38話 部下への圧は計画的に
俺の勤務先であるギルド<イーノレカ>は新規参入して間もない冒険者ギルドである。
低難度の依頼しか受けられない上に単価も安く設定してあるが、そのギリギリをいく価格設定と新興ギルドとしては規格外の知名度のお陰か、依頼がひっきりなしにやって来るので数をこなすことでそれなりの利益は出せている。
そして今日は二人で行う依頼はなかった為、俺とルミエナは日中それぞれ各自で依頼をこなし、すっかり日も暮れた辺りで、報告書の作成と夜勤の準備の為に一度ギルドハウスに戻ってきたところ――。
「――貴方、仕事を何だと思っているの?」
ファルの冷たい声が室内に響いた。
一瞬俺に理不尽な怒りを向けられたのかと思ってゾクリとしたが、どうやら違うようだ。
受付の椅子に座っているファルの向かいにはルミエナが立っている。俺に背を向けているため表情は見えないが、ファルの迫力に押されているようで、いつも以上に縮こまってじっと下を見つめている。
俺の帰社に気が付いたファルは、一瞬だけこちらに目を向けるがまたすぐにルミエナの方へと視線を戻し。
「黙っていないで何か言ったらどうかしら?」
再びルミエナを詰め始め、ルミエナは俯いたままそれを黙って聞いている。
経緯はわからないが状況はなんとなくわかった。どうやら説教をしているようだ。
ファルのことだから意味なく説教、ということはないだろうし、俺は俺で気にせず報告書の作成に取り掛かるべきなのだが、どうにも気になる……。
もし今の説教が特にルミエナに落ち度がなく、ただ立派な社畜にする為に自尊心その他諸々を削り取るために行っているだけなのだとしたら、話は変わってくる。
社畜になりやすいタイプというものがあるのではないかと、俺は思う。
まず『真面目すぎる』というもの。
仕事をする上で真面目というのはブラック・ホワイト関係なく大きな武器だ。真面目であるということは、それだけ真剣に仕事に取り組み、責任感を持って仕事に向き合える。
だが真面目すぎる場合、その真剣さ、責任感が仇となる。
真面目すぎる人はその性格から、どんなにきつい環境で働かされてもそれに不満を感じず、或いはたとえ感じだとしても黙々と仕事をしてしまう傾向にある。辛いと感じていても周りの空気やら状況などを勝手に察してしまい、「自分が頑張ればいいんだ」と結論を出してどうにかしようとする。
次に『純粋すぎる』というもの。
会社というのは一部の例外を除いて殆どが縦社会だ。上司が命令を出し部下が実行する。故に、純粋な人ほど人を疑わず、それが例え理不尽な命令だとしても「上司の言うことだから」だとか「それが当たり前なのか」と捉えてしまい、ブラック企業側にとって都合の良い言葉・思想を信用してしまう。
最後に『自分に自信が持てない』というもの。
ブラック企業は理不尽のオンパレードでパワハラも横行している。厳しく罵倒されることも珍しくない。もし自分の能力に自信があるのであれば罵倒されたところで反発するし、一つの企業に固執する必要性もなく、能力を活かせる企業へ行こうとするだろう。
だが自分の脳力を信じられないタイプだと、罵倒や言葉の内容を素直に受け入れてしまい、どんどんと言いなりになり、自信も持つことが出来なくなる。そして結果として「他に行くところもないし……」と勤務し続けることになってしまう。
他にも要素は色々あるだろうしこの考えが正しいと断言は出来ないが、俺はこれらの要素がある人ほど社畜の素質があるのではないかと考えている。
……話を戻そう。
何故ルミエナに対してただ立派な社畜育成を目的とした説教が不味いのかというと、ルミエナはこれらの社畜になりやすい要素を全て兼ね揃えているからだ。
俺が満足しているぐらいの他者にとっては過酷な労働環境で働く真面目さ。最初は夜中も働くということに戸惑っていたものの、断ることもなく続けている純粋さ。そして数多くの魔術を構築できる能力を持ちながらも自分に自信を持たず、他のギルドに移ろうともしない。
確かに理不尽な叱責・罵倒は従順な思考停止社畜を作るためには必要不可欠な要素ではある。
