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#2 跳ね馬騎士 ジャンヌ

 艦隊戦に勝利し、ようやくたどり着いた我が家でキラリと輝く鋭い剣先を突きつけられる私。


「あ……」


 その私の存在に気づいた妻、ジャンヌ。寝間着姿の彼女の手には、とてもこれから寝る者とは思えないものを手にしていた。


「……ただいま、ジャンヌ。」

「あ、おかえりなさいませ、エルンスト様。」


 そそくさと剣を鞘に収める我が妻。部屋の端に剣を置き、何事もなかったかのように和やかに、清楚に振る舞う。


「随分とお早いおかえりでしたね。あの宇宙港から馬でも半刻はかかるので、もうしばらくかかるかなぁと思っておりましたが。」

「ああ、司令部が送迎車を用意してくれたんだ。おかげで宇宙港から10分で帰れるようになったんだよ。」

「さ、左様でございますか。いや、早く帰れるのは良いことでございますね。」


 私の上着を受け取り、ハンガーにかけながら話す妻、ジャンヌ。


「……で、また剣術の訓練を、部屋の中でやってたのか?」


 彼女は肩をピクッとさせて、動きが止まる。少し悲壮な顔をして、恐る恐るこちらへ振り向く妻ジャンヌ。


「い、いやあ、エルンスト様のおかえりを待っていたらですね、急に眠くなって参りまして……それで、目醒めの運動にと思ってですねぇ、ちょっとレイピアを取り出しまして……」


 剣を振って、目が醒めるわけがないだろう。相変わらず、言い訳下手な妻だ。


「ジャンヌ。剣術を訓練するのはいいが、室内で真剣を使うなと言っているだろう……壁や家具に傷がついたら、どうするんだ?何よりも、ジャンヌが怪我をしたら、大変なことになるぞ。」


