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ハイスクールはダンステリア

この学園は広い。どれくらい広いかというと、クリケットができる広場が少なくとも二つあるくらい広い。

私も見つけた時は驚いた。で、試合が行われていてみんなでワイワイしてるのを見て悲しくなったりなんか、してないんだからね。知っていたとしてもそういう場には行けないしね。イベントごとはトラブルの元だから。


校舎周りから行動範囲を広げ、私はできる限り一人で過ごせる場所を模索している。もちろん次の授業に間に合う範囲で、だけど。


それでも……


「よくこんな遠くまで歩いて来るなー」


こうしてトライアス様に見つかる。


「私は好きでここにいるのでお気になさらず」

「お、貴族みたいだな」


周りの会話を盗み聞きして得た貴族的な喋り方。

そう、周りにいっぱい「先生」がいるんだからそこから習えばいいんだという気づきを得てとにかくヒアリングをしているが話せる人がいないため使う機会は少なく、こうして披露の場では茶化される。うーん、理不尽。


「リリィ嬢はこういう自然と触れ合える場所が好きなんだね」

「なんでお前が来るんだよ」


いやいやあなたもですよ、ユウ様。普通に学園生活を送っていたらこんなところ来る必要ないですよね。


「私、一人でいたいのでご遠慮……」

「リリ、探したよ」


ハワード様が増えたー! なんで見つかるの?


「お前は貴族なんだから場所をわきまえろよ」

「リリィ嬢が怯えてるじゃないか」


いや、お三方平等に怯えさせていただいております。

私のステルス性能は人生をかけて磨いてきたものなのにこうも簡単に見つかってしまうのは、く、悔しい。


「リリと昼のお茶をする約束をしていたのに」

「ハワード様、約束なんてしていないと思うのですが」

「これからずっと昼のお茶は私との時間だよ」


いやいや、それはおかしい。


「待った、なんでこいつは名前で呼んで俺は家名なんだよ」

「し、親しくない方は名前で呼んではいけないと」

「リリア。お前、最初は名前で呼んでただろ」

「それは家名を知らなくて……」

「えー、僕だけリリィ嬢に名前で呼んでもらえてないの?」


ガラの悪い睨みをきかせるトライアス様、冷たい微笑みで最後の審判を下すように厳かに見つめるユウ様。あ、圧が二乗……。


「じゃあお茶にしようか」


空気を読まないのはハワード様の性質なのか公爵パワー何かわからないけど、けどなんか助かった? でいいのかな?


パンッとハワード様が手を鳴らすと、この校舎から正門へ向かう道をちょっと外れた林の中の自然発生的なベンチもない広場的空間に人がぞろぞろとなだれ込む。

私たちのことは見向きもせずにテーブルと椅子、そしてグラスが並べられて焼きたてと思われるパンがお皿に乗りスープが注がれ、「昼のお茶」が完成した。

ハワード様はスマートに座り、トライアス様とユウ様が何やら言い合いながらも当たり前のように席につく。


「おい、何立ってるんだ早く座れよ」


いや、なんでこんなガーデンパーティー始まっちゃってるのか。私の横には給仕が何も言わずに待機している。引かれた椅子と給仕の顔を見比べて、気まずくて座ってしまうとグラスに水が注がれた。


「あ、まさか俺の名前忘れたとか言うんじゃねえだろうな」


え、名前の話まだ続いてたんですか?この唐突に現れたガーデンパーティーに違和感を感じないんですか? あれ私がおかしいの?


「こうして外でのお茶もたまにはいいな。でもこれから暑くなるんだしリリの体調が心配だ」

「そうだね、あ、人気が少ないところがいいなら教会で過ごすといいよ」

「そうやって自分のテリトリーに引き込むのは感心しないな、ユウ」


あ、この水、ただの水かと思ったら少しレモンと蜂蜜が入っていてさっぱりと甘い。……美味しい。家でもやってみよう。これレモンじゃなくてミントを入れるのもいいかも。ミントならその辺にも生えているし、お水をもらえれば私でも作れそう。学園に持っていきたい。

料理はできるんだけどヌーヴェル家に来てからは料理を作る機会がなくなってしまったし、いつもシェフの人がいるキッチンで私が入り込むのも悪くてお昼ご飯のサンドイッチも作ってもらってる。今日のサンドイッチどうしよう。