時には人格を否定し、また時には人前で怒鳴ることによって恥ずかしさや惨めさを大いに感じさせ、人生で築き上げてきた価値観もプライドも何もかもを破壊するところがスタートライン。そこから「このままで悔しくないのか」という煽りや、「ここを乗り切れば人としての成長が云々」など「家族・仲間・支え合い助け合い」という言葉を巧みに織り交ぜ、使い分け、従順な社畜を作り上げる。
しかし既に社畜素質の塊ともいえるルミエナには、自尊心やその他諸々を削るような理不尽説教やパワハラは必要ない。適度にメンタルをコントロールし、徐々に負荷を上げていく方がギルドの益になる筈だ。
「あー、ちょっといいか?」
だから俺は二人の間に割って入った。
上司が指導教育しているところに口を挟むだなんて言語道断。普段の俺なら絶対にやらないし、やろうとすら思わない。だがこうやって行動に移せたのは今の労働環境が提供されているのはルミエナの力があってこそだと感じているからだろう。
「何? 取り込み中なのだけれど」
ファルがこちらを睨み、キツイ視線が刺さる。
前世でも顧客や上司に圧をかけられたことは少なくないし、現世だと初めてゴブリンやリースと対峙したときに肉体的な危険を感じたことだってある。そして今のファルからはそれらと同等以上、しかも何故か肉体的な恐怖まで感じてしまう。
そんな視線を俺が戻る前から一身に受け続けていたであろうルミエナが、顔を俯かせ、とにかく目を合わせないようにして、何も言えなくなっているのも無理もない。
とはいえここで俺までビビってしまっては意味がない。
「一体何があったんだ?」
あくまでも平然を装いながら事情を尋ねると、ファルは不機嫌そうな態度を前面に出したまま「ん」と顎で机の上にある紙束を指した。それ以上言葉が続く様子でもなかったので、紙束を手に取り読み始める。
「ふむ……」
紙束は今日ルミエナが担当した依頼の報告書だった。
ギルドでは依頼を受領した際、報告書の作成と管理局への提出が義務付けられている。
報告書には誰からのどんな依頼か、依頼のためにどんな行動をしたのか、そしていくらで請け負ったのか等の必要項目を記入する。そしてその報告書は管理局が各ギルドの実態などを把握するために利用したりするらしい。
報告書は一枚モノであるため、報告書の枚数=取り組んだ依頼の数ということで、それが紙束だと認識出来るレベルまであるということは、それだけルミエナ一人で多くの依頼をこなし、既に報告書の作成までを終わらせているという何よりの証拠である。
のだが……。
「なるほどな……依頼の失敗か」
報告書の中には依頼に失敗した旨が書かれているものが混じっていた。
納品物の種類を間違えたり、数が足りなかったり。割合で見れば一割にも満たない件数ではあるが、しっかり確認すれば起こり得ないようなミスばかりだ。
ファルはこの件でルミエナに怒っているのは間違いないだろう。
しかもただ怒るだけでなく、ここまでの圧を感じるってことは……。
「もしかしてクレームか?」
まだこちらの世界では遭遇したことはないが、人を相手にする商売ではこちらに落ち度があった場合……いや、なかった場合でも実に貴重なご意見や叱咤激励を頂くことは付き物だ。特に今回ルミエナが起こしてしまった「手元に届くはずのものが届かない」というケースは格好の餌食になり得る。
「別にクレームは貰っていないけれど、そういう問題じゃないでしょう?」
「まぁ、そうだな」
クレームがないのは不幸中の幸いではあるものの、別にクレームとは直接目に見える、耳に聞こえてくるものが全てではない。不満を直接言わないまま二度と利用してくれなくなったりだとか、周りの人たちにこちらにとっては不都合な評判を流す層もいる。
ファルはきっとそういったところを懸念しているのだろう。
「うちは今大事な時期なの。それをこんな初歩的ミスでギルドの評判を下げられると困るのよ」
静かに、それでも十分な怒気をはらんだ声で言う。
怒りが俺に向けられている訳ではないのに隣で立っているだけで、まるで俺にまで激励のお言葉を頂いているかのような気分にもなってきてゾクゾクしてしまう。
「…………」
そんな風に俺が一人で勝手に身震いしている横でも、ルミエナは未だ沈黙したままだ。
