第5話 きんもくせいの手紙
今井さんへ
もうすぐ二学期も終わりですね。
覚えていますか?
わたしが駅で困っていた時、声を掛けてくれましたよね。すごく助かりました。
劇のエキストラの募集があったとき、また今井さんと話ができるかもしれないと思って、すぐに自分から応募しました。
でも今井さん、途中からあまり練習には来てくれませんでしたよね。
それが少しだけ残念でした。
文化祭の劇、とても楽しかったです。わたし、まだ台本を大切に持っているんですよ。
たぶんあのころには、今井さんのことが好きになってました。
あの金木犀の公園で、付き合ってほしいと言われたとき、本当は飛び上がるほどうれしかったです。
でも、従兄弟とのことがあって……正直に言うのが、あんなに苦しいことだとは思いませんでした。
山崎さんって、本当にいい人ですね。
(はじめて会ったときは変な人だと思いましたけど……)
あの駐輪場での出来事は、きっと一生忘れないと思います。
あんなに怖くて必死な今井さんを見て、頭の中が真っ白になって、何も言えず固まってしまいました。
でも、これだけは知っていてほしいんです。
わたし、一晩中泣いたんですよ……ほんとに、ばかみたいに。
今井さんのことが、悔しくて。悲しくて。それでも、やっぱり好きで。
わたしが、ちゃんと話せていればって、ずっと思ってました。
お見舞いのショートケーキ、どうもありがとう。
今井さんが走っていく後ろ姿を見て、やっぱりこの人が好きだって思いました。
それで、従兄弟のお兄ちゃんに電話をかけて、思い切って自分の気持ちを打ち明けました。
そうしないと、絶対に後悔すると思って……
そうしたらお兄ちゃん、「子供の時の約束だしさ……俺も好きな人ができたし……もう、時効にしようよ」だって!
もう、なんなのよー!
でも、これでやっと自由になれました。
まだ熱のあとのフラフラが残ってますけど、気持ちはとても楽になりました。
あの公園の金木犀、もう散ってしまいましたね。
今井さん、心の整理がついたら、また声をかけてくださいね。
……うまく話せる自信はないですけど。
わたし、待っていていいですか?
早川なつみ
(完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
まだまだ公開を控えている短編がたくさんありますので、準備ができ次第、また新しい物語をお届けする予定です。よろしければ、また覗きに来てください。




