~ 38 ~
食事を終え店を出ようとすると、マスターが頼みもしないのにミルク入りの紅茶を差し出してきた。
彼はまだまだ言い足りないといった感じで話しかけてくる。
「帰ってきた娘たちの話によると、化け物の正体は大きな蝙蝠の悪魔だったらしいね。 それがルーマに化けていたとか」
「悪魔が人間に化けていたのか、そのルーマって奴が悪魔に魂を売って化け物になったのかは解らないけどな」
「俺は絶対に前者だと思うけどね」
「どうしてそう言い切れる」
「なに、ルーマと言えば丘の屋敷に住む美しい貴婦人として、この町では知らない人が居ない有名人なんだよ。 まぁ、この小さな町ではだけどな。 容姿端麗で財産もある彼女が悪魔に魂を売るなんて、有り得ない話さ」
「そんなもんかねぇ」
ブライトは昨夜のルーマの姿を思い浮かべて、思わず身震いをする。
そしていまいち納得できないといった様子で、頬杖をつきながら出された紅茶をすすった。
「今日も美味しかったです!」
食後のお茶も飲み終え、改めて席を立とうとしたレイヴァンたち一行をマスターが再び呼び止めた。
「旦那たちはこれから何処へ向かうんだい?」
「当ては無い」
「例の悪魔を追っていくのだろう? なら、良い情報がある」
三人は無言で彼に話の続きを促した。
「ここから東に五日ほど歩くとオールトっていう大きな街があるんだが、そこでも若い女性が突然居なくなったり殺されたりする事件が起きているらしい」
「また若い子が……」
がっくりと肩を落とすブライトを横目にマスターは得意気に話を続ける。
「情報は、それだけじゃない。 そこの街にはでっかい修道院があるんだが、そこが荒れているって話さ」
「荒れているとは?」
「なんでも修道士や修道女が街に出て遊んでいるとかで、その原因が悪魔にあるとか」
「……そうか、世話になったな」
レイヴァンは少し立ち止まって考えた後、店の外に向かって歩き出した。
その姿を見てブライトが慌てて声をかける。
「レイヴァン、まさか今からそのオールトっていう街に向かうつもりかよ!?」
「そうだが?」
「もう昼だし、今から出てもすぐに夜になるって!」