以前、ルミエナと初仕事をした時に失敗することについて会話したことがある。
今回の失敗は納品を間違えるという確認不足による初歩的なミスだ。きっと彼女の中では「してはいけない失敗」に分類されていて、俺があの時言ったように今は死ぬほどへこんでいる最中なのだと思う。深く反省しているのであれば問題ない。同じミスを繰り返すようなことはないだろう。
ならば俺は先輩としてフォローするとしよう。
「とりあえず依頼未達成分に関しては俺が引き継いでおく。明日謝罪と再交渉をしてこよう」
指定の期日を過ぎているものばかりなので依頼の再受注は難しいが、今後のことを考えると改めて謝罪などでの誠意を見せておくべきだ。ファルが気にしているのはギルドの評価・評判・実績・利益なので、それらを出来る限りカバーする手を打てば溜飲も下がる筈だと考えたのだが……。
「そういう問題じゃないわ。私はこの子の意識の低さを指摘しているのよ」
「いや、そもそも意識低かったらうちじゃやっていけないと思うぞ……」
労働時間と労働量に見合わない待遇に加えて、上司からの圧。
この世界の労働環境基準で考えるととっくに蒸発していても不思議ではない。
「ええそうね。でも今回の失敗はただの確認不足。大方仕事の慣れから気が抜けてたのではないかしら? この子の為にもここでしっかり気を引き締めておくべきなのよ」
確かにその意見はもっともだ。
けれどルミエナは大事な後輩だし、今もこうして声一つ上げずに深く反省した様子を見せている。絶対にルミエナは辞めないと思っているから指導しているのだろうが、万が一ということもある。ここは俺が間に入って取り持たないと。
「まぁ落ち着いてくれ。ルミエナもこうして反省しているみた――」
「今はこの子と話しているのよ。貴方は黙っていて頂戴。これは命令よ」
「承知しました」
ってしまった。命令と聞いて反射的に返事をしてしまった。
……仕方がない。こうなったら穏便に事を済ませるためにルミエナに入れ知恵しよう。
「まずは謝罪だ。とにかく謝罪だ。申し訳無いという気持ちを乗せて90度ぐらい頭を下げるんだ」
と小さく耳打ちした。
流れを見る限りルミエナは何の発言もしていないようだし、指導ということを考えれば何らかの発言があるまでは続くだろう。今回の件は完全にルミエナの落ち度であるため、まずは自分の非を認めているということを相手に示すことが適切な第一声。
その後は相手の発言に「ごもっともです」「おっしゃるとおりです」「はい」といった同意する相槌を打ちながら、ご指導の時間が終了するのを待つのが一番丸く収まる。
そう思っての耳打ちだったのだが……。
「…………」
それでもルミエナは沈黙を続けていた。
完全に気圧されていて言葉が出ないのかもしれないが、今の状態が続くのは良くない。
「言葉を繕う必要はないぞ。今お前が感じていることそのままに話すんだ」
その場に相応しい言葉遣いというのは勿論大切ではあるが、今は社外対応をしている訳ではない。ファルはルミエナのことを大事だと思っているからこそ、こうして時間を割いて指導の時間に割り当ててくれている。だから反省している気持ちを素直にぶつければ、きっとわかってくれる。
「…………」
だというのに、何も喋ろうとしない。
もしかしたら圧に負けて小さな声しか出せないのかもしれないと思い、近くで耳を澄ましてみても。
「すー……すぴぴー……すやー……」
聞こえてくるのは精々寝息のようなものぐらいで――。
…………。
……。
ってちょっと待て。いやまさか。そんな筈はない。
そう思いながらルミエナの正面に周り、腰を落とし、俯いているルミエナの顔を覗き込む。
「むにゃ……すぴー……」
寝ていた。
垂れ下がっている長い前髪の奥に見える瞼は完全に閉じており、しかし口は半開きで、何なら口元が若干よだれでテカっているぐらい、どこからどう見ても寝ていた。
「………………………………………………………………ねぇ、イトー」
「はい」
「起こしなさい」
「かしこまりました」
背中から感じる圧と視線と形容し難い恐ろしい何か。
この指示は例え俺じゃなくても、断るのは難しいに違いない。