 そういいながら、私は冷蔵庫に買ってきたビッグプリンを入れた。そして、申し訳なさそうにいそいそと私の軍服を片付ける妻の背後に迫った。


 そして私は突然、背後からジャンヌに襲いかかる。


「おりゃ!」

「な、何をなさいます!?女子(おなご)の背後を取るとは、なんと卑怯な!」

「手練れの剣士相手に、正面から挑むなど愚策!戦略家なれば、相手の弱いところを突くのが当然!約束違反の報い、受けるがいい!」

「きゃー!助けてぇー!」


 などと悲鳴をあげているが、これはこれで彼女は内心喜んでいる。こういう激しいプレイが大好きな妻だ。そのまま私は、その隣にある寝室のベッドに妻を押し倒した。


 ……とまあ、そのままベッドでひと暴れする。力尽きた私。ところがジャンヌさんはといえば、ムクッと起き出して鼻歌を歌いながら隣の部屋に戻っていく。


「ふんふふん、ふんふん……」

「あ、あれ、ジャンヌ?どこいくの?」


 私もジャンヌについていく。見ると、冷蔵庫から先ほど買ってきたばかりのビッグプリンを出している。


「あの、ジャンヌさん?まさかそれ……」

「ええ、食べるんですよ。せっかくですから、新鮮なうちにいただこうかなと思いまして。」

「いや、プリンに新鮮もなにもないと思うが。」

「うわあ、これ本当に美味しそう!いただきまーす!」


 ベッドで一汗掻いたら、今度は植木鉢大のプリンを取り出す我が妻。我が家で一番大きなスプーンを使い、もしゃもしゃとプリンを食べ始めた。


「ん~おいひぃ~!」


 これが我が妻、ジャンヌだ。年齢は21歳。我々は3か月前に、夫婦になったばかりだ。


 今から3か月ほど前のこと、我々、地球(アース)294政府とオラーフ王国との間に、同盟が成立した。私はその同盟成立式典に、軍の代表の1人として参加する。

 この式典の後に突然、国王陛下から呼ばれる。そして陛下は横にいた公爵に、何かを手渡す。


 その公爵が、陛下より受け取った巻物を広げ、私にこう言った。


「エルンスト男爵殿よ!陛下からの有難い贈り物である!貴殿に、ブリエンヌ男爵が娘、ジャンヌを賜る!」


 えっ!?娘を賜る!?この時、私はこの公爵が何を言っているのか、理解できなかった。


 が、そこに現れたのが、ピンク色のワンピースドレスを着た、壮麗な姿のジャンヌだった。ジャンヌは私の前にひざまづき、私の右手をとってキスをし、こう宣言する。


「私、ジャンヌは、これよりエルンスト様の妻となること、お誓い申し上げます。」


 何の予告もなく、突然私はジャンヌと婚姻することになった。どうやら、この地球(アース)294の若き英雄が独身だと聞いて、わざわざ同盟成立式典に合わせて準備してくださったようだ。


 しかも、王都内の貴族の住宅街の一角に屋敷まで用意してくれた。こうして私は、この星で妻と住居を手に入れた。


 ジャンヌは、このオラーフ王国のとある男爵家の娘だ。

 ちなみに、私も地球(アース)294の男爵家の次男だ。といっても我が星では、形ばかりの貴族。しかも私は次男ゆえに家を継ぐことはできず、軍大学へと進み、遠征艦隊に配属された身だ。だが、そういう経緯もあって、私はここでも男爵として扱われている。だから、ジャンヌは男爵から男爵に嫁いだ女性ということになっている。


 私も初めは、美人で可愛い奥さんをもらってしまったと、半分誇りに思い、半分戸惑っていたのだが、この2つの思いはものの1か月で消滅する。


 というのもこの妻、実はとんでもないじゃじゃ馬娘だった。


 先ほどの通り、室内でも平気で剣は振るうし、騎士の詰め所には通うし、よく遊び、よく食べ、よく寝る。やりたいようにやるし、思いついたらすぐに行動する。そういう女性だ。

 艦内でベルトルト大尉が我が妻を「おしとやかで壮麗」と評していたが、これのどこが「おしとやか」だろうか?

 まあ、おかげでこっちも遠慮がなくなった。気楽に付き合える妻として、むしろ私は喜んでいる。


 ところでジャンヌは、この王国のある騎士団の団長も務めている。


 よくあるセレモニー向けの、見栄えの良い女性ばかりを集めた形だけ騎士団ではない。ガチの戦闘集団の団長だ。部下はもちろん、男ばかり。11ある騎士団のうち、跳馬(ギャルソンヌ)騎士団と呼ばれる騎士団の団長を務めている。


 まさに跳ね馬娘が団長を務めるのにふさわしい騎士団だ。これを聞いた時から、私の中でジャンヌは「跳馬(ギャルソンヌ)娘」となった。


 この騎士団は、この王都周辺にたむろするモンスター掃討し、王都の安泰を図るのが目的の騎士団。モンスターを相手に剣を振るうイカれた娘が団長ということで「ギャルソンヌ」つまり「おてんば」の騎士団と呼ばれていたのだが、それじゃあ由緒ある騎士団らしくないということで、跳ね馬の紋章を与えられた、ということらしい。だが、そういう経緯もあって「跳馬(ギャルソンヌ)騎士団」と呼ばれている。


 つまり我が妻は、モンスター相手に戦っている集団の(おさ)ということになる。なんという妻だ。


 それにしても陛下は、なんだってこんな武闘派を私の奥さんにしようなどと考えたのだろうか?


