011 深淵王の独白
2022/08/29 諸々修正しました。全体のストーリーには大きな影響はありません。ないはずです多分。
どれくらいぶりだろうか。麿の変わらぬ世界に変化がもたらされたのは。よもや数十年程度ではないじゃろう。
外の森の入り口で寝こけていた蝙蝠はこの辺りにはおらぬはずの種。少し見てみれば、器と魂が嚙み合っていないチグハグな存在だった。
輪廻転生というのは基本的に魂にあった肉体で起こる。高度な知的存在を経験した魂が再び獣に落ちることもあるが、それは実際に魂の獣性が高い故。
しかし、目の前の蝙蝠はそうではない。ヒトの魂がむりやり蝙蝠の体に入れられたような状態だ。恐らくは異界の魂が非正規のルートで渡ってきたのであろうよ。そういうことはあると聞く。まったく誰の悪戯か。
しかし、これは折角の機会でおじゃる。
そう思った麿は、この蝙蝠の魂に適合する肉体を与えた。まぁ、成長進化させたと言う方が正しいか。
そうして生まれたのは喧しい女吸血鬼。よくよく見れば、ニャナの実とマナの実を喰ったのだろう。右目が黄金――神の瞳となっておった。
話を聞いてみれば、どうやら麿の封印されている迷宮の入り口付近にいた吸血蝙蝠が遥々ここまでやってきたというのじゃ。吸血蝙蝠が一匹でここに来るとは、正直なところ信じられないが、まぁ嘘ではないのじゃろう。
麿はこやつに一つ賭けてみようと思った。
このまま悠久の時をここで過ごすのは些か退屈に過ぎる。いい加減、麿とて解放されたい。
麿がここを出るにはアルビオの首輪を外さねばならぬ。それにはフラウが必要じゃ。
この蝙蝠――ニコにはフラウを解放してもらおう。
そうして麿は蝙蝠を使いに出したのじゃが、そのあとも何故か人間が二人、蛇が一匹ここを尋ねてきおった。
驚くべきことに、蛇はニコと同じように歪な在り方をしていた。故に、麿はこの蛇にも適当な身体を与えた。
聞けばこの蛇、ニコを追って来たらしい。
一目見た時からどうしても魅かれ、何故だか追い掛けなければならないと感じたというのでおじゃる。
「はじめは喰っちまいたいのかと思った。けどよ、そうじゃねぇンだ。分かんねぇ、アイツを追わないといけねぇンだよ俺は。アイツにあって、何かを確かめなきゃいけねぇンだ」
そう言ったやつの顔は、何やら苦しそうに歪んでいた。
恐らく、この蛇の魂はニコの魂に魅かれておるのじゃろう。前世からの因縁があるのじゃろう。
ならば、こやつも使えはしないか。麿はこの蛇にマヤの実を与え、ニコにしてやったのと同じように魔法を与えた。
残念なことに、こやつはニャナの実を喰ってはいないので、森羅万象を司るには足りない。しかし、単純な現象を操る程度ならばできる。
ちなみに二人の人間はどうやら麿のアビスを隠すように存在している別の迷宮の最下層を目指していたらしい。
ルートを間違えて入ってきたというが、そう簡単に来れるはずはないのじゃがなぁ。
結局、二人の人間――アルバとベインといったか――はアビスの入り口まで送り返し、蛇の方は蝙蝠同様地上まで送ってやった。
「さて、どうなることやらのう。フラウよ」
麿は愛しの君に想いを馳せると、いつものように独り偽物の空を眺めた。