「ルミエナ起きろ。起きてくれ。頼むから」
肩を掴み、体を前後に揺する。
「んぬー……」
立ったまま寝ている割には眠りが深いのか、軽く揺らしただけでは目を覚ましてくれない。秒ごとにファルからの圧が増していっているような気がして、暑くもないのに汗が吹き出してきた。
「早く起きないと死ぬぞ。…………多分俺も巻き添えで」
力を強くし、激しく揺らす。
数回ルミエナの頭が、ガックンガックンと揺れたところで。
「…………んぁ」
緊張で張り詰めたこの場には不釣り合いな、ぽけっとしたような声が聞こえた。
そしてゆっくりとルミエナの眼が開いていき、まだ眠そうな眼でこちらを見た後、俺の背後にいるファルに視線を移したであろうところで。
「…………あばっ、あばばばば……!」
即座に状況を理解したようで、一気に青ざめていた。
ちなみに俺は後ろを見るのが怖いので振り向かないことに今決めた。
「さて――何か言いたいことはあるかしら?」
まるでこの場の全てを凍りつかせるような、冷徹な声。
今のファルとまともに視線を交わせる者は居ないと思う。そしてルミエナもその例に漏れず、俺の方へと縋るような視線を送っている。
先輩としてどうにか助けになりたいという気持ちはある。ある…………が、流石にご指導頂いている際に居眠りというのは庇いきれる気がしない。許せ。俺は報告書作成に戻――。
「イドーざぁぁん…………」
れなかった。
ルミエナがまるで逃すまいと俺の服をガッチリと掴んでいた。なんならファルの視線から逃れようと俺を盾にして、ちゃっかり自分の体を隠そうとまでしていた。
「や、やめろ。俺を巻き込むな」
理不尽な怒りやご指導を頂くことには慣れているが今回はレベルが違う。
「でもでもイドーざん失敗したらたずげでぐれるっで言っだじゃないでずがぁ」
涙声を隠すことなく、いつもの引っ込みがちなルミエナからは考えられないほどの強い主張。それほど現状に危機感を持っているようだった。
「た、確かに言ったが今回は別だ。大人しくご指導を賜ってくるんだっ」
「む、むりでずぅ。じにますぅ」
どうやら生命の恐怖まで感じているようだった。
普段まともに視線を合わせてこないルミエナが涙で顔をグシャグシャにしながら真っ直ぐ訴えかけてくるぐらい、本人は切羽詰まっているらしい。
涙はともかく鼻水まで若干垂れ始めてきていて、長い前髪の奥に微かに見える眼の下には濃い隈が浮かんでいて、ただでさえ白い肌は血の気が引いているのかどう見ても顔色が悪くて――って。
「……ルミエナ、最後に睡眠取ったのはいつだ?」
「みっがまえでずぅ」
三日前……。
通りで顔に疲れが滲み出ている訳だ。
「貴方……そんなに寝てないの?」
背後からファルの声。
先程までの威圧的なものではなく、ただ事実を確認するような問いかけだ。
「…………えと、はい……寝てない、です」
相変わらず俺を盾にしているままだがファルの圧が和らいだお陰か、鼻水をグズグズとすすりながらも自分の口でそう答えた。
「なるほど……今回のミスは睡眠不足が原因ってとこか」
「そうね」
ファルと二人して頷く。
睡眠不足だと疲労感に倦怠感、集中力の欠如に免疫力の低下からくる病気リスクなどが生じ、それらは必ず仕事にも影響する。今回の件で言えばしっかり集中して取り組めていれば納品物を間違えるというような単純ミスは起こらなかった筈だ。
「でも変ね。貴方にはイトーほど仕事を詰めてないから寝る時間は十分にあると思うのだけれど」
「えと……はい……そうかも、です」
俺は毎日夜間も仕事しているが、ルミエナにはどうしても俺の手が回らない時にだけ夜勤にも入ってもらい、それ以外は日付が変わる辺りで退社して貰っている。ファルの言う通り寝る時間は十分にある。
「何か眠れない理由でもあるのか?」
この世界には当然ネットもテレビもないので夜間に出来ることは限られる。外も魔術陣を活用した照明がいくつか点在しているものの、数は多くないため基本的に暗闇で出歩くのにも不向きだし、そもそも開いている店もない。夜中に出来ることは限られる。
例えば読書が辞められなくて夜ふかししてしまっているという線も否定できないが、真面目なルミエナがそんなことで仕事に影響が出るほど睡眠時間を削るというのは考えにくい。