 それはどうやら、私が駆逐艦でドッグファイトを行う特殊な小艦隊の司令官であることが原因のようだ。王都の宮殿をも凌ぐ大きさの駆逐艦を、300隻も従え宇宙を駆け巡る若き司令官。それを聞いて、陛下は私を相当な武闘派だと思われたらしい。だから武闘派の妻がお似合いだろうと、わざわざ気を回してくれたようだ。


 ……とまあ、そういう過程を経て、ジャンヌは今この屋敷で、宇宙港で買ってきたばかりのビッグプリンをもしゃもしゃと食べている。


「ん~!美味しかった~!ねえ、エルンスト様、また買いに行きましょうね、このプリン!」

「ああ、そうだな。」

「やったぁ!じゃあ、エルンスト様、もう夜も遅いですし、寝ましょうか。」

「寝ましょうって……ちょっと、たった今、食べたばかりですぐ寝るの!?」

「いや、だって、食べたら眠くなりますし……」


 あくびをして、うとうとし始めるジャンヌ。ほんと、可愛いのか激しいのか、動きが全く読めない妻だ。

 大あくびをしながら、私に肩を抱えられながらベッドに向かうジャンヌ。


「ふあああ……ね、眠い……ね、ねてしま……グー……」


 ベッドに着くや、そのままパタンと行き倒れるように寝てしまった。


 すやすやと寝息を立てて眠る我が妻ジャンヌ。自由奔放、どこに住もうが、誰と結婚しようが、生きたいように生き、やりたいようにやる。それがジャンヌだ。


 私もそのまま、我が妻の横で眠る。軍からは、明日より4日間の特別休暇をいただいている。この休日は、暴虐無人な……いや、可愛い妻にでも付き合うか。


 だが、私がそう思おうと思うまいと、構わずこの妻は行動を起こす。


「あなたー、ご主人さまー、エルンストさまー!朝ですよぉー!」


 夜が明けると同時に目覚めるこの元気のいい妻。私の眠気など、御構い無しだ。


 バンバンと私はベッドの上で叩かれる。目を開けると、目の前には満面の笑みのジャンヌがいる。


 可愛らしい顔だが、胸元だけを鉄板で覆うチェーンメイルを着て、腰には昨日の夜に振り回していたレイピアを身につける。腰にはもう一本、接近戦用に短剣(ダガー)を装備している。すでに何かを殺る気満々だ。


「ええと……ジャンヌさん?その格好は何ですか?」

「決まってるじゃないですか!今日はこれから、モンスターを殺りに行くんですよ!」


 休暇の初日にベッドの上で、新婚の奥さんが放つ言葉ではない。まるでピクニックに行く感覚で、彼女はモンスター退治に行く。とはいえ、こういうのに付き合うのはもう慣れた。私も起きて、アウトドア用の服に着替える。


 私は軍人だ。だから、それなりの装備を身につけることができる。携帯型対衝撃粒子散布装置、通称、携帯バリア。それに拳銃も持った。


 そしてジャンヌとともに、王都の西門にある騎士の詰め所へと向かう。そこが、第11騎士団、通称「跳馬(ギャルソンヌ)騎士団」の拠点である。


 この騎士団に属するのは15人。いずれも、屈強の男達だ。


「団長殿!騎士団15名、全員揃いました!」

「はい、じゃあ皆様、まいりましょうか。」


 ジャンヌ団長と屈強の男達15名、それに付き添い1名で、王都ルモージュの外へと向かう。


 ルモージュは城壁に囲まれた城塞都市だが、その城壁の外は農耕が行われる田園地帯である。その向こう側にある木々が鬱蒼と茂る辺り、あそこから先がいわゆるモンスターの生息地である。


「おお、騎士団だ!」

「頑張ってくださいねー!」


 畑で働く人々からの声援が送られる跳馬(ギャルソンヌ)騎士団。王都の中ではじゃじゃ馬だの跳ね馬だのと散々な言われようだが、一歩外に出るとこの歓待ぶり。農民からの彼らへの期待度が、よく分かる。


 それほどまでにこの城壁の外はしょっちゅうモンスターに襲われている。スライムの溶解液で作物や農民自身がやられたりするのはしょっちゅうだが、時々コボルトやオークなどが田園地帯に現れて、暴れまわることがある。


