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#11 帰還そして新たな住人

 私の目の前は、真っ白な半透明な布のようなもので覆い尽くされた。

 しまったと思ったが、時すでに遅し。私はこの白い化け物に、取り憑かれてしまった。


 が、ダメかと思ったその時だ。不思議なことに、その化け物が悲鳴をあげて離れていく。


「ヒュゥーン……」


 奇妙な悲鳴をあげながら、ともかくそいつはどういうわけか私から離れて、通路の奥へと退く。

 それを見た私は、以前に聞いたジャンヌの言葉を思い出した。そして、自分の胸に手をかける。


 ◇


「黒水晶の矢じり?なんだこれは?」

「御守りです。エルンスト様、森に行くときは、これを紐に通して、首から下げておいてくださいね。」

「なぜだ。携帯バリアも銃もある。こんなまじないなんかよりも、ずっと役立つ装備をしているのだ。不要だろう。」

「それはそうですけど、実は剣も矢も効かない相手が、稀に現れるんです。」

「剣も矢も効かない?なんだ、それは。ドラゴンか何かか?」

「いえいえ、硬すぎて武器が効かないのではなく、武器がすり抜けてしまうらしいんですよ。でも人間に取り付いて、その取り付いた人間の魂を蝕み殺すと言う、とんでもなく恐ろしい相手なんです。」

「へえ、そんな奴がいるのか。」

「ゴーストっていうんです。とにかく出会ったら最後、武器が効かないから、逃げるしかないんですよ。」

「銃もバリアも効かないのか?」

「私はあったことがないのでわかりませんが、もしかしたら効かないかもしれませんね。でも、この黒水晶のものを身につけておくと、不思議とゴーストが憑依しなくなるんですよ。」

「なんだそれ、本当か?」

「わかりませんが、そう言われてるので、森に行く者は皆それを身につけてます。おかげで助かったという王国騎士もいるらしいですよ。まあ、おまじないとして、なるべく身につけておいてくださいね。」


 ◇


 そんな会話をしたのは、結婚したばかりの頃だ。以来、私は森に向かう度にその黒水晶の矢じりを首からぶら下げている。


 黒水晶をつけた私に取り付こうとして失敗した、こいつを見て確信した。こいつがゴーストだ。そして私は、ジャンヌからもらったこの黒水晶のおかげで助かったのだ。


「私がやつを止める!全員、エレベーターへ乗り込み、そこで待機せよ!」

「りょ、了解!」


 あの白いゴーストに取り憑かれて、あわや殺されると思っていた私が、そのゴーストをはねのけて平然と命令している。何が起こったのか、まるで理解していないことだろう。とにかく、彼らはエレベーターへと乗り込んだ。


 じりじりと私に迫るゴースト。白くふわふわとした不気味な風格。よく見ると、うっすらと人の形をしているようだ。人か亜人、あるいは獣人の霊なのだろう。


 再び私に襲いかかるゴースト、だが、私は首から下げた黒水晶の矢じりを握りしめ、そのこぶしでゴーストに殴りかかる。殴られて、苦しそうに悲鳴をあげて後退するゴースト。それを見届けて、私はエレベーターへ飛び込んだ。


