~ 20 ~
店の戻るとテーブルには食べかけの食事が散らばっていて、床には酒を注ぐ木製のグラスがいくつも転がっていた。
荒れた店内を見て何か事件が起こったのではと訝しんだが、転がったグラスの側にブライトが満足そうな笑みを浮かべて眠っている。
レイヴァンは一瞬笑みを浮かべて借りた部屋へと足を運んだ。
階段を上り、短い廊下を歩いて借りた部屋の前まで辿り着く。
静かに扉を開けると、すぐに異変に気が付いた。
飛び出す前までベッドで寝ていたリルが居ないのだ。
周りを見渡したが、どこにも居ない。
「リル!」
声を出して彼女を呼んでみても、反応は一切返ってこない。
レイヴァンは飛び出した窓際に近づき外を見渡した。
寝呆けていても流石に転げ落ちることはないだろう。
外で動く物を何一つ見つけることができなかった。
町は暗く、完全に寝静まり返っている。
天高く上った紅い月の明かりが彼を照らし続けた。
この深夜に彼女が勝手に遠出するとは考え難い。
そうなると、一つの考えが浮かんでくる。
誘拐。
レイヴァンは一階へ降りると店の奥で片付けをしていた従業員を捕まえて話を聞いたが、閉店後に来店した者はいないと即答された。
盗賊が他人に気づかれるような真似はしないと思うが、よく考えれば店の二階の一室に忍び込んでまで人をさらうだろうか?
余程の理由がなければ、やらないだろう。
初めて訪れて間もない町で恨みを持たれた筋合いもない。
だとすると……
レイヴァンの脳裏に先ほど倒したガーゴイルが最後に言い残した言葉が浮かぶ。
「ルーマっていう奴か」
新しい可能性に気がついたレイヴァンは呟くと床で眠るブライトを叩き起こし、二人で店の外へと飛び出した。
目指すは、追いかけた魔物が飛び込んだ屋敷。