 もちろん、農民もただやられているわけではない。彼らも自衛のため武装化し、モンスターの襲来にたびたび戦ってきた。


 だが、王国はこのモンスターの被害をまるで把握しようとしない。長い間、農民達の訴えを聞こうともしなかった。だが、そんな農民の訴えを聞き入れて、モンスター退治専任の騎士団を作ろうと働きかけた者がいる。


 それが、ジャンヌさんの父親であるブリエンヌ男爵である。ブリエンヌ家の領地の大部分が農作地だったという事情もあるが、それ以上にこのブリエンヌ男爵自身が正義感あふれる人物であったことが大きい。こうして、ブリエンヌ男爵の働きにより、11番目の騎士団が設立される。これはまだ我々地球(アース)294と接触する前、2年前のことだ。


 騎士は何人か集まった。だが、騎士団の団長となるべく人物がいない。名だたる騎士にとってモンスター相手の騎士団の団長など、不名誉極まりないというのだ。そこでこのおてんば娘……いや、正義感の強い娘の登場である。


 こうして、いきなり女騎士団長が誕生する。だがこの騎士団長、決してか弱き女性ではない。


 この王国では騎士達の剣術大会が毎年開かれている。が、ジャンヌは去年の大会で3位だそうだ。準決勝で敗れたものの、3位決定戦では、優勝候補の一人と言われたとある団長相手に善戦し、判定勝ちを果たす。


 彼女は、決して力は強くはない。だが、抜群の俊敏さを誇る。相手の懐に瞬く間に飛び込み、急所を突く。これがジャンヌの戦い方の基本スタイルだ。


 そんな女団長が率いる15人は、意気揚々とモンスター達の闊歩する森へと入って行く。


「ところで、エルンスト男爵様。聞きましたぞ。」


 その道中、この騎士団の副団長を務めるヤコブ殿が私に話しかけてくる。


「何をです?」

「一昨日の宇宙での会戦、見事、勝利を収めたそうですな。」

「ああ、そうだよ。」

「さすがは団長のご主人様。恐れ入ります。」


 私もいつの間にか、あの騎士団長の夫でかつ艦隊司令ということで、彼らに認知されていた。なお、私は彼らから「男爵様」と呼ばれている。


 それにしてもこの副団長、情報が早い。というのもこの副団長、すでにスマホを使いこなしている。同じくスマホを自在にこなしているあの女団長の影響だろうが、まだ2か月でニュースのチェックまで出来るようになるとは恐れ入る。


 さて、第11騎士団が入るやいなや、最初のモンスターに遭遇する。


 青白くて、ぶよぶよとした物体。あれは、スライムと呼ばれるモンスターだ。

 一見大人しそうに見える生き物だが、近づくものに溶解液をかける厄介な存在。強アルカリ性の液体であるため、皮膚にかかれば大変なことになる。

 だがこのスライムには、目が付いていない。それゆえに、よほど接近しないと気配を感じることができず、遠く離れた者には攻撃してこない。

 このため、長い槍で刺す。これが対スライムに有効な攻撃法だ。

 団員の1人が、スライムに長槍を突き刺す。刺された場所から体液が流出し、あっという間にしぼむスライム。白い煙を出して、そのスライムは息絶えた。


 この長い槍を持った騎士は10人いる。当初、彼らは全員剣を持ち、半分が騎乗していた。全員を馬から下ろし槍を持たせたのは私だ。彼らの行動を観察し、ひと月ほど前から装備を変えてみた。


 長槍を持たせたのは、この辺りで最も多いスライム対策という意味もある。が、もっと他の理由もあるのだが……


 と、今度は行く手にコボルトが現れた。頭が犬で、2足歩行で歩く「獣人」に分類されるモンスターだ。


 連合では、この星の人族だけではなく、人に近い「亜人」と呼ばれる種族とも同盟関係を結ぶよう行動している。だが知性が動物並みで、同盟を結ぶことが困難な種族は例外とする。この「獣人」はその例外に含まれる。