「1階に向かえ、すぐに駆逐艦へと乗り移る!」

「りょ、了解!」


 ぎゅうぎゅう詰めのエレベーター内。やっと1階にたどり着く。そのまま我々はエアロック扉に向かって走り、我々の駆逐艦へと逃れる。


「艦橋!私だ、エルンストだ!緊急発進!直ちに敵艦から離脱せよ!」

「こちら艦橋!りょ、了解!」


 エアロック扉を閉め、敵艦から離脱する駆逐艦2680号艦。突入隊と敵艦乗員の1名は、その場に倒れこむ。


「た、助かった~!」


 連合側に捕まったというのに、安堵する連盟軍士官。しかし、とりあえず彼は、あのゴーストからの恐怖からは逃れることができた。

 だが、捕虜は捕虜だ。この敵艦乗員はその場で武装解除をされて、最上階にある会議室に連行される。


 私は艦橋へと向かう。そして、艦長に向かって言った。


「艦長、直ちにあの敵艦を破壊処分する。全艦が200キロ以上離れたところで、あれに向け1バルブ砲撃せよ。」

「了解しました。ですが、何かあったのですか?」

「詳細は後で話す。ともかく今は破壊処分だ。」

「了解。艦橋、砲撃管制室!砲撃戦用意!合図とともにあの敵艦に1バルブ砲撃を加え、これを破壊せよ!」

「砲撃管制室、艦橋!了解!直ちに砲撃準備いたします!」


 カンカンカンという砲撃戦準備の合図が再び鳴り響く。この一撃で、あのゴーストもろとも敵偵察艦を消滅させる。

 砲撃によって、あのゴーストが消滅するかどうかはわからない。そのまま宇宙を漂い続けるのか、それとも高温の熱で消滅するのか、分からない。だが、そのゴーストが生き残ったにせよ、地球(アース)813から200万キロ離れたこの何もない空間を漂うことになる。いずれはそこで消滅するのではないだろうか?


「砲撃準備、完了!いつでも砲撃できます!」

「敵艦との距離200キロ!」

「よし、砲撃開始!撃てっ!」


 艦長の合図で、ガガーンという音とともに我が艦の主砲がビームを放った。初弾で命中し、敵艦は消滅する。


「我が艦の砲撃、命中!敵偵察艦、消滅!」

「よし。砲撃終了!これより当艦は宇宙港へ帰投する。ルモージュ司令部に打電、敵艦より捕虜1名を救出、直ちに帰投する、と。」

「了解……えっ!?捕虜を救出!?」


 私は艦長を連れて、敵艦から救出した1名の士官がいる会議室へと向かう。あの艦で、一体何が起きたのか?それを聞き出すためだ。

 その敵艦乗員は助かった安堵感からか、すらすらと話に応じてくれた。あの偵察艦での出来事は、彼の話によると、こうだ。


 地球(アース)813への潜入に成功した偵察艦。その星の状態をなるべく多く収集すべく、あの「黒い森」へと着陸した。

 黒い森に降り立った理由は、やはり空から見て目立ったからのようだ。なんとなく身を隠すのに向いているように思えたらしい。特に深い意味はないようだ。

 その森に降り立った彼らは、地上を探索し始める。だが、そのうち奇妙なことが起こる。


 突然、バタバタと何人かが倒れる。皆、苦しそうな表情で倒れ、そのまま死んでしまった。奇妙に感じた乗員は、急いで艦へと戻る。

 だが同じ現象が、今度は艦内でも発生する。奇妙に思った艦長は、化学兵器の使用を考慮し、緊急発進することにした。


 大急ぎで大気圏を離脱する偵察艦。だが、宇宙に出てからもその奇妙な現象は続く。


 そして彼らの目の前に、あの白い化け物が現れたのだ。


 艦内はパニックに陥る。ゴーストから逃れるため、追い詰められた乗員はエレベーターへと殺到する。だが、エレベーターに乗り切れなかった乗員はその場でやられたらしい。

 この証言をしている乗員自体は艦橋勤務だったそうだが、その艦橋からエレベーターで一度逃れたらしい。

 そのまま彼は風呂場へと向かい、更衣室で身を潜めていた。だが、ついに見つかってしまう。そこに我々が現れた……ということのようだ。


 どうやら、あの黒い森でゴーストに出会ったようだ。もしかしたらあの黒い森は、ゴーストが大量にいる場所なのかもしれない。それが原因で、空から見ると黒いのかもしれない。ともかく、このことは艦隊司令部、および王国や国王陛下にも報告したほうがよさそうだ。


