046 ニコさんと魔術
この世界には沢山の種類の魔術が存在します。
車輪の再発明など馬鹿らしいと言ったニコさんですが、他の数多ある魔術体系を無視して新しい魔術を創ろうとするのですからそれこそ車輪の再発明です。
しかし、普通であれば魔術体系をゼロから作るというのは膨大な時間やリソースが必要となりますが、魔法使いにとっては出来ない話ではありません。
「んー、これは中々面白いものが出来たかもしれないわね」
ニコさんが眺めているのは一丁の銃でした。
黒く輝くボディは細長いシルエットで、砲身もかなり長め。
のっぺりとした見た目からレ〇ントン 700を彷彿とさせる外見で、上部には照準器が付いていました。
「正直銃の事なんか分からないけれど、確かこんな感じよね。まぁ第一弾としてはこれで良いかしら」
うんうんと頷くニコさん。
上機嫌でスコープに目を押し当てて覗いてみれば、想定通り望遠機能もしっかり付いている様です。
「何か的になるものは無いかしら」とスコープを覗き込んだまま適当に視線を移せば上空を飛ぶ鳥の群れを見つけました。
これは良いとそのまま引き金を引けば、大気中の魔素を集め始めます。
銃のボディに淡く光の筋が走り、段々と輝きが増すと次の瞬間、銃口から白銀の閃光が独特の銃声と共に空を切り裂いて立ち上って行きました。
「ぎゃあああああああああ!!!」という悲鳴と共に。
「目が!目がぁぁ!!」
いったい何度言えば気が済むのでしょうか。
悲鳴の主はニコさんで、銃を放り出すとゴロゴロと地面に転がってのたうち回りました。
スコープの覗き方から構え、照準の付け方に至るまで素人のニコさんは、射撃の反動でスコープが目にめり込んだのですね。
しかも魔術の効果である白銀の閃光がスコープ越しに目を焼き、物理的にも視覚的にも痛いというダブルでお得なダメージを受けてしまったので目も当てられません。
つまりはただの自爆ですね。
因みに碌に構えも出来ていない射撃は反動と共に狙いが逸れて上空あさっての方向へと飛んで行き、むなしく空へと消えました。
「くぅぅ。せ、成功ね…ッ!!」
痛みに転げまわっていたニコさんですが、暫くすると右目を抑えながらも銃を杖のようにして何とか立ち上がりました。
とても成功と言うようには見えませんが、まぁ確かに目論見としては成功でしょうか。
射撃の結果など諸々に関しては無様でしかありませんでしたが。
「うぅ、いきなりスナイパーライフル的なものはダメね。やっぱり良く分からないものは使うべきじゃないわ。しかもこんなもの、大きくて持ち歩きにくいし」
そう言うとニコさんは持っていた銃をアッサリと魔素に還しました。
次いで造ったのはベルモスさんが使っていたような大口径ライフルの様なものです。
やはり色は黒で、砲身のサイドには何やら文字が彫り込まれています。
よく見るとカッコいい字体で"nico=walker"と書いてありますね。
ブランドでも立ち上げるつもりでしょうか。
「コレならどうかしら」
左手で適当に構えて上空へと一撃。
先程と同じく、独特の発砲音と共に白銀の光が尾を引いて空に昇りました。
その光は雲を切り裂き遥か上空へ消えていきます。
「…だめね、狙った雲よりも三つズレたわ」
今度は銃を使わずに、指を銃の形にして同等の魔法を一発。
同じように白銀の光が空を切り裂いて雲を散らしますが、こちらは寸分違わず狙い通りの雲を貫きました。
造った銃に関して、機能的には問題なさそうですが、いかんせん命中精度が違うようですね。
「んー、射撃の媒介になるモノがあるから普通に魔法を撃つのとは狙いの付け方が違うのね。多分」
「うーん」と唸るニコさん。
ニコさん的にはさっきの魔法に関しては魔術化するほどの労力が無いので、ぶっちゃけこの銃を使うメリットはあまりありません。
正直銃を造ったのは魔道具の検証のためと、あと何となくカッコいいからです。
見た目から入る女なのです。ニコさんは。
「銃に関しては失敗だけど、着眼点は悪くないわね。きっと」
そうして一人試行錯誤を繰り返していると、アルガスさんとフィズィさんが戻ってきました。
アルガスさんは余程疲れたのか、何だか随分ゲッソリとしています。
「よう、何してんだ?」
「あら、そっちは終わったのかしら?」
カチャリと銃を持ち上げて返すニコさん。
それを見てフィズィさんは顔を顰めます。
「あん?銃か、それ絶対こっち向けんなよ?」
「ええ、まぁ玩具みたいなもんだけどね。魔法で魔術や魔道具を作れないか試していたところよ」
そう言うとフィズィさんは「へぇ」と一言面白そうに笑いました。
意外にもアルガスさんは然程驚いていません。
「あら、驚かないのね」
「まぁな。俺たちが使ってる魔術の大本を辿ると魔法使いが体系化したものもあるみたいだな。…俺が使う魔術も元は魔法使いだった奴が魔法を簡便化したものだ」
「既にやっていたヒトがいたのね」
「まぁな。聞いた話だが、魔法使いにとっても魔法ってのは扱いが難しいんだろ?それに魔法使い自体数が少なくて、世の中便利にするには大勢が使える魔術の開発が必要だったんだろう。魔法使いってのは大昔、ソレこそ創世記とかの話には割と出てくるが、今じゃ"そうじゃないか"って噂される人間が片手の指程いるだけさ」
これには「へぇ」とニコさんも感心しています。
どうやら"矛盾の実"を食べなくても魔法使いになる方法があるのかもしれませんね。
「んで、ソイツは何が出来んだ?」とフィズィさんがニコさんの持つ銃を指さしました。
「これは、まぁ見たまま銃よ。アルガスにあげるわ」
ぽんぽんとアルガスさんの肩を叩いて銃を手渡したニコさん。
何となく悪戯っぽい笑みを浮かべ、そのまま上空を飛ぶ鳥の群れを指さしました。
見事なV字の隊列が三つ隙間なく続いています。
「あん?」
「撃ってみなさい」
アルガスさんは言われるままに銃を構えました。
しかし、余りにも適当な構え方だったのでフィズィさんがアルガスさんを後ろから支えるように補助に入りました。
「な?!」
「良いから黙ってろ、構えを直すだけだ」
何故か少し慌てたアルガスさんの構えを的確に構えを強制していくと、「よし、撃て」と一言フィズィさんが言いました。
そしてアルガスさんが引き金を引くと白銀の輝きが群れの一羽に命中し、上空で爆発を起こしました。
フィズィさんは「ヒヒヒ、当たったじゃねぇか」と一言。
余りの爆発に直撃した鳥は跡形も残らず、二十羽程いた鳥で生き残ったモノも衝撃と爆音で意識を失いボトボトと落ちていきました。
「………」
アルガスさんは間抜け面でその威力の結果と銃を見比べ、最後に「今夜は焼き鳥かしら」とか呟いているニコさんを見ました。
そして全力で叫びました。
「アホかああああああああ!!?」
「何でよ!?」
「引き金一つでこんな高威力なモン!俺を殺す気か!落としただけで爆発するかも知れねぇだろ!アブな過ぎるだろうが!!」
「確かに!?!」
この言い分にはニコさんも納得です。
確かにセーフティも何もない銃など危険極まりないですからね。
某映画では銃をしまおうとして股間をバーンッ!してしまったなどと言う恐ろしい描写もありました。
とっても怖いですね。
「これは改良の余地ありね」
「セーフティと、ただじゃ魔術が起動しないようにしとけば良いんじゃねぇか?」
フィズィさんが何やらニコさんにアドバイスすると、ニコさんはアルガスさんから銃を受け取って再構築しました。
何やら物理的にはグリップの上部にツマミが一つ追加されたのみです。
「これなら大丈夫よ。二重のロックがあるから暴発もしないわ!」
「すげぇ怖いんだが」
「大丈夫、落としたり叩きつけた程度じゃ暴発しないわ!!ここのツマミをこっちにして、自分の意志で魔力を流さない限り引き金を引けないし、引いても術式が軌道しないようにしたわ!」
「まぁ、それなら大丈夫か…」
不安げなアルガスさんに扱いを説明すると、アルガスさんも何とか納得してくれたようです。
フィズィさんは「俺が前に出てるときは絶対に撃つんじゃねぇぞ」と半ば脅す様にアルガスさんに強く注意しています。
こうして何故かアルガスさんの危険な装備が一つ増えたのでした。