 相手が人もしくは亜人ならば、我々は連合軍規によりその人命を尊重しなくてはならない。だが相手が獣人の場合は、その限りではない。獣と同じ扱うとなり、襲いかかられた場合は武器の使用は許可される。


 ところで、エルフやドワーフなど、人並みの知性がある者は「亜人」と呼び、人と同等の扱いをすることが決まっている。そしてコボルトは知性が犬並みのため「獣人」に分類される。


 ところが、問題はそこそこ知性があるとされるオーガやドラゴンをどう扱うか?我々の規定上は、まず話し合いを呼びかけて、応じず生命に危機が及ぶ事態になりそうな場合のみ「獣人」として扱うとされている。


 で、現れたのはコボルトである。我々の規定上、攻撃してもなんら問題はない相手だ。

 私は、銃を取り出す。そして、コボルトを撃とうと構えた。

 が、私が銃を構える前に、すでに動いている者がいた。

 その者は、あっという間にコボルトの懐に飛び込み、その首を掻っ切った。

 この身のこなしは、騎士団長のジャンヌだ。目にも留まらぬ速さで、このモンスターを倒した。


「ふんっ、どうよ!」


 剣を掲げて、ドヤ顔でこちらを見るジャンヌ。私は、ジャンヌの元に駆けつける。


「ジャンヌ!」


 私は叫んだ。満面の笑みを浮かべるジャンヌに向かって、私は苦言を言う。


「ダメじゃないか。いきなり飛び出しちゃ。」

「ええっ!?だってほら、あっさり倒せたよ!」

「指揮官たるもの、むやみに飛び出しては出ちゃダメだ。お前がやられたら、残された者は混乱に陥るぞ。」

「でもでも!コボルトなんて楽勝ですよ?いいじゃないですか!」


 反論する妻に、基本的な戦術論を展開する私。気持ちはわかるが、指揮官は常に最悪の事態を考慮し、慎重にならなければならない。

 指揮官が倒れた時に残された者の気持ちというのは、私は過去に嫌というほど経験している。なればこそ、指揮官には慎重さこそが必要なのだと思っている。


「……分かりました……次からは気をつけます……」


 しゅんとしてうなだれるジャンヌ。気持ちはわかるが、モンスター駆除はチームで当たらねばならないことだ。指揮官の突出は、部下を不幸にすると心得なくてはならない。


 と言ってるそばから、次の目標が現れる。およそ100メートル先に、またコボルトが現れた。だが、今度は明らかに数が多い。

 私は双眼鏡を取り、そのコボルトの群れを見る。

 数は……20匹いる。ここから見る限りでは、なにかを取り囲んでいるようだ。まずい、もしかして人が襲われているのか?