「お仕事のこととか考えてて……」
「仕事の?」
「は、反省点とか次のお仕事の段取りとか……こういう風に纏めてて……」
そう言ってルミエナは一冊の冊子を取り出し、差し出してきた。いつも抱えている魔術書に似た装丁だが、あれよりも半分以下の厚さの物だ。
俺はそれを受け取り、中を見てみる。
「……これは…………凄いな……」
中には綺麗に整った字で、びっしりと書き込みがされていた。
報告書よりも詳細な依頼の対応内容と、依頼一つ一つに反省点・改善点や継続すべき良かった点といったところまで、自分なりに考えて書かれている。他には翌日の計画が「どう動くのが一番効率的か」という観点から組まれているなど、仕事へ真摯に取り組んでいる姿勢が見て取れる内容だった。
ここまで濃い纏めをするのはかなりの時間を要するだろう。特に振り返り手法などのノウハウも持たないのであれば尚更だ。睡眠時間を削らなければいけないのも頷ける。
「へぇ……」
いつの間にか傍に来ていたファルが、同じように内容を見て感心したように呟く。
「ここ最近仕事が早くなったと思ってたけど、色々考えてやってくれていたのね」
「あ、あたし仕事が遅いからそのぶん準備したりしておかないとって思って……」
「それはいい考えね。けれど今日のように仕事に悪い影響を出してるようでは本末転倒よ」
「うぐっ……で、でもイトーさんが寝ずに頑張ってるから、あたしも休んでられなくて……」
先輩が頑張ってるから自分も頑張らないとっていう気持ちか。俺にも沢山覚えがある。休憩時間なのに先輩が休憩取ってないとこっちも取り辛かったりするんだよな……。
今回は俺がその先輩になってしまい、ルミエナに気を遣われてしまったようだ。
ここは一旦誤解を解いておこう。
「いや、俺ちゃんと寝てるぞ?」
「えっ」「え゛っ゛」
真実を口にしただけで、二人に凄い驚かれてしまった。
「貴方…………寝るの?」
「イトーさんでも寝ることってあるんですね……」
信じられないといわんばかりの反応。
俺がどういう目で見られていたのか若干わかった気がする。
「まぁ寝ないで活動を続けるってのには限界があるからな。睡眠は必要だ」
寝ないと死ぬ。それは俺が実際に経験したことだ。
今は転生の際に貰ったスキルがあるお陰で常識的なラインを超えたかなりの無茶は効くが、それでも全く寝ずに連日活動するのは限界がある。それに生死の話でなくとも、睡眠不足による作業効率低下などのデメリットは依頼をこなしていく上で障害になる。
「完徹する日も多いが、寝れる時はしっかり二時間は寝てるぞ」
予定作業が終わり次第、出勤時間……夜明け前ぐらいまでは眠るといった感じだ。もちろん予定作業が終わらなければそのまま気合いで続行する。
「……それってしっかり寝たうちに入るのかしら?」
「び、微妙かもです」
個人的にはその二時間が重要なのだが二人にはピンとこないらしい。
「そんな短時間の睡眠じゃ普通の人は辛いわよね」
「まぁそうかもな」
言外に俺は普通じゃないと言われているがその通りなので同意する。
俺がここまで短い睡眠時間でも無理なく活動出来ているのはチート能力は勿論のこと、前世での知識・経験によるところが大きい。
ただ単純に睡眠時間を削ってしまうと時間通りに起きられない、起きられても日中の睡魔などで結局頑張って睡眠時間を削っても生産性が上がらないなどの結果になってしまう。
「でもやり方次第でなんとかなる面もあると俺は思う」
前世では過労死してしまった反省点と、短時間睡眠生活の知識と経験。そして今生で得たチート能力。それらを上手く合わせて短い睡眠時間での長期的活動を可能としている。
他の人が俺と完全に同じ生活スタイルを真似ることはきっと難しい。けれど近しいことは出来るのではないかと考えている。そして今回の件は、ルミエナの為にその考えを役立てるのには適切だと思った。
「だからルミエナ。短時間睡眠の練習をしてみないか?」
先輩として後輩の努力に応えつつもギルドの幸せと両立させる為。
短時間睡眠でも働けるよう、後輩教育を行おうと決意した。