 それにしても、私はジャンヌから何気なく渡されたこの黒水晶の矢じりのおかげで助かった。

 魔除けのまじないという認識で、なんとなく身につけていたが、それで命拾いすることが来ようとは、まさか思わなかった。


 宇宙港からの帰り道、いつものお土産のビッグプリンを数個抱えて、私は送迎車に乗る。あたりはもう夕暮れ時、まったく、今日はとんだ一日だった。


「ただいま。」

「あ、おかえりなさいませ、エルンスト様。」


 ジャンヌが玄関に出てきた。私はジャンヌに言った。


「今日は、ジャンヌのおかげで命拾いをした。」

「えっ!?なんのことですか?」

「以前もらった黒水晶の矢じりのことだよ。実は……」


 私は宇宙で起きたことを話す。敵艦のこと、ゴーストのこと。それを聞いたジャンヌがこう言った。


「いやあ、良かったですね。やはり身につけて正解でしたね。でも、まさか本当に効果があるとは思いませんでした。それにしても、宇宙でゴーストに会われるとは……」

「敵艦の乗員は、気の毒なことだ。我々ではなく、この星のモンスターにやられたのだからな。しかしあんなものが生息してるなんて、私でさえ考えもしなかった相手だ。」

「そうでございますね。ところでエルンスト様、今抱えているのは、ビッグプリンではありませんか?」

「そうだよ。いつものお土産だ。」

「わぁ!早速いただきます!マリーちゃん!クララちゃん!エルンスト様が、プリンを買ってきて下さったわよ!」


 相変わらずプリンが大好きなジャンヌだ。早速あのエルフと食べようというのか。こちらは死ぬかと思ったというのに、呑気なものだ。……って、ちょっと待て。誰だ、クララというのは!?


「おい、ジャンヌ!」

「はい、なんでございましょう、エルンスト様。」

「今、クララと言わなかったか?誰だそれは。」

「ああ、そういえばエルンスト様はご存知ありませんでしたね。この娘ですよ。」


 そう言って私の前に連れてきたのは、緑色の肌をした小柄な娘。これは、どう見ても若いゴブリンだ。

 なんだかちょっと照れくさいようで、少し赤みのかかった顔をして私の方をちらっと見ているゴブリン。


「あのですね、ゴブリンの村を離れる時、この娘がどうしても私達のところに来たいというので、連れて来たんですよ。」

「はあ?」


 聞けば、どうやら私が去った後に、ジャンヌは若いゴブリン達に駆逐艦のことを根掘り葉掘り聞かれたらしい。

 そこでジャンヌは駆逐艦のことを、おいしい食べ物が食べられる空飛ぶ船だと応えたようだ。

 それを聞いたゴブリン達は納得して解散する。が、ひとりこの若いゴブリンの娘が残った。


「ジャンヌ様!」

「は、はい!なんでしょう!?」

「おらを、人間の住むところに、連れてってけろ!」

「はい?」


 聞けばこのクララというゴブリンの娘は、あのゴブリンの村での生活に嫌気がさしていたようだ。

 毎日毎日、変化のない生活。いずれ自分も動けなくなり、まるで森の木々のようにただそこにいて息をするだけの存在になるのかと思うと、どうしても村を出たくなったようだ。


 折しも、最近はあの辺でも空に大きな船が飛び交うようになった。人の世界に、何か大きな変化が起きている。このゴブリンの娘でさえ、その変化を感じ取っていたらしい。

 その空に浮かぶ船が、なんと目の前に降りて来た。その船に関わる人間が、今ここにいる。千載一遇のチャンスと言わんばかりに、彼女はジャンヌに頼み込んで、この屋敷までついてきてしまったようだ。


「だが、ジャンヌよ。この屋敷にゴブリンを連れてくるというはちょっと……」


 これ以上、居候が増えても困る。私はジャンヌに、明日にでもゴブリンを返すように言おうとした。するとこのクララ、私に向かってこう言った。


「あの、おら、一生懸命働く!んだで、どうかここに置いてけろ!おら、どうしても、ゴブリンの村にはもどりたくねえだ!」


 などと懇願するので、とにかく明日以降、どうするか考えることにした。


「さて、クララちゃん。これがプリンよ。」

「うわぁ、まるで黄色いスライムみてえだなぁ。ほんとにこれ、食えるだか?」

「大丈夫だよぉ!美味えだよ、これ!わだすも一度食ったら、もう離れられねえべ!」


 女騎士団長とダメエルフに勧められて、恐る恐るプリンを口にするゴブリンの娘。


「!!な、なんだべこれは!?おら、こんなもの初めてだよ!」


 こうしてまた、プリンの味を知った亜人が一人、増えてしまった。ああ、これでもうこのゴブリンも森には帰れまい。


 美味そうに土産のビッグプリンを食べる3人の女子ども。だが、ジャンヌもマリーも、そして新たな住人になってしまったクララも、幸せそうにそのプリンを食べている。


 だが、そんな幸せの裏には、最新の科学力でさえ及ばない恐ろしいモンスターの存在があることを知った。それにしても、今日は本当にとんだ休日であった。

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