「ジャンヌ!私と一緒に来てくれ!」

「へ?あれを2人で殺るの!?」

「違う!ここにおびき寄せるんだ!おい、槍兵!」


 槍を持った10人が、私の元に集まる。


「槍兵10人は、ここで横陣形にて待機せよ!ジャンヌと私で、あのコボルトをおびき寄せる!」

「し、しかし、男爵様……2人で大丈夫でしょうか?」

「案ずるな、私には防御兵器もある。これさえあれば、コボルト相手ならば難なく切り抜けることができる。残りの5人はかねてから示し合わせた通り、作戦を実行せよ!」

「はっ!男爵様!」


 15人の騎士に、作戦行動に出るよう伝達する。そして、ジャンヌと私はコボルトの群れに突入する。


「いいか、できるだけ奴らを引き寄せるんだ。」

「はい、わかりました!でも、何をすれば……」

「挑発して、すぐに逃げるんだ。私がやる。」


 そういって私は、銃を取り出す。30メートルほどまで接近したところで、1匹のコボルトめがけて発砲する。

 パンッという乾いた音とともに、青白いビームがコボルトに当たる。頭を撃ち抜かれたコボルト、そのまま絶命し、倒れる。

 銃を構える私、そして抜刀し、剣を構えるジャンヌを見たコボルト達は、仲間をやられ逆上してこちらに向かって走ってくる。

 それを見届けた私とジャンヌは、一目散にその場から逃げ出す。


「なんでこんなみっともない作戦をするんですかぁ~!」

「形なんてどうでもいい!最小限の犠牲で、最大限の効果!それが戦術というものだ!」


 自由に生きるジャンヌとしては不本意な戦い方のようだが、だからといって20匹を同時に相手にするほど強いわけではない。ここはあの15人のチームプレーに期待する。


 私とジャンヌは、槍を持った10人の騎士達の後ろに回った。と同時に、私は号令をかける。


「槍隊、構えーっ!」


 10人は横一線に並んだまま、一斉に槍を前に突き出す。長さ2.5メートルの長槍が、コボルト達に向けられる。


 まず突出した4匹のコボルトが、この長槍の餌食になる。そのまま10人は、道いっぱいに広がったまま前進を開始する。


 この長槍に恐れをなした残りのコボルト達は敗走し始めるが、その行く手に回り込んだ5人の剣を握った騎士がコボルト達の行く手を阻む。


 退路を断たれたコボルト達は、たちまち長槍の餌食となる。次々に倒れるコボルト達。逃げようとするコボルトも、5人の精鋭達に斬られる。


 あっという間に、20匹のコボルトの群れは全滅した。


 この長槍隊は、ファランクスと呼ばれる古来の長槍部隊を小規模にしたものだ。その槍部隊の槍先に、5人の騎士を使って追い込む。通称「金床戦術」と呼ばれる戦術だ。

 我が連合側の艦隊でも、これと同様の戦術が使われたことがある。艦隊戦でも、モンスター退治でも有効な戦術。犠牲を最小限にして、敵に大きなダメージを与えるこの戦術は、宇宙でも地上でも通用する。


「あーあ……、私も暴れたかったなぁ……」


 結果はともかく、自分が暴れられなかったことで、ここの騎士団長は大いに不満なようだ。私はその団長に一言助言する。


「ジャンヌ、不満など言っている場合ではないぞ。指揮官は戦闘に勝利した後、何をするべきなのか?」


 私がそう言うとジャンヌははっとして、剣を抜き上に掲げた。


「やったわみんな!我が跳馬(ギャルソンヌ)騎士団の完全勝利よ!」


 おおーっと他の15人も声を上げる。そう、勝利をたたえ、鼓舞するのも指揮官の務め。これが団員の士気を高め、次の勝利を呼び寄せるきっかけとなる。


「えい、えい!」

「おおーっ!」


 勝鬨を上げるジャンヌと騎士団員の15人。これほど多くのモンスターの群れと対峙して無傷で勝利を収めたのは、この騎士団で初めてのことである。

 勝利に沸く騎士団だが、私はコボルト達がたむろしていた場所に急ぐ。

 何かを取り囲んでいたようだが、我が王都の住人ではなかろうか?私は確認のため、先ほどコボルトが群れていた場所へと急ぐ。

 その場所には、確かに誰かがいた。足を怪我して立てないようで、地面に座り込んだままだ。


「大丈夫か!?」


 私はその住人に声をかける。だが、その住人はどこか違和感のある姿をしている。

 緑色の服を着て、金色の髪をした美しい女性。耳がやや長い。一目見てそれが「亜人」と呼ばれる種族であることが、私にはわかった。


 ジャンヌ達も遅れて到着する。その女性の姿を見て、ジャンヌがつぶやく。


「あ……エルフ……」


 コボルトに襲われていたのは、不老長命のエルフと呼ばれる種族の娘であった。

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