二章・二話
「いやぁー、まさかとも思わなかったねぇ…」
僕が失敗するなんて、と。何もない笑顔で奴は言う。
もうこれで最後の最期の最誤。役目は終わった。
「君にはもう少し期待していたのに。残念だな…いや、むしろ敢えて逆に歓喜で胸がいっぱいだというべきかな?」
「…俺は」
こんな事さえ、馬鹿馬鹿しく思えてくる。分かっている。俺が誰より責任を負うべき立場なのだから。
「まぁ前の事は前の事さ。後先の事を考えようよ。ね?」
後先。後悔したからこその、後先。否、後悔するべきだからこその、後先。
知らない方が幸せな事もある、とはよく言ったものだ。その通り、俺は知ったから不幸になった。知ろうとした事が不幸だった。不幸中の幸いなんてものは茶番にすぎない。このセカイは最初から悲劇でしか無かったのだ。
「そんな否定的にならなくても。でもまぁ、あれほど無感情だった君がここまで熱情家になるとはね。最初はすぐ死ぬだけの存在かと思いきや、こんなことをするまでになるなんて、誰も思わないよ」
前の事は前の事。どうにでもなってくれるなら、どうにでもなってしまえばいい。そんなどうにでもなってしまったセカイでも、俺は今と同じ場所にたどり着くなら、今ここで全て済ませてしまおう。
「おっ。ようやくやる気になってくれたかな?君のお望み通りに進めてあげるよ。何せ今は君が」
僕のご主人様だ。と。いつもの様に笑った。
「お前は、“何”なんだ」
奴は俺の眼と鼻のすぐそばまで顔を近付け、
「僕は君だよ。これからだけど、全てお互いがお互いのモノになれる。気付いたでしょう?」
俺は奴の眼を視た。初めて視た、それは。
「僕らは“主”だ。」
夢を見た。
昔いた国の人と同じ格好をした、男の子の夢。
私を呼んでいた。何度も、何度も。
怖い。けど、優しい。
そう。
お母さんみたいに。
「ビエールイー。起きたー?」
「んん…おはようー…」
寝ないの!そう言って布団を引っ張りあげたクラースヌイは、ベッドに備え付けられた机に、私の朝ごはんを置いてくれた。
「最近ずーっと眠そうだよ?ちゃんと寝てるの?遅くまで本読んでたりしてない?」
「してないよ、さすがに。実は最近よく夢を見るの…同じやつを何度も…」
そう言うと、クラースヌイがビクリとした。何か知っているのだろうか。
「…実は私もなの。私達の知らない、山の麓の街よりずっと賑やかな街の大きな道路でね、ピエロの格好をした女の子がね、私の事を呼んでいるの。何回も繰り返して…」
「私も!あっ、私は男の子なんだけどね…お母さんと同じ様な服を着ているの」
お母さん、という言葉に、クラースヌイが過剰なまでに反応する。
もう何十年も前に死んでしまったお母さん。私達を置いて、一人で居なくなってしまったお母さん。
その時の事を思い出しそうになるだけで涙が溢れてくる。
「…怖いよ…」
「大丈夫だよ。私達二人でいれば無敵だもん!」
「…うん!」
つづく




