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吸血蝙蝠ニコさんのダンジョン攻略記(仮)  作者: こぺっと
第二章 ニコさんと復活の魔王軍
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048 ニコさんとアルムリサイタル

「で、結局なんなんだよ」


パッと前髪を払うアルム君はフィズィさんの問いかけに「フッ…」と笑みを溢すと、どこからともなく取り出した橙色の魔女帽子を被るアルム君。

今日も絶好調にオレンジ色です。


「ハロウィンみたいな奴だな」

「そうなのよ。しかもあの帽子、カラス飼ってるのよ」

「手品師か?」


二人のヒソヒソ話を他所に、アルム君は息を大きく吸うなり良く通る声を張りあげました。


「レディィィィス!エーン、ジェントルメェェェェン!!」


その声に酒場の喧騒が一瞬鎮まると、優雅にお辞儀をするアルム君。

そして体勢を戻すとコツコツとその場を意味もなく歩き始めます。


「今宵、このブリッサは海猫亭。ここでこの時間に食事をとっていた諸君らは実に運がいい!ご存じ、この橙色の道化師。アルム=カサバのショーを見ることが出来るのだから!」


大仰な身振り手振りで突然何か話し出すアルム君に、更に店の客がガヤガヤを騒ぎ始めます。

ニコさんとフィズィさんは取り合えず成り行きを見守ることにしました。

二人は一歩下がると手近な席に座ってビールの追加注文をしました。

特等席で見学する気満々です。


ギャラリーの反応は様々でした。

「アルム=カサバ?知ってるか?」というような声や、「おお!アレが!!」と何やら知っていそうな声もちらほら聞こえてきます。

実は割と有名人なのでしょうか。


「それでは皆様ご注目。面白いと思ったらここにお金を入れて下さいね。別に面白くなくても入れて良いので全然遠慮はなさらずに」


そう言ってアルム君は自分の帽子を適当に置きました。

今日はカラスの黒羽さんは出てこないようです。


アルム君は何処からともなく一本のスティックを取り出すと、それをクルクル言いました。


「さて、今日はちょっと歌でも歌いたい気分なので、こんなものを用意しました」


アルム君がスティックを一振りすると一本のアコースティックギターに早変わり。

コレには他のギャラリー共々「おおお!」と歓声を上げるニコさん。


「魔術を使った形跡がないな。本当に手品師か」

「逆に凄いわよね」

「驚くのはまだ早いですよ?」


そう言うとギターのボディを叩きながら、適当なフレーズを引き始めました。

ギター一本でドラムも一緒に表現しているような、所謂叩く系ギターですね。


「スラム奏法?」


ポツリと呟いたフィズィさん。

ひとしきり引き終わると、ギャラリーからは驚きの声と拍手の音が上がりました。

アルム君はまぁまぁというように右手を上げ、今度はCmaj7の音を一度ジャーンと奏でるとゆっくりと歌いだしました。

Cmaj7、D6、 それからEmと続くメロディを奏でながら歌うその歌はこの国にはない言語の歌詞とメロディで、情感たっぷりの声がいやに切なげに響きます。


「あら、凄く上手いじゃない」

「っていうかこの曲、知ってる」


フィズィさんはその事に驚きながらも記憶にあるメロディと歌詞をなぞる様に口遊みました。

アルム君もそんなフィズィさんにやや驚いた表情を向けると、僅かに微笑みました。

そしてそのまま曲のクライマックスへと進み、銀髪を振り乱しギターをかき鳴らすアルム少年。


「らあああぁい!!!」


そしてアルム少年の情熱的なシャウトで締め括られる曲。

突如として始まった即席の舞台はまさにスタンディングオベーション状態、大盛況です。

演奏を終えて一礼したアルム君はホントか嘘か良く分からないような曲の説明を終えると、また別の曲へと移りました。

いつの間にやら酒場はさながら小さなコンサート会場のようになってしまいました。


「おい、ニコ。アイツ何者だ?」

「分からないわよ、そんなこと」

「お前、見てねぇのかよ」


そんな中、驚きから立ち直ったフィズィさんはニコさんに尋ねましたが、返ってきたのは予想外の返事でした。


「…見えないのよ」

「はぁ!?どういうことだよ!」

「知らないわよ!」

「肝心なとこで使えねぇなァ!」


言い争いを始めた二人でしたが、隣の席の男たちから視線を受ければバツが悪そうに黙る二人。

フィズィさんは舌打ちしつつもアルム君に視線を戻しました。

ニコさんは何か考えるように目を閉じています。


結局合計で三曲、すべての演奏が終わると、途中から演奏に使っていたピックを「サンキュー!」と叫びながらニコさんに投げるアルム君。

ニコさんはそれをパシッと受け取ると、ピックを見て目を見開きました。


「それでは皆さん、今宵のショーはこれまでとします。また何処か、旅の空で会いましょう。アディオス!!」


そしてそんなニコさんの事など知らぬ素振りでマントを翻すとギターを担いで去っていくアルム君。

帽子の中には銀貨と銅貨がたんまり入っていました。


「おう、何か凄かったな。聞いたことないようなメロディだったが」

「っていつから居やがった」

「ああ、二曲くらいは聞いたぞ。お前ら声かけても全然気づかなかったからな。知ってる歌でもあったか?」


いつの間にか隣でビールを飲んでいたアルガスさんも何となく気に入ったのか、最後に歌われた曲のサビを鼻歌でなぞっていました。

フィズィさんは「さて、な」と答えるとニコさんに目を向けましたが、ニコさんは受け取ったピックを睨みつけたまま固まっていました。


「んで、船はいつ出るって?」

「ああ、タイミングが良くてな。明日の昼に出向予定だそうだ。お前ら、宿は?」

「あ?忘れてた。飯食ったら適当に探せばいいだろ」

「はぁ!?マジかよ、今から探すのかよ!」


「めんどくせぇなぁ」と頭をガシガシしながら項垂れるアルガスさんに「ヒヒヒ」と嗤うフィズィさん。

けれどニコさんは一人ピックを凝視したまま動きません。

ピックにはこう書かれていました。


"Are you from New York ?"


「なんでニューヨークなのよ…」



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