013 ニコさんと人間
2022/08/29 諸々修正しました。全体のストーリーには大きな影響はありません。ないはずです多分。
ぶっちゃけ、あんまり高く飛ばなければバレないじゃない?
そう思ったニコさんは、結局森の上を飛んでいました。そして、夜明けとともに墜落しました。
「ふぎゃー!燃えるぅ!!太陽でリアルに目が焼けるわぁ!」
地面を転がりながら日陰に逃げ込みのたうち回るニコさん。シュウシュウと体から煙が上がっています。
「この体、迷宮の外だとすこぶる生活しづらいわね!」
ニコさんはこんちくしょーと番傘を開きました。
翼を体に巻き付けて羽織で隠すと、ニコさんは恐る恐る日陰から出ていきました。
どうやら予想した通り、番傘や衣服で直射日光を遮っていれば限り体が燃えないようです。
ニコさんは「ふぅ」と安堵の息を吐き、森の中を歩き始めました。
森の中には道が続いています。明らかに人の手が入っているので、迷宮までの道は定期的に整備されているのでしょう。テロスという街に続く街道だそうです。
ニコさんは街道をカランコロンと歩きます。
「しかし、お腹が空いたわ。そういえば今思うと私、うぇぇ。なんてもの食べてきたのよ。う、おぇ」
バラエティに富んだゲテモノを美味しそうに、それはもう美味しそうに食べてきた過去を思い出し、唐突に吐き気に襲われるニコさん。
当時はまったく気にならなかったのに、これは体が変わったからというよりは、蝙蝠の時よりも分別がつくようになったからでしょう。ほぼ本能で生きていたあの頃とは違うのです。
それでもお腹は空くもので、時折魔法で水を生み出して誤魔化していましたが、いい加減元気もなくなってきました。元々食いしん坊なタチなので、断食など性に合うわけもないのです。
「うぅ、そういえば吸血鬼って、吸血鬼なのよね。人間の血も吸った方がいいのかしら。ネロのところにいた時は魚とか木の実とかも食べたけれど」
ニコさん調べでは、吸血鬼はヒトの生き血――引いては精気や魔力を吸い、自らの力として取り込むことができるらしいです。そして、その力が増えた分、自分の器の許容量も大きくなるため、長く生きて血を多く吸った吸血鬼というのは本当に強くなるようです。
しかし、別に普通の食べ物も食べられるようで、要するに血を吸うという行為は自分の器を拡張するための行為だということも言えます。
また、血には生きた血と死んだ血があるようで、死んだ血――つまり死人から得たモノや採取されて時間の経ったものはほとんど力が残っていないようです。生きの良い新鮮は栄養満点ということですね。
ちなみに、吸血対象をゾンビにしたり眷属にすることもできるようですが、これはやろうと思わないとできない。言い換えれば普通に血を吸う分にはそういったことはないらしいです。
具体的には、吸血鬼の因子を傷口から注入したり、自らの血を飲ませるといったことで成立するのだとか。
さて、メリットの多い吸血行為ですが、実は大きな副作用も隠されていました。
それは、吸血行為がある種の快感を伴うということです。吸血される側ですね。
これは、獲物が逃げないようにという意味があると言われていますが、吸血鬼同士の愛情表現としても使われます。つまり――。
「うん、無しね」
ニコさんはそう言って頷きました。
集合意識に潜ってブツブツと呟いていると、前の方から「おうい」と声が掛かります。いつの間にか三人組の男女が近づいてきていたのです。鎧に身を包んだ男がガシャガシャとニコさんに手を振っていました。
内心ビクッ!としたニコさんですが、それをおくびにも出さず手を振り返します。
「やぁ、ここいらじゃ見ない顔だね」
「珍しい服!」
ローブの男と軽装の女性が続きます。
「ごきげんよう。何か用かしら?」
ニコさんは若干目を泳がせながら三人に挨拶します。
「何か用かって、こんな森深くに女が一人、何かあったのかと思うだろう?ほら、僕たちは組合のものだよ。その様子だと、特に困ってるわけじゃあなさそうかな?」
ああ、なるほど。親切な人か。ニコさんは納得しました。
鎧の男は首から下げた銀のプレートをニコさんに見せています。恐らく、組合とやらの登録証的なものなのでしょう。
「ええ、ありがとう。でも、私のことは気にしなくても大丈夫よ」
男たちは「なら良かった」と言ってそのまま迷宮の方へ向かいます。
「あ、そうだ」
ニコさんもさっさと立ち去ろうとしたのですが、再び声を掛けられました。
「やたらムキムキのやつとローブ姿の男二人組、どこかで見かけなかったか?アルバとベインって賞金首なんだが」
それを聞いて、ニコさんは自分を焼こうとしたりドラゴンをぶん殴ったりしていた二人組を思い出しました。そう、あいつら賞金首だったのね。ニコさんは迷宮を指さしました。
「そうね、迷宮で見かけたわよ。結構奥の方にいたわ。もう何日も前だから、まだいるかはわからないけどね」
「へぇ、じゃあ貴女は一人で迷宮で?相当腕に自信があるのかな?」
「さぁ、どうかしら」
ニコさんがそう言うとローブの男の目が光ったような気がします。ちょっとまずかったかと思ったニコさんは「それより」と話を逸らすことにしました。
「私も少し訊きたいのだけれど、あなたたちはセレスティアなんてところがどこにあるか知っているかしら?」
「セレスティア?神話の?」
「セレスティアなら空にあるって話だろう?実在はしないんじゃないか?」
軽装の女と鎧の男が答えますが、あまり参考になる回答は得られませんでした。
ニコさんは「空……」と少し考えますが、ネロに入口の鍵をもらっていますし、少し違う気がします。
とりあえずこれ以上得るものはないか。ニコさんはニコリと微笑むと、三人に別れを告げる。少し怪しまれている気もするので、さっさとこの場を去りたいのだ。
「そう、ありがとう。じゃあ、私は失礼するわね。ごきげんよう」
「ああ、引き留めて悪かった。気を付けてな」
「ええ、お互いに」
「じゃあね、バイバーイ」
軽装の女が大きく手を振るのに、ニコさんも手を振り返しました。
ローブの男は最後までこちらを見ていましたが、初めての人間との接触は和やかに済んだといえるでしょう。特に、いきなり襲われるなんてことがなかったのは一安心です。
「大丈夫、変なことしなければ怪しまれないってことね」
よしっと気合を入れなおすと、ニコさんは再び街道を歩き始めました。




