゃないか。そんなに大きいものなのか?」
「ノーノー!そんなことないYO!だけど、クレーンが入らないんだYO!」
「なぜだ?」
「出入り口が小さすぎるんだYO!おかげでクレーンが入んないんだYO!重さが10トンあるから、フォークリフトも使えないんだYO!」
なんて初歩的なミスを犯しているのか。搬入のことを考えていなかったのか?
「なら、バラして入れるしかないんじゃないのか?」
「黒水晶の液体を入れた容器だYO?バラせるわけナッシング!」
「じゃあどうするんだ?その重さ10トンの特別製の檻を使わずじまいにする気なのか?」
「うーん、だから困ってるんだYO……」
そんな会話をしていると、あのクレアという魔女が話しかけてくる。
「あの、私運びましょうか?」
私は一瞬、耳を疑った。彼女はなにを言っているんだ?
「ええと、重さ10キロじゃないですよ、10トンですよ10トン!いくらなんでも無理でしょう。」
「それくらいならいけますよ。」
「そうっすよ、クレアならぜんぜん大丈夫っすよ。」
夫婦揃ってとんでもないことを言っている。
「いや、重さだけじゃない、ここにあるこの檻よりも大きいんだぞ!?どうやって持ち上げるんだ?」
「なんとかなりますって。どこにあるんです、そのゴーストさんの新しい住処っていうのは?」
「オゥッ!マジですか!?このドアを出てそばのガーデンにおいてあるYO!」
「わかりました。ご飯もたくさんいただいたことだし、それくらいのことはやりますよ。じゃあ、行きましょうか。」
この小さな魔女は、すたすたと庭に向かって歩き出す。
「なにが始まるのかしら?本物の魔女って、私見るのは初めて!」
ジャンヌはウキウキしながらついていく。私もジャンヌの後ろをついていく。庭に出ると、真っ黒で四角いものが置かれている。
2メートル四方の立方体がボンと置かれている。確かにこれは見るからに重い物体だとわかる。
その黒い箱に向かってスタスタと歩くクレア。彼女はその真っ黒な箱に右手をつけている。
「じゃあ、行きますよ。」
そう掛け声をかけるクレア。彼女は何をするつもりだ?
次の瞬間、私の目の前で、信じられないことが起きる。
重さ10トンあるという黒い箱が、空中に浮かびあがった。
まるで風船のように、ひょいっと浮かび上がるその黒い箱。だがそれは、紛れもなくあの液化した黒水晶が多量に封じ込められた容器。液体の量だけでも、軽く数トンはあると思われる。
そんなものが、いとも簡単に浮かび上がった。
私は、この魔女の力を目の当たりにした。
確かにこの魔女、とてつもない力を持っている。
「どお?だから言ったでしょ?とんでもない力を持った魔女だって。」
いや、そんなこと言われても、物理的にとんでもない力を持っているとは考えてもいなかった。せいぜい人一人を動かせるとか、その程度だと思っていた。
「これをあの部屋に持っていけばいいんですね?」
「オォーッ!イェッス!インクレディブル!すごいパワーだYO!オーケーオーケー!そのままあの部屋に運んでプリーズ!」
モンスター慣れしているバルドゥル研究員ですら、この凄まじい力を見て興奮している。
「クレアのやつ、かつて50トンくらいまで持ち上げたことがあるんすよ。10トンなんて、軽いもんですよ。」
「は?50トン!?ちょっと待て、50トンなんてそこらの重機よりもすごい運搬能力じゃないか!本当なのか、それは!?」
「今から3年くらい前にやった魔女競技会で出した記録っすよ。映像も残ってるから間違いないっす。会場にあった重りが50トンまでしかなかったんで打ち止めになっちゃいましたけど、実際にどこまで持ち上げられるかは結局わかんないんすよ。」
「いや、そりゃ普通50トン以上を持ち上げられる生身の人間なんて考えられないだろう……」
「まあ、何トンでもいいっすよ。この通りクレアのやつ、結構役に立つんすよ。」
飄々と語るトオル。だが、落ち着いて語ってる場合ではない。
以前から、地球760に魔女がいるとは聞いていた。しかし、あの星には空を飛ぶ魔女、または人の重さ以下のものを浮かせる能力の魔女の2種類が存在する、そう伝えられていた。
だが、こういう魔女がいるとは聞いてはいなかった。空を飛ばない魔女と聞いて、大したことはない。そういう思いがあったのは事実だ。
しかし、重さ10トンの物体が持ち上がるのを目撃した。紛れもなく彼女は、とんでもない魔女だ。
この桁違いの力を持つ魔女を目の前にして、私は確信した。
地球813なんて、せいぜいスライムやコボルト、それにオークが闊歩する世界、10トンを持ち上げる魔女に比べたら大したことはない。
地球760の方が、とんでもない星だ。




