03 カミさまの贈り物
……カミさまを無視して、私はスタスタと街道を歩いていきます。
封印も二段階まで解除して、容赦ない速さで進みます。
当然カミさまも容赦ない速さでついてきます。
「ねぇユッキー、ごめんってぇ~」
私が怒っているのを気にして、カミさまは何度も後ろから謝ってきます。
「お願いだから、許してよぉユッキーぃ……」
「もちろん、許しているのです。ただ、怒りが収まらないだけなのです」
「そんなぁ」
カミさまの悲嘆する声が聞こえます。
「そんなに悪いと思っているなら、最初からトンデモ能力なんて与えなければ良かったのです!」
「いや、本当に悪いと思ってるよぉ……でも、転生させる時はこれぐらいやっちゃった方が面白いかな? って思っちゃってぇ」
「面白いのはアンタだけなのです!」
私はついに怒って立ち止まり、カミさまの方を振り向いて言います。
「あ、こっち向いてくれたね♪」
「……な~に嬉しそうにしてるのです!」
カミさまの態度にあきれてしまい、私はとうとう怒っているのも馬鹿らしく思えてきました。
「まあまあ、機嫌直してよユッキー。お詫びにいいものあげるからさぁ」
「……いいもの?」
私は途端に目を光らせます。
「どんなものなのです?」
「それはこれ。護身用のナイフ」
カミさまは、どこからともなく一本のナイフを取り出しました。
白を貴重にした鞘に、金の装飾。持ち手も同じく白。儀礼剣のようにも見える、上等なデザインです。おそらく、高価なものでしょう。
ただ、10歳の乙女心をくすぐるには弱いのです。
「……はぁ」
「ちょっとちょっと、そんなため息つかないでよ。このナイフ、私お手製の素晴らしい魔法ナイフなんだからね?」
「どうせまた神殺しとかそういうトンデモ能力を持ったナイフなのです」
「違うって! 反省してるからそんなの贈り物にしないよ……もう、信用無いなあ」
信用を地の底に落とした張本人に言われたくないのです。
「まあ、とりあえずナイフを鞘から抜いてみて」
カミさまにナイフを無理やり持たされ、言われるがままに私はナイフを鞘から抜きます。
刀身は、金属ではないようでした。黒紫の、鉱物のような刀身に、白く細い線が何本も波打っており、不思議な印象を受けます。
「そのナイフは、暗黒竜の牙に私の髪の毛を編み込んで作ったもので……」
「はぁ? キモいのです」
「いや、話最後まで聞いて? っていうか、編み込んでるの神の頭髪だからね? キモいとかより、まずすごい貴重なんだからね?」
「貴重さより、カミさまが自分の体毛をプレゼントしようとしている事実がキモいのです」
「……泣いていい?」
「ダメです」
カミさまは、律儀に涙を堪え、瞳がうるんだまま説明を続けます。
「……とにかく、そのナイフは特製の刀身で、全ての封印を解除したユッキーが全力で魔力を流し込んでも壊れないようになってるんだよ。……いや、切れ味は普通の業物レベルだから殴らないで? 拳を構えないで?」
「……まあ、切れ味がギリギリ常識の範疇に収まっているので許してやるのです」
普通の業物レベルの武器なら、お屋敷に戻れば山ほどあるでしょう。もっと貴重なものもあるはずです。
「で、そのナイフは特殊な機能があってね。流し込んだ魔力に応じて、魔法の刀身を生み出すんだ」
「魔法の刀身?」
「ほら、ユッキーがお父さんと戦った時に出した光の大剣みたいな」
なるほど。
つまり、このナイフは魔力を流し込むと、魔力で出来た刀身を生み出せるというわけなのでしょう。
「じゃあ、ユッキーさっそく試してみて。流し込んだ魔力と持ち主の意思によって、自在な刃を生み出せるからね。例えば炎の大剣とか、水のレイピアとか」
「なるほど……」
正直、心躍ってしまいます。
これでも好奇心は強い方だと思っていますし、前世では男子だったのです。
こういうカッコイイ武器はなんというか、興奮しちゃうのです。
早速私は、ナイフに魔力を流し込んでみます。
魔法を使う訓練をしたことが無いので上手くいくか心配でしたが、かなり浅いイメージをしただけで、あっさりとナイフは反応してくれました。
とりあえず、作ったのは雷の剣。
ビリビリと電気がナイフの鍔から稲光り、私の身長ぐらいの長さだけ伸びています。
試しに、近場にあった岩に振り下ろしてみます。
スパリ。岩は簡単に切れてしまいました。
しかも、断面は電撃によってチリチリに焦げています。
「……普通の業物の切れ味だったのでは?」
私はカミさまを睨みつけます。剣を構えて。
正直、この切れ味は業物ってレベルではありません。
大した力も入れずに岩を切れる剣があってたまるものですか。
「いや、魔法剣の切れ味はユッキーのイメージ力次第だからね!?」
「ふむ。つまり私が願えば全く切れないナマクラ剣にも出来ると?」
「そういうこと」
「えい」
私はさっそくイメージを反映し、雷の魔法剣の切れ味を無くしてみました。そのまま、カミさまに振りかぶります。
「うべべべべっ!」
カミさまは電撃に痺れ、変な声をあげます。
十秒ほどカミさまで威力テストを行った後、私は魔法剣から力を抜きます。
「うぐぅ……ユッキー、けっこう鬼畜?」
「なにを言うのです。あなた神なのでしょう? 試し斬りされたぐらいではどうせ死なないだろうと思っているのですが」
「いや、まあ実際死なないけどね?」
改めて口にされると、やっぱりドン引きしてしまいます。
「できれば、ああいうのはやめてほしいなぁ、なんてね? 神でも傷つくのですよ? 痛い時は痛いのですよ?」
「……それはいいことを聞いたのです」
こうして、私はカミさまへのお仕置き棒……もとい、便利な魔法剣を手に入れたのです。
これからカミさまが気に入らなかった時は、お仕置き棒に活躍してもらいましょう。
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