10 はじめてましての二人
大勢の受験者が受験者番号票を受け取りに並ぶ中、私はおろおろしていました。
いえ、本当に困っているわけではありません。
これでも私の身体はパパに鍛え上げられたおかげで随分屈強です。16歳のそこらの小娘に分け入っても、何の苦も無いでしょう。
ですがそれでは目立ってしまいます。
10歳の女の子が、年上の女性を押しのけ平然と受験者番号票を受け取る。
無いですね。そんなこと普通はありえないのです。
なので私は『人混みに分け入っていくことが出来ず困っている小さな女の子』という設定で、雑踏が落ち着くのを待っているのです。
ふと気がつくと、私の近くに一人の女性が立っていました。
金髪蒼眼の美女。奇妙な構造の銃剣を両手に持った、リグレットという名の女性。
「……こんなところに、貴女、何の用ですの?」
リグレットさんは、口を開くとさっそく私のことを否定してきました。
いや、分かりますとも。10歳の女の子がハンター試験を受けるなんて
「あのっ、私、ハンター試験を受けにっ!」
「そんなの分かりきっていますわ。なぜ受けに来たのかと聞いているのです」
「……そうですよね。私みたいな子供が試験を受けるなんて変に思われて当然なのです」
私は脳内設定を思い出しながら、精一杯演技します。
今回は『ハンターのパパにあこがれて、いてもたってもいられなくなって黙って試験を受けにきた純朴な子供』という設定です。
ふふ。この完璧な演技、みな騙されること間違い無しでしょう。
作り笑いや態度を装うのは、貴族に生まれたお陰で慣れっこなのです。
しかし、私の予想を裏切る一言がリグレットさんの口から飛び出たことで、私の演技の皮は剥がされることになります。
「そういうことを言っているのではありませんわ。子供というのなら、私も14歳です。人のことを言える立場ではありませんもの。……それよりも、どうして『ダズエル子爵令嬢』がこんなところにいるのですか?」
思わぬ言葉が飛び出た瞬間です。私は純朴な子供の演技を忘れ、本気で警戒する視線をリグレットさんに向けてしまいました。
内心、後悔しました。しかしもう遅いです。こんな反応を見せてしまった以上、取り繕うのは無意味。
「……どうして私がダズエルだと?」
「その赤く宝石のように透き通る髪は、そうそう見られるものではありませんもの。特別な血統の証ですわよ。知る者が見れば、貴女の髪と瞳だけでダズエルの名が出て来るのは当然のことですわ」
ああ、盲点でした。というか、すっかり忘れていました。
ダズエル家が代々受け継ぐ紅く透き通る宝石のような頭髪と、猛禽類のような金色の瞳。
これは確かに、貴族社会に属する我が国の人間であれば、すぐにダズエル家と結びつけて考えるでしょう。
「リグレットさんは、貴族の方なのですか?」
「まあ、そんなところですわ。……いえ、お待ちなさい。なぜわたくしの名前をご存知なのです」
ちゃきっ、と音が鳴ります。リグレットさんが銃剣を握り、臨戦態勢を整えています。
「あわわ、そ、それは他の受験者さんが前期試験ですごかったとか噂していたのを聞いて……4属性も魔法が使えるなんて、すごいのです!」
私はどうにか話を逸らそうと試みます。
「わたくしが凄いのは当然のことですわ。それよりも、最初の質問にお答えなさいな。なぜダズエル家の子爵令嬢がこんなところに来ているのです?」
ああ、これはダメみたいなのです。
どうやらリグレットさんは年齢以上に頭が良いのでしょう。簡単には誘導に引っかかってくれません。
「――おい、そこの二名! 受験者でないなら出ていってもらおうか!」
不意に、試験官の女性の声が響きました。見ると、受験者番号票を受け取る受験者の列はほとんど捌けていました。
いつまでもたむろっているのは、私とリグレットさんだけになってしまいました。
「ほ、ほらリグレットさん! 番号票を受け取りに行きましょう! ほら、なのです!」
「ちょ、ちょっと貴女!?」
私はリグレットさんの背中を推して、無理やり連れて行きます。こうすることで、話をぶつ切りにして終わらせたかったのです。