ふと視線を感じてグラスから目線をあげると3人は私のことをじっと見つめていた。


「あの、なにか……?」

「……いやなんでもない」

「ごめんね、じっと見ていて」

「……」


お水を飲むのにも作法があったんだろうか。よくわからない3人の態度にどう返していいのかわからない。


「リリ、好きなだけ水を飲むといいよ」


ハワード様手ずからレモン水を注がれる。なんだろ、水責め……っていうことなのかな。不躾な元平民に美味しいレモン水をたらふく飲ませて苦しめてやる、という。


「お前今なんかアホなこと考えてるだろ」


バレてます。

トライアス様はニヤニヤと笑いながら無造作にパンを食べる。ここまでどうやって運ばれたのかよくわからない謎の美味しそうなパンを。


「あ、お前これお前んちの料理じゃねえか。シェフ連れてくんの禁止だろ」

「リリに少しでも美味しいものを食べてもらいたいから仕方がない」

「フィリップ家は美食家が多いからね。学園内のものも悪くはないのに、ねぇ、リリィ嬢」


思わず私もパンを食べてみる。サクッとふわっと美味しい。なんか味が練りこまれているのか独特の味の食パンだ。うーん、なんかクセになるおいしさ。

私がもふもふとパンを食べていると3人は何だかんだ楽しそうに会話をしている。


「あの、皆様お知り合いなんですか?」

「私の家が呼ぶことが多いんだよ。トライアス将軍やユウ猊下を」

「それで歳が近い子供がいれば『話し相手に』ってことで連れていかれて、小さい頃から何度も顔を合わせているんだよ」


なるほど。


「トライアスの猫かぶり具合はすごいぞ」

「そうだね、うちへの礼拝のときも見かけるたびに笑いが止まらなかったよ」

「うるさいな」


貴族のように振る舞うトライアス様を想像してみるも、なんか普段とイメージが違いすぎておかしなお芝居のようになってしまう。


「仲がいいんですね」

「よくないよ」

「よくねえよ」

「よくはない」


仲良しか。

3人揃っての回答に笑ってしまう。


「リリは普段もそんな風に笑っていたほうがいい」


ついゆったりと人と話せて、嬉しくて緩んでしまった。

気をつけないと女子からは「色目を使ってる」とか言われてしまうし、男子からは気があると勘違いされて馴れ馴れしく触られたり。危ない危ない。


「リリィ嬢とはこうしたクラスの合間にしか会えないからね。とても残念だよ。もっと普段のリリィ嬢を見たいな」


そう、私のとった授業にこの三人はいらっしゃらない。授業まで一緒だったら村八分だったよ、ほんと。今は7分くらいで済んでるけど。

私が選んだ授業は田舎の役所で働き生活していく上で役立ちそうなものを選んだ。ただし授業の名前からどんなことを勉強するのかさっぱりわからないものは選びようがなかった。


「リリアの選んでるクラスが節操なさすぎるんだ」

「節操ないってなんですか」

「そんなにクラスとって、結局どの上流クラスを選択するつもりなんだ」

「?」

「リリ、専攻を考えていないの?」

「あの、学園の卒業には1つの上級合格と3つの中級合格があればいいんですよね?」

「リリィ嬢、1つの上級クラスを選択するにはだいたい3つから4つの中級クラスが必要なんだよ?」

「そうなんですか?ユウ様」


微笑んだまま微動だにしないユウ様に私は言い直す。


「チャールズ様」

「だから専攻を決めておかないと卒業に時間がかかってしまうよ」


そうだったんだ。そんな仕組みだったなんて知らなかった。授業一覧には中級までしか書いていなくて、だから1つの科目を初級、中級、上級と繰り上がっていくものなんだと思っていた。

なんか、こういう学園の普通のこと話せるの、う、嬉しくて顔がにやにやしちゃう……。まるで私、学生みたいに……。


そう、早歩きに通り過ぎるテラスでお茶をしている女の子たちを見てないふりして見ていたけど、本当に楽しそうで、いいなーって。なんか、今、それっぽくないですか。授業のこと話してお茶して。木陰がちょうどよくて。食べ物が美味しくて。ちょっと不穏な気もするけど、誰もヒステリックに怒鳴ったり無神経に触ってきたりもしない。普通にお茶できてる。これってすごく、楽しい。


「リリ、楽しい?」

「あ、はい! ありがとうございます」

「よかった」

「リリアはすぐ餌付けされるなあ」

「餌付けされてません。楽しいか、楽しくないかの話です」

「パンのおかわりを嬉しそうに貰いながら言うセリフじゃねえなあ」


もうひとついかがですか?と給仕にすすめられて喜んでしまったのも見られていたか。

なんとなくトライアス様は目端が効くので私を見つけるのも一番だし。うーん、ライバル。


「あの、このパンは何味なんですか」


チキンのソテーも美味しかったんだけど、この独特味のパンがすごく気になってしまった。どこでも食べたことがない味。貴族にしか手に入らないものなのかな。


「気にしたことなかったな」

「アニス」

「え?」

「薬で使われるのがメインで、料理に使うのはフィリップ家くらいだ。」


知らなかった。それにトライアス様の知識に驚いた。なんとなく、勉強とか好きそうでないって勝手に思っていたから。


「すごいですね、……ピーター様」


圧に屈して名前で呼ぶ。そういう柄の悪いチンピラみたいな態度だから勘違いしても仕方がないと思う。


「そろそろ午後のクラスだね」


ユウ様が時計を見て言った。

もうそんな時間か。少し距離があるので鐘が鳴る前には歩き出さないとと思っていたんだった。

時計は持たされているんだけど、見る習慣がないんだよなあ。


「邪魔すんなよ」

「すまない、とは言えないね」

「そういう誑し込むような態度はいただけない」

「……リリアなにやってんだ」

「なにって片付けを……」


そのまま食べ逃げしようとする3人に私は空いたお皿をまとめ、テーブルクロスを畳もうとしているところ。これを片付けて授業、間に合うかな……。

なんてテーブルクロスを畳むのに1人四苦八苦しているところにまた唐突に現れた多くの人々がささっとテーブルクロスやナプキンなど布類をまとめ、お皿をまとめ、グラスとともに箱にしまわれ、テーブルや椅子と一緒に運び去られた。手際のいい誘拐みたいに。


林を出たところで始業前の鐘が鳴り私は慌てて校舎に向かった。いやーん、遅刻遅刻という気分で。だからあんまり周りは見えてなかったの。

私がハワードフィリップ公爵とピータートライアス将軍閣下子息とチャールズユウ教皇猊下子息を従えて歩いているなんて事になってるとは。


次の日から女子生徒による物理攻撃が始まった